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arc2|2007.03.29
(そんな血迷ったことを言うなんて、エルク、まさか悪いものを食べたんじゃ…っ)
とことん失礼な勇者である。トッシュにも、そして少々エルクにも。だが本人は真剣そのもので、知ったことではない。
左足を軸に180度回転し、アークは駆けだした。
「お、おい、アーク!!?」
腕を伸ばしトッシュは叫ぶが、アークは小さく手を挙げるだけで、振り返ることなく飛び出していった。
ゆっくりと腕をおろし、首を傾げたトッシュは、しばしアークが去った扉を見つめる。
「…ま、いっか」
アークの慌て顔に驚いたものの、エルクの正常を疑わないトッシュはその一言で納得し、鏡へと向きなおした。今度こそ鼻歌まじりで。
その後アークが廊下で見かけたものは、ある種の屍たちだった。
まず、ヂークベックが壁にもたれ、細い目をいっそう細めて宙にふわふわと視線をさまよわせていた。
機械にそうゆう表現が当てはまるのかは分からないが、一番近いのは『うっとり』だろう。
アークは無視したい気持ちを一心に押さえ込んで、立ち止まり、声をかけることにした。
被害者救済処置。そんな単語が浮かぶが、強引に頭から閉めだして。
「ヂークベック?」
言ってみて、そういえば自分は彼のことを『ヂーク』と呼んだことがないことに気付く。
親交を深めるためにも、呼んだほうがよいのだろうか?ヂークと呼ばれ、嬉しそうに応える機神を思い出す。
でもあれは、エルクだから?ポコだから?とも思わなくもなくて。
そんなことをつらつら考えていると、普段とは比べようもないほど鈍い動きで機神が自身を捉えた。
「ああ…勇者デハないカ。ドウカしたノカ?」
それはこっちの台詞だ!!と叫びたかったが、激しいツッコミは自重する。たしかに属性で言えば自分はツッコミに当てはまるだろう。だが、なんとなく嫌だ、ビジュアル的に嫌だ。だからアークはにっこりと微笑んですらみせた。
「いや?君がぼーっとしているみたいだから」
「ワシか?」
きょとんと尋ね返すヂークベックに頷けば、機神はまた目を細めてどこか遠くを見て、吐息をこぼした。
このあたりで、アークは自身の予感が的中していることを確信する。
「…はじめヴェルマー博士にコノ体を作ってモラッタときハ、アマリの面影のナサに凹ンダんジャが」
(凹んだんだ…)
そう脱力するアークは直には知らないが、機神ヂークベックはその昔、厳ついボディを持っていた。それが博士の絶妙なセンスによって、どこか憎めない姿へと変貌をとげてしまったのはそう遠くない過去の話。
まあそう教えてくれたエルクは、今の方がいいと小さく、仕方ないなと言うように微笑んでいたから、アークは見られなかったことを残念に思いはしないのだけれど。
「エルクが先ホド『オメーって、最高だよな』と言ってキタのジャ。最高トハ最も高いとイウことジャろう?素晴ラシイ!ワシに相応シイ言葉ジャ!」
そう金属の頬を上気させて熱っぽく話すヂークベックに、アークは動揺の意で頷きつつも、内心首を傾げた。
(エルクは悪いものを食べて混乱状態っていうわけじゃないのか…?)
てっきりそうだと思い込んでいたのだが、ヂークベックにかけられた言葉は、褒めているという点ではトッシュと同様だが、ニュアンスが違うように感じられる。そう、落ち込んだ人間をすくい上げる、普段のエルクがもつ、あの優しさそのままのようで。
(まあ普段というには…素直な感じだけれど…)
あまり口説き文句の類を、改まって言うタイプじゃないのは、この銀船に乗り込んでいる全員が知っているから。
ならば考えられるのは。
(自白剤を盛られた…とか?)
