×ゲーム
arc2|2007.03.29
「ああ、アーク。先ほど嬉しいことがあってな」
「……嬉しいこと…」
すこしうんざりしてしまったアークに罪はない。だいたいの予想がついてしまったのだから。
「うむ。エルクが『アンタって羨ましいよな』と言ってくるので、何がと聞き返せば、『その…筋肉…とか』と言ったのだ」
うわぁ、ちょっと予想外。アークは思った。
やけにエルクの台詞を声まねしてリアルに言うグルガに、どうしようもなく離れたい気持ちにもなるが、そのあたりよりも気になるのはエルクの言葉自体。
(自白っていうのは…心から思っていること…だよな)
少し違うような気もしてくる。まあ、本当に思っているのかもしれないけれど。
ふむ、と顎に手をやっていると、足元から今までの推測を覆す言葉が聞こえた。
「そう言えば、一緒にいたポコが君を探していたようだぞ」
次に出遭ったのは、銀の髪をもつ忍者だった。
物思いに完全にふけっているらしく、窓にもたれて、流れる雲をその錆浅葱の瞳に映しながら、くるくると手に持ったコップの中身をスプーンでかき混ぜていた。
その中身。冷め切った様子のブラックコーヒーだと思われた。
今までと同様に、どうかしたのかと尋ねると。
「………………ふっ」
嬉しそうにしていたので、アークはそれ以上訊くのを放棄した。冷たい印象にとられるこの男が、ことエルクに関しては、そこらの父親よりも親バカなのであることを、大変よく理解していたからである。
そうして別れ、続いてアークが目にしたものは、満足そうに笑う歌姫と、少々顔が朱に染まっている占い師が話し合っている姿だった。
「あらあら、サニア。そんなに嬉しかったの?」
歌姫が尋ねると、占い師は大げさなほど振りかえった。
「っ!…っんなわけないでしょ!ただあたしは不意打ちに弱いの!あんなガキに褒められたぐらいで、嬉しくもなんともないわ!」
「そう?私は少しばかり嬉しかったけど?」
にっこりと、酒場にて老若男女を問わず、ありとあらゆる人間を魅了した笑顔を歌姫は占い師にむけた。それに驚いたのは、当然占い師。カッと大きな瞳を見開いた。
「え?…え、だって、エルクよ?」
「そう、エルクよ?無茶苦茶レアじゃない」
「…………たしかに…」
長い沈黙の後、合点のいった占い師はしみじみと呟いた。それに小さく歌姫は苦笑する。
「ね、まだアークやポコならまだしも」
「「あのエルクの」」
深く頷き合っていたので、アークはその開け放たれていた部屋を通りすぎるだけでとどめた。
そのころ船舶室にて、勇者が捜し求める件の二人組みがいた。
「ねえ、エルクったら。いつまで拗ねてんのさー」
ポコは隣の脚立を見上げ、そのてっぺんで見事なバランス感覚を用いて胡座をかく炎使いへと声をかける。
「…拗ねてねぇ」
「いやいやいや、そういう状態を世間一般では拗ねてるって言うんだよ?」
落ちてきた声はどう考えてもぶすっとしていたから、素直にそうポコが声をかければ、炎使いが黙ってジト目を送ってきた。
ポコは彼らしい仕草に小さく苦笑をこぼす。
「あのね、そんなとこも拗ねてるって言うんだってば」
「…そもそも、おめーのせいだろうがっ」
噛み付くように、エルクがポコを見下ろす。
が、その威嚇もポコ相手ではまったくもって通用しない。
「違うよ?エルクの運がなかったせいだもんね」
そう、彼が言っていることは、昨夜のポーカーのこと。
あの日、待機班だった2人は、早々にやることを終えて、暇を持て余していた。
そんなおりに、掃除をしていて時に見つけたトランプがそもそもの始まりだった。
お互い知っているポーカーを始めたのはいいものの、そのまま熱中してやりこんでしまい、勝っては負けてを繰り返し、お互いに負けず嫌いだったために終わりのめどがたたなくなってしまって。
『罰ゲームを加えない?』と提案したのだ。
紙を20枚用意し、それに罰ゲームを書き込む。そしてそれをシャッフルし、ゲーム開始と同時に開いて、負けたものが実行していくというルール。紙がなくなった時点で終了ということにして。
「もん、言うな」
エルクの声に過去から現代へと舞い戻されたポコはにっこり笑う。
「じゃあ、ボクの実力が凄かったもんねってことで」
「…おめー、オレの話聞いてねーだろ」
眉間を押さえるエルクに小さく微笑んで、脚立のてっぺんより一段下へとかけあがり、追い詰めるようにエルクに顔を寄せる。
顔を上げ、若干後ろへと身を引こうとしたエルクに、べっと舌をだして、
