君と願いを
arc2|2007.10.08
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「ん?まだ1枚だけど、ホラ」
 ピラリと掲げられた短冊をポコは受け取り、ゆっくりと読み上げた。
「『シュウの心配癖がマシになりますように』?」
(いやー、無理だと思うなー)
 ポコは内心棒読みで思っていると、エルクがペンを回しながら得意げな瞳を向けてきた。
「毎年書いてるんだぜ?」
(あー、マシにならないことは確定事項なわけね…)
 内心失礼なことを思いながらポコは、はいとエルクに短冊を返した。
「……ってか、エルクの願いって他人へのあれこれなんだね」
「とーぜんだろ?自分ではどーにもならないことを望むもんじゃねーか」
 あっさりと、そう言ってのけるから、ポコは小さく息をのんだ。同時に、さすがはエルクと笑いたくなる。
「う〜ん、じゃあボクはこうしようかな」
 さらさらと書き付ければ、興味深そうに見ていた濃紫の瞳が苦笑に細まった。
『アークが将来胃潰瘍になりませんように』
「……苦労かけてるからって、ストレートすぎねぇ?」
「でもさあ、切実でしょ?」
 エルクは黙って苦笑を深めた。
「んじゃあ、同じ流れで………これはどう?」
『トッシュがアルコール中毒になりませんように』
 そう茶目っ気を入れ混ぜて、ポコはよく見えるように短冊を掲げて。
 そして驚いた。
 ------エルクが短冊を見るなり真顔で深く頷いたのだ。
「たしかに。量は多いし、回数は多いし、あげく飲みながら動き回るし…せめて週一で休肝日作らねーと、あのおっさん本気でヤバいと思うぞ?」
 まあ手遅れかもしれないけどなと溜め息と共にこぼすエルクは、ようやくポコが驚愕とかかれた顔を向けていることに気がついた。
「?…どうした、ポコ?」
「-----あ、えーっと……うん、エルクがトッシュの心配してるから、ちょっと驚いちゃって」
 そんなポコのふにゃりとした笑みに、エルクはまばたきふたつ。そしてピシリと音を立てて固まった。
「…………………!!!!ち、ちがうぞっっっ!!!誰が飲んだくれアル中予備軍剣士の心配なんてすっかよ!!断じて違う!!何が何でも違うからなっ!!」
 堰を切ったようにという言葉があるが、素晴らしい表現だとポコは思った。
 この必死さ。はたして同族嫌悪なのか、エルクはどうもトッシュとは仲良し関係を築きたくないらしい。そして一方的というのが面白すぎる。
「はいはいはいはい」
「…………」
 ジトーと、微笑ましいなと思ったのをご不満らしいエルクが視線を向けてきて、ポコはますます笑みを深めてしまった。
「っ、決めた!!決めた決めた決めた!!」
 キュポッとキャップを口にくわえて取るなり、ザカザカと乱暴としか見えない筆圧の高さでエルクは短冊に書き殴ると、その勢いのまま目を白黒させているポコの額に貼り付けた。
「った!なんだよ、も〜」
 ペリッと、糊付けされたわけでもないのに音と共に短冊を剥がす。
 エルクがふてくされたように顔をそらしたのが見えたが、気になる短冊の方に目をやった。
 そして、今度はとうとう吹き出した。
「あはははははっ、な、何このちょっとって、エルクっ」
「〜〜〜〜っ、う、うっさい!」
『ポコの一言多いのがちょっとは減りますように』
 自分で書いておきながら、からかわれた恥ずかしさに慌ててマジックを向けてくるエルクから、ポコは稀に見せる俊敏さでひょいと避けた。
「逃げんな!!」
「駄目駄目〜。ってか、お願い事は修正なんかしちゃったらかないませんよ、エル君」
「!!ま、マジ!?」
「…え、うんまあ、たぶん」
「たぶんかよっ」
 話しながらも攻防は続き、エルクはどうにも勝てそうもないことに気付いてくやしそうに顔を歪める。
 守りきったポコは、にこにことちゃっかりポケットに納めると、床に転がってしまった自分のマジックを手に取った。
 戦闘後よりも疲れているエルクに笑顔を絶やすことなく、3枚目を書き出す。
『エルクが騙されませんように』