君と願いを
arc2|2007.10.08
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 食事を終え、部屋に戻ってベッドに寝転がって、今日手に入れたばかりの業務用機械部品カタログを、パラパラとめくった。
 シュウとビビカのおかげで、ちょっとしたギミックオタク化しているエルクは、それはもう鼻歌を歌いそうなほどの機嫌のよさ。完全にウカれ状態。
 そんなエルクが、細かい字もチェックするほどにのめり込んでいたころ。
「エールクっ」
 負けず劣らず、普段比2割り増しの笑顔で、同室人が食事から戻ってきた。ちなみに、一緒に食事をしていたのに、2人の帰り時間がズレているのは、食に対する欲求の違いとだけ言っておこう。
 さて、にっこにこのポコは、呼びかけたのにも関わらず返事のないことを気にすることなく、エルクの寝転がっているベッドまで近付くと、彼の横顔が正面に見える位置に座り込み、ベッドに頬杖をかく形になった。
「ねーねー、エルクってば〜」
「んー…」
「んー、じゃないよ、エル君。あんまり素っ気なくされると、ボク、色々残念なこと、したくなってくるなー。あ、てか現在進行系で残念を届けたいよなー」
 と、笑顔を絶やさずに言うポコに、エルクは指を挟む勢いで雑誌を閉じ、体を起こすと、ポコに取られないように壁側、自分の後ろへと雑誌を隠した。
「…なんだよ」
 先ほどの動きを無かったことにしたいのか、聞いてやるから話せと尊大に言うエルクをポコは内心微笑ましく思いつつ、こくりと頷くと、四次元ではなく普通のポケットから色紙を1枚取り出した。
「エルクは、七夕を知ってる?」
「たなばた?…………あー、あの、織姫と彦星だっけ?年に一度の逢瀬ってやつ?」
「わ、知ってた」
 聞いておいて意外そうに手を口に当てるポコに、エルクは知っていて悪かったなと不服げな視線を向けた。
「あ、いや、悪くないよ?ただ、エルクがこんな乙女チックな行事を知ってるとは、聞いてみたけれど思ってなくて。だから、ね?」
 そう焦ったように、手を合わせるポコに、エルクは呆れ顔を見せた。なにが、ね?だ、なにが。そう思いつつも口を開く。
「……アルディアの酒場で短冊かけてたからな。物語もマスターにきいた」
「…へー、そうなんだ」
 酒場と言えば集まるのはゴロツキばかりで、その人たちが短冊に願いをかいているとはとても想像できない、否したくないとポコは言いそうになったが、脱線するわけにはいかないと堪えた。
 だからピラッと、指に挟んだ色紙を震わせる。
「ってことで、短冊書かない?」
「お前、相変わらず接続詞の使い方間違ってるぞ…?」
「いいの、通じれば」
「…ってか、笹ねーけど?」
「窓に貼る!!」
 ビシッと窓を指したポコに、さいですかとエルクは小さくため息をついた。それに、ポコは先ほどからの雰囲気を一転させて、眉をキュッとよせる。
「……イヤ?」
 小さく体を丸めるポコに、エルクは目を小さく見開いて、困ったように頬をかいた。
 ポコは季節のイベントが好きだ。多分それは彼にとってコミュニケーションのひとつであると同時に無意識の気遣いだ。余裕のないこの非日常に、少しでも時間の感覚を与えようと思っている。
 そして大抵の場合、最初に自分を誘うのは彼の好意を示しているに他ならない。鈍いと言われる自分でも分かる…そう、それはまぎれもない事実。
 小さく笑って、俯いてしまったポコの頭をポンッと軽く叩き、その外見とバランスのとれていない、細く長い魔法の指から色紙を奪った。
 驚くポコに目を合わせず、エルクは立ち上がりながら呟く。
「…………ハサミどこだっけ」
「……っ!!あ、ありがとう!待ってて!」
 バッとエルクをベッドに座らせて自分が立ち上がると、ポコは机に走り、焦っているのか、ガタガタと音を立てながら引き出しを開けて、勢いよく振り返ってハサミとペンを見せる。
 その姿にエルクは笑って、ポコがさっきしたようにピラッと色紙を震わせた。


「エルク、何書いた?」
 背中合わせに床に座り込み、色紙を10枚に切り分けて願いを書き込むことにしたのはいいが、どうにも決まらずに、卑怯かなと思いながらも、ポコは後ろをむいて尋ねる。
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