君と願いを
arc2|2007.10.08
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「ちょっ、どーいう意味だよ!!」
「素直に心配しているんだよ?」
「え…いや待てよ、さっきのって本当なのか?」
 おそるおそると尋ねてくるエルクに、ポコはマジックの蓋を丁寧に閉めて首を傾けた。
「さっきの?ああ、書き直したら〜ってやつ?もちろん、何の信憑性もない思いつきだよ」
「……………あー、そう」
 エルクは何とも言えない表情で残る3枚のカードを手に取った。これ以上何か口に出しても事態は悪くなるばかりだと悟ったらしい。
 どうも先程から微笑ましいエルクが顎に手を当てて次なる願いを書こうとしているのを横目に、ポコはトドメとばかりにもう1枚書き込んだ。
 さらさらっと滑らせて、満足げに腕を組むと、後ろから声が上がる。
「っこれでどーだ!自信作!」
「うん?どれどれ?」
『ポコがオレを騙しませんように』
「…えーと…」
 短冊から顔を上げると、すごく得意げに笑うエルクがいた。
(ああもう、笑えばいいのか嘆けばいいのか…。というか、ボクのことどう見てるわけ?)
「騙すだなんて人聞きが悪いよ。ちょっとお茶目にからかっただけじゃんかー」
「…からかい?」
「もちろんでしょ?ボクがキミを騙すだなんて有り得ないもの。意味が全然違う」
 首を横に振り真剣に言えば、エルクは困ったように腕を組む。
 それには、流石のポコも焦ってきた。
「れ…?もしかして、イヤだったりする…?」
「…いや、そうじゃねーよ」
 だからといって好きなわけじゃないなと、控えめに付け足されたのはとりあえず置いておいて、ポコは安堵に頬を緩ませる。
「よかった〜。エルクの反応は面白いから、もう趣味みたいなもんになっちゃってるんだよね〜」
 今更直せと言われても困るんだよね、からかうの。
 顎に指を当てて呟けば、あからさまに顔をしかめられたので慌てる。
「うんでもまあ、自重するべく努力しようとは思いたいよ」
「……お前する気ないだろ」
「いやいや滅相もございません」
 肩をすくめてみれば、明らかに不満げに、何かを口に出すよりも雄弁な表情を見せられて、ポコは笑みをこらえ、沈黙に徹した。
 そんなとき、先に折れるのは大抵エルクで、そして今回もまた。
 深い溜息をついて、小さく頭を振った。
「…で?おめーは何書いたんだよ?」
「うん?ふふふ、これだよ」
『エルクとの身長差が広がりませんように』
 エルクはシパリとまばたきをひとつすると、呆れを含ませた濃紫の瞳だけをポコにむけた。
「…お前らしい後ろ向き」
 そうエルクがやれやれと呟くと、温和な音楽家がキレた。
「っ失礼な!全然後ろ向きじゃないよ!!切実なんだよっ!?」
 ぐぐっと顔を近づけて、真剣そのもので言いきるポコに、エルクは小さくたじろき、首をすくませる。
「っ…な、なにもオレにこだわらなくても」
「こだわるね!!ボクと身長差4cmの男の子なんて貴重だよレアだよ、それに他ならないキミなんだよ!!同じ高さで世界を見たいとか思っモガッ!??」
 拳を強く握りしめ、畳みかけていたポコは、痛いほどに勢いよく口に手を当てられて目を白黒させた。この部屋は自分とエルクだけだから、当然この手はエルクなわけで。
「…怒ればいいのか呆れればいいのか…分からなくなったぞ、この恥ずかしい奴」
 その言葉どおり、悩ましげに眉をしかめ、そのわりにポコの気のせいでなければ頬が染まっていたりして、非常に困惑しているご様子。
 エルクに言われて、何も考えずに口に出した自分の台詞をよーく思い返せば…なるほど、たしかにこの結果は間違っていない。
 だからといって、ポコは訂正する気もないし、当然恥ずかしいだなんて思わないのだけれど。
 そんなことをつらつらと考えながら、おとなしくエルクの出方をうかがっていると、器用にも炎使いは片手だけで白紙の短冊を自身に寄せ、ペンのキャップを口にくわえると、何やら書き出した。
「……オレも甘いよな」