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弐拾     タランティーノ監督(2021/8/15)
拾九     東京五輪の総括は行われない(2021/8/7)
拾八     詐欺メールの巧妙化(2021/7/28)
拾七     祝日が分からない(2021/7/22)
拾六     APD(聴覚情報処理障害)の辛さが理解できます(2021/7/10)
拾五     役職なんぞいらんのに(2021/7/5)
拾四     中谷選手いざ決戦へ(2021/6/26)
拾参     井上選手の去就(2021/6/21)
拾弐     地熱発電備忘録(2021/6/9)
拾壱     こういうのができの悪い文化論です(2021/5/30)
拾      コロナと五輪(2021/5/25)
九      世間の話題二点を体験しました(2021/5/17)
八      鉛筆の様変わり(2021/5/9)
七      できの悪い文化論はもうたくさん(2021/5/5)
六      新型コロナワクチン接種(2021/4/26)
五      純白塗料やいかに(2021/4/18)
四      スーパースターの訃報(2021/4/12)
参      カーボンフリーの世界は(2021/4/3)
弐      韓国映画がクール(2021/3/21)
壱      被害者ポジションが力を発揮する(2021/3/14)




弐拾     タランティーノ監督(2021/8/15)
 私、クエンティン・タランティーノ監督の大ファンです。最近、次の話題で氏の名前がネットを賑わせました。
 タランティーノ 自分の夢をバカにした母親に1円の経済援助もなし「子供に向けた言葉には結果がある」
 リンク記事は、よくある母子関係が上手くいっていない話です。そのこと自体は家族の問題であり、どうでもよいことです。むしろ、氏の名前が世間の表に出て取沙汰されたことが嬉しいのです。

 タランティーノ氏の監督としての評価はいかがなものでしょうか。好きな方にとっては、余人に代え難い貴重な監督でしょう。私がまさにそうです。リズム感というかテンポ感が他と違っているんですね。そのため、唐突であったり、虚を突かれたり、意外性に溢れていたりで、凡百の映画に慣れた観客を未体験の世界へ誘ってくれます。

 私のタランティーノ体験は、WOWOWでのタランティーノ特集です。『パルプ・フィクション』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『ジャンゴ 繋がれざる者』『ヘイトフル・エイト』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などを観て痺れました。
 大して意味のない会話を延々垂れ流す一方で、いきなり転調するんですね。あのルーズ感とスピード感が一瞬で入れ替わる演出が独特なんです。上の映画でもよく用いられていて、その瞬間に息を飲まされました。

 三隅研次氏や深作欣二氏のファンだそうで、かつての日本映画の影響が明らかに見て取れます。また、その他アジア映画に対する造詣が深く、『キル・ビル』はチャンバラ映画やカンフー映画からインスパイアされています。BGMとして『修羅雪姫』のテーマ曲をそのまま流していますしね。
 『レザボア・ドッグス』にもオタク感が横溢していて、各所に『仁義なき戦い』へのオマージュが散見されます。

  『フロム・ダスク・ティル・ドーン』は吸血鬼映画ながら、終盤まではロードムービー風の悪漢映画です。銃を扱う暴力兄弟が主人公で、その逃避行が描かれます。それが、ラストでいきなりバンパイア戦争に突入しちゃいます。もう無茶苦茶な展開なのに、疑問も持たせず興奮させられます。まるで西村寿行小説の世界です。
 本作は監督でなく、脚本を担当するとともに、主人公兄弟の弟を演じています。兄貴がジョージ・クルーニー氏で、よくもこんな変な役を演ったものです。多分、役者にとっては得難いというか、美味しい役どころなんでしょうね。

 大長編の『ヘイトフル・エイト』は先の展開がまったく読めません。「えっ?」「あっ!」「なに?」とばかり、鼻づらを引き回される感覚です。基本構成は密室もので、一箇所に集まったわけありの面々が綱引きする趣です。次々に引き起こされる展開に、まったく飽きさせることがありません。
 この映画の照明効果には、京都大映テイストが感じられました。

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はシャロン・テート事件を題材にしてるんですけど、ラストでの例によっての急転アクションは、シャロン・テートもくそもない、いつものタランティーノ節です。そこに至るには、静かなそして退屈ともいえる日常が描き出されるばかりなんです。

 好きな人間にとっては、最高に楽しめる映画ながら、受付けない方も相当数いるでしょう。『パルプ・フィクション』を観ても、なにが言いたいのか分からん。散漫な構成だとかの感想を持つ方も多いでしょう。実は、私も最初観たときは変な映画だなと思いました。ただ、決して嫌うこともありませんでしたし、場面展開にドキドキさせられました。そして、他の作品を観るごと、はまり込んでいったのです。

 今や立派なタランティーノ推しに成長して、次の作品を待ちわびています。
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拾九     東京五輪の総括は行われない(2021/8/7)
 東京五輪のメダル獲得数は歴代最高となりました。現時点で次のとおりです。
 順位 国・地域    金 銀  銅  合計
  1  中国      38 29 17  84
  2  アメリカ    34 36 32 102
  3  日本      25 12 16  53
  4  イギリス    20 21 21  62
  5  ROC      17 25 23  65