「ところでエル君。キミに最終任務です」
「……嬉しいこと…」
すこしうんざりしてしまったアークに罪はない。だいたいの予想がついてしまったのだから。
「うむ。エルクが『アンタって羨ましいよな』と言ってくるので、何がと聞き返せば、『その…筋肉…とか』と言ったのだ」
うわぁ、ちょっと予想外。アークは思った。
やけにエルクの台詞を声まねしてリアルに言うグルガに、どうしようもなく離れたい気持ちにもなるが、そのあたりよりも気になるのはエルクの言葉自体。
(自白っていうのは…心から思っていること…だよな)
少し違うような気もしてくる。まあ、本当に思っているのかもしれないけれど。
ふむ、と顎に手をやっていると、足元から今までの推測を覆す言葉が聞こえた。
「そう言えば、一緒にいたポコが君を探していたようだぞ」
次に出遭ったのは、銀の髪をもつ忍者だった。
物思いに完全にふけっているらしく、窓にもたれて、流れる雲をその錆浅葱の瞳に映しながら、くるくると手に持ったコップの中身をスプーンでかき混ぜていた。
その中身。冷め切った様子のブラックコーヒーだと思われた。
今までと同様に、どうかしたのかと尋ねると。
「………………ふっ」
嬉しそうにしていたので、アークはそれ以上訊くのを放棄した。冷たい印象にとられるこの男が、ことエルクに関しては、そこらの父親よりも親バカなのであることを、大変よく理解していたからである。
そうして別れ、続いてアークが目にしたものは、満足そうに笑う歌姫と、少々顔が朱に染まっている占い師が話し合っている姿だった。
「あらあら、サニア。そんなに嬉しかったの?」
歌姫が尋ねると、占い師は大げさなほど振りかえった。
「っ!…っんなわけないでしょ!ただあたしは不意打ちに弱いの!あんなガキに褒められたぐらいで、嬉しくもなんともないわ!」
「そう?私は少しばかり嬉しかったけど?」
にっこりと、酒場にて老若男女を問わず、ありとあらゆる人間を魅了した笑顔を歌姫は占い師にむけた。それに驚いたのは、当然占い師。カッと大きな瞳を見開いた。
「え?…え、だって、エルクよ?」
「そう、エルクよ?無茶苦茶レアじゃない」
「…………たしかに…」
長い沈黙の後、合点のいった占い師はしみじみと呟いた。それに小さく歌姫は苦笑する。
「ね、まだアークやポコならまだしも」
「「あのエルクの」」
深く頷き合っていたので、アークはその開け放たれていた部屋を通りすぎるだけでとどめた。
そのころ船舶室にて、勇者が捜し求める件の二人組みがいた。
「ねえ、エルクったら。いつまで拗ねてんのさー」
ポコは隣の脚立を見上げ、そのてっぺんで見事なバランス感覚を用いて胡座をかく炎使いへと声をかける。
「…拗ねてねぇ」
「いやいやいや、そういう状態を世間一般では拗ねてるって言うんだよ?」
落ちてきた声はどう考えてもぶすっとしていたから、素直にそうポコが声をかければ、炎使いが黙ってジト目を送ってきた。
ポコは彼らしい仕草に小さく苦笑をこぼす。
「あのね、そんなとこも拗ねてるって言うんだってば」
「…そもそも、おめーのせいだろうがっ」
噛み付くように、エルクがポコを見下ろす。
が、その威嚇もポコ相手ではまったくもって通用しない。
「違うよ?エルクの運がなかったせいだもんね」
そう、彼が言っていることは、昨夜のポーカーのこと。
あの日、待機班だった2人は、早々にやることを終えて、暇を持て余していた。
そんなおりに、掃除をしていて時に見つけたトランプがそもそもの始まりだった。
お互い知っているポーカーを始めたのはいいものの、そのまま熱中してやりこんでしまい、勝っては負けてを繰り返し、お互いに負けず嫌いだったために終わりのめどがたたなくなってしまって。
『罰ゲームを加えない?』と提案したのだ。
紙を20枚用意し、それに罰ゲームを書き込む。そしてそれをシャッフルし、ゲーム開始と同時に開いて、負けたものが実行していくというルール。紙がなくなった時点で終了ということにして。
「もん、言うな」
エルクの声に過去から現代へと舞い戻されたポコはにっこり笑う。
「じゃあ、ボクの実力が凄かったもんねってことで」
「…おめー、オレの話聞いてねーだろ」
眉間を押さえるエルクに小さく微笑んで、脚立のてっぺんより一段下へとかけあがり、追い詰めるようにエルクに顔を寄せる。
顔を上げ、若干後ろへと身を引こうとしたエルクに、べっと舌をだして、
「ところでエル君。キミに最終任務です」