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arc2|2007.03.29
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 彼の言う四次元ポケットから紙の束を取り出しぴらぴらっと目の前で揺らし、6枚めくりあげて、指をあてる。
 つられるように紙を覗き込んだエルクは、勢い良くその紙束をつかんだ。
「っ!…こ、これはせめて訂正」
「ダーメ。男に二言はない、でしょ?」
「……」
 じっと見てくる濃紫の瞳に訂正してあげたくなるが、残念ながら、エルクを可哀想に思う心と、自分の好奇心を満たしたい心とでは、圧倒的に後者が強かった。
「いいじゃん、ラストラスト」
 よくないっと叫ぶエルクに、強引に紙束を渡し、ポコは脚立から飛び降りた。見た目はポッチャリとしていても、初期メンバーにして現代七勇者の一人である。見事な着地を決め、振りかえってエルクに手をかざす。
「行こうよ」
 そう告げれば、仕方がないなとエルクがため息をついて、その身軽な体でポコに負けない優雅さで飛び降りた。
 そうして、2人歩み出そうとしたその時だった。
「こんなとこにいた」
 入口にアークが立っていた。

 ナーイスタイミング!ポコは内心親指をたてた。
 隣のエルクはものの見事に固まり、アークはそのエルクを見て、不思議そうに首を傾ける。
 しかしそれどころでないエルクは、錆びついたロボットのように、ギギギと音が聞こえるほどゆっくりと首を回してポコを見た。
「…」
 すごい、瞳だけでいろいろなことを語ってくれる。
 しかしポコは笑顔でそれに答えることでとどめた。
 そしてその反応にエルクは思っただろう。この鬼めっ!
 しばしポコを睨み、諦めたのか、ポコに向き合ったのと同様に首を回してアークへと視線を戻す。非常に顔が強ばっているのにポコは気付いたが、これも知らないふりで通すことに決めた。
「エルク?」
 アークはなおいっそう首を傾げ、エルクに呼びかけたが、張本人は顔色が優れない。
 それに、アークは眉をひそめた。
「…やっぱり、何か盛られた、のか?ポコといると聞いたから、安心してはいたのだが…」
 盛られた。その単語にエルクとポコは驚いた。そして、ポコは吹き出した。
「なるほどなるほど…くくく、確かに…っ」
 勇者がエルクによる被害者に出会って探しに来たのだと気づき、そう思えても仕方がないだろうと思う。
 隣で唐突に笑い出したポコに、エルクは訳が分からないと困惑した瞳を向けてくるが、残念、笑いをおさめるのに必死で答えられそうもない。
「違うんだな…」
 アークが心配顔を引っ込めて、額へと手をやり、小さく息を吐く。
「…う、うん。ごめんね、アークの言葉が…ふふっ、面白すぎて…っ」
 目尻に浮かんだ涙を指で軽く拭って、あー笑った笑ったと機嫌良くポコは微笑む。
「じゃあ…なんだったんだ?」
 もう一度首を傾けるアークに、ポコはちらりとエルクに視線をやることで、それに答えて見せた。
 またしても戻ってきた視線に、エルクは目をそらして、それから頭を乱暴に掻く。
(ありゃりゃ、そんな、妙に間を空けたらさぁ、より言いにくくなると思うんだけどなー)
 と思っていたら、もしかしたらエルクも気付いたのかもしれない。
 わざとらしく咳をついて、ビシッとアークへと人差し指を突き出した。
 そして。
「あ…あい………っ、無理だ、オレには無理だ!」
 ぎゅるりとポコへと顔を向けたエルクは、すごーく顔を真っ赤にさせていて、ひどーく焦っていた。
 とても、救いの手を差し伸べたくなった。
「エルク、頑張れ」
 しかし、内心どう思っても、情に流されず、ポコは笑顔すら向けて完全に突き放したのである。レベルは鬼ではなく、魔王だったらしい。
 この魔王め。そう思ったのかどうかは知らないが、エルクはポコが助けてくれないことを漸く悟って。
 どうしようもないことを理解して。
 もう一度アークに向き合うと。
「あ」
「…あ?」
 ごくりと唾を飲み込んで。
「っ、愛してるぜ!」
 最終任務をやりきったのであった。


「…あーっと、ポコ?」
 脱兎のごとく走り去ったエルクを止められなかったアークは、残った全ての鍵を握る人物へと視線を向ける。
 その顔は、混乱と、驚愕と、動揺と、少しの歓喜でごちゃごちゃだとポコは思った。