あまり進展していない考え方だが、アークはとことん大真面目である。人為的なことがない限り、エルクは素直になってはいけないらしい。
小さく頷いて、アークはヂークベックと目線をあわすためにしゃがみ込んだ。
「ヂークベック、エルクはどっちへ行った?」
「ヌ?この廊下をまっすぐジャが?」
「そう、ありがとう」
こうしてアークはヂークベックと別れ、次なる被害者の元へと辿り着くことになった。
グルガが壁に向かって逆立ちをし、そのまま腕立て伏せをしていた。
アークに言わせてもらえば、トレーニングをしているのは、彼と某修行僧にとって日課だから別段かまわない。自室でしているのならなおさらだ。
(でも、なにも)
廊下ですることはないと思う。
「グルガ。こんなところでどうしたんだ?」
そう尋ねれば、グルガは逆立ちしたままにっこりと笑った。
とことん失礼な勇者である。トッシュにも、そして少々エルクにも。だが本人は真剣そのもので、知ったことではない。
左足を軸に180度回転し、アークは駆けだした。
「お、おい、アーク!!?」
腕を伸ばしトッシュは叫ぶが、アークは小さく手を挙げるだけで、振り返ることなく飛び出していった。
ゆっくりと腕をおろし、首を傾げたトッシュは、しばしアークが去った扉を見つめる。
「…ま、いっか」
アークの慌て顔に驚いたものの、エルクの正常を疑わないトッシュはその一言で納得し、鏡へと向きなおした。今度こそ鼻歌まじりで。
その後アークが廊下で見かけたものは、ある種の屍たちだった。
まず、ヂークベックが壁にもたれ、細い目をいっそう細めて宙にふわふわと視線をさまよわせていた。
機械にそうゆう表現が当てはまるのかは分からないが、一番近いのは『うっとり』だろう。
アークは無視したい気持ちを一心に押さえ込んで、立ち止まり、声をかけることにした。
被害者救済処置。そんな単語が浮かぶが、強引に頭から閉めだして。
「ヂークベック?」
言ってみて、そういえば自分は彼のことを『ヂーク』と呼んだことがないことに気付く。
親交を深めるためにも、呼んだほうがよいのだろうか?ヂークと呼ばれ、嬉しそうに応える機神を思い出す。
でもあれは、エルクだから?ポコだから?とも思わなくもなくて。
そんなことをつらつら考えていると、普段とは比べようもないほど鈍い動きで機神が自身を捉えた。
「ああ…勇者デハないカ。ドウカしたノカ?」
それはこっちの台詞だ!!と叫びたかったが、激しいツッコミは自重する。たしかに属性で言えば自分はツッコミに当てはまるだろう。だが、なんとなく嫌だ、ビジュアル的に嫌だ。だからアークはにっこりと微笑んですらみせた。
「いや?君がぼーっとしているみたいだから」
「ワシか?」
きょとんと尋ね返すヂークベックに頷けば、機神はまた目を細めてどこか遠くを見て、吐息をこぼした。
このあたりで、アークは自身の予感が的中していることを確信する。
「…はじめヴェルマー博士にコノ体を作ってモラッタときハ、アマリの面影のナサに凹ンダんジャが」
(凹んだんだ…)
そう脱力するアークは直には知らないが、機神ヂークベックはその昔、厳ついボディを持っていた。それが博士の絶妙なセンスによって、どこか憎めない姿へと変貌をとげてしまったのはそう遠くない過去の話。
まあそう教えてくれたエルクは、今の方がいいと小さく、仕方ないなと言うように微笑んでいたから、アークは見られなかったことを残念に思いはしないのだけれど。
「エルクが先ホド『オメーって、最高だよな』と言ってキタのジャ。最高トハ最も高いとイウことジャろう?素晴ラシイ!ワシに相応シイ言葉ジャ!」
そう金属の頬を上気させて熱っぽく話すヂークベックに、アークは動揺の意で頷きつつも、内心首を傾げた。
(エルクは悪いものを食べて混乱状態っていうわけじゃないのか…?)
てっきりそうだと思い込んでいたのだが、ヂークベックにかけられた言葉は、褒めているという点ではトッシュと同様だが、ニュアンスが違うように感じられる。そう、落ち込んだ人間をすくい上げる、普段のエルクがもつ、あの優しさそのままのようで。
(まあ普段というには…素直な感じだけれど…)
あまり口説き文句の類を、改まって言うタイプじゃないのは、この銀船に乗り込んでいる全員が知っているから。
ならば考えられるのは。
(自白剤を盛られた…とか?)
あまり進展していない考え方だが、アークはとことん大真面目である。人為的なことがない限り、エルクは素直になってはいけないらしい。
小さく頷いて、アークはヂークベックと目線をあわすためにしゃがみ込んだ。
「ヂークベック、エルクはどっちへ行った?」
「ヌ?この廊下をまっすぐジャが?」
「そう、ありがとう」
こうしてアークはヂークベックと別れ、次なる被害者の元へと辿り着くことになった。
グルガが壁に向かって逆立ちをし、そのまま腕立て伏せをしていた。
アークに言わせてもらえば、トレーニングをしているのは、彼と某修行僧にとって日課だから別段かまわない。自室でしているのならなおさらだ。
(でも、なにも)
廊下ですることはないと思う。
「グルガ。こんなところでどうしたんだ?」
そう尋ねれば、グルガは逆立ちしたままにっこりと笑った。