 要因のひとつとして、種目構成がありましょう。野球とソフトは不適当ということで外されていたのを採用しましたし、空手もテコンドーとの種目争いに敗れていたのを、懲りずに採用しましたしね。その他、スケボーやボルダリングが新たに採用されたのが効きました。

 野球とソフトが五輪に不適切というのは、世界の大勢でした。選手数が多いのが問題で、人数を絞るために野球なんか参加国数が6ですよ。日本の我儘としか言いようがないです。そもそも野球が盛んな国は限られているうえ、プロリーグまで実施しているのは数か国しかありません。私の知る限り、米、日、韓、台です。最大の威容を誇るメジャーリーグが五輪期間中も公式戦継続という不整合の中での6か国競技なんですね。そんなのでメダルを分配してなにが嬉しいんでしょうか。

 コロナ禍での開催について、どうこう言う気はありません。世界中の競技団体と選手に対して責任を負っている以上、今さら自国の都合で勝手は言えないでしょう。問題の根源は、五輪招致そのものに尽きます。五輪開催が開催国あるいは開催都市にとって極めて重い負担となる点です。日本は長野五輪で散々な目に遭っているんです。喉元過ぎればというか、鶏頭というか、1998年という記憶にも新しいドツボイベントが忘却の彼方なんです。

 長野五輪がいかに問題を孕んでいたか、六拾九  イベントやテーマパークのことども(2003/3/2)に書いています。長野でのやらずぶっらくりが、さらに拡大して再現されました。危惧していたとおりというか、予想どおりです。

 大会のシンボルたる国立競技場からしていいかげんな建替え案でした。 七百拾四   新国立競技場のデタラメ(2015/7/19)にも書いたとおりです。

 今はネットで情報が素早く拡散されるので、長野五輪では見過ごされたというか、世間の関心を引かなかったような案件も広く知れ渡ります。もし、長野五輪の時点でネット情報が駆け巡る環境があれば、厳しく指弾されたであろう案件が数多ありました。上の「イベントやテーマパークのことども」にも記したとおりです。なお、「あれは史上空前のアコギなイベントでした。興味深いデータを集めていますが、未だ生々しいので怖くて書けません。」は、電通がえげつない手法で二重取りの中抜きをやった件を指しています。当時のレポートが手元にないので、詳細を書けないのが残念です。

 今回の東京五輪では、長野を上回る阿漕なことをやってますね。すでにネットで散々指摘されているので、あらためて書きません。それに、やはり怖いんです。

 東京都開催なのですから、本来であれば東京都が職員多数を充てて五輪チームを設立し、組織委員会をも膝下に置くべきなんでしょう。残念ながら、今の自治体はいずこも職員削減によって人手不足となっており、そのような余力がありません。もし、東京都の統治下にあれば、会計処理も真っ当に為されるでしょう。今の組織委員会だと他人ごとというか、“所詮は税金人の金”とばかり、いいかげんなばら撒きが横行しています。
 つい先日も、ボランティア削減に関わらず弁当を当初人数で発注して4,000人分の廃棄を出したとかで物議を醸しましたね。弁当代なんて可愛いものです。国立競技場がらみで支出した無駄な大金なんて、誰も責任を取らないし、責任問題化さえされていません。ザハ氏への違約金は数十億円とか報じられました。なんで訴訟沙汰にならないか不思議です。

 開会式を巡る企画変更についても、巨額の無駄金を生んだそうですけど、誰も責任を取らないし、責任問題にさえなっていません、万事がこの調子で、そもそもJOC前会長がフランスにおいて刑事事件化されているのに、一言も説明せずに辞めただけで無視してるんですから。上がこれですから、下が逃げるのも当然でしょう。まさに、「法の行われざるは、上よりこれを犯せばなり」です。
 東京五輪を巡る問題も、長野同様になにもなかったこととして流すことでしょう。そして、巨額の赤字を東京都中心に償還するものと想像します。間違っても国民に転嫁しないでいただきたいです。招致した者が果たすべき責任ですから。

 無責任体質をこれ幸いと、札幌が冬季五輪を招致しようと蠢動しています。札幌が五輪を招致するなら好きにすればいいけど、まずは市民に覚悟を問うべきです。東京都なら、巨額の借金も数年もかければ償還できるでしょう。しかし、札幌市にその力量がありますかね。長野県や長野市みたく、長きにわたって予算の硬直化を招いて不便するのは住民ですから。
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拾八     詐欺メールの巧妙化(2021/7/28)
 これまでにも迷惑メールについて書きました。迷惑メールについて、最初に書いたのはかなり昔のことです。その迷惑メールも巧妙さを増し、八百八拾四  詐欺メールの決定版(2018/12/8) みたく実在するサイトを模したタイプが増えました。
 最近は、楽天やAmazonのようなクレジットを利用する買い物サイトを騙ったタイプが多くなっています。それらは雑なつくりで、問題なく無視できます。その一方で、騙されないにしろ一応がとこメール内容を確認してしまうタイプがあります。金融関係ともなると、心配してしまいますものね。

 私も各社のクレジットカードをつくっています。JCB、VISAのEPO CARD、JACCSのmastercard などです。これらの注意喚起メールが多いこと。
 ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました。
 で、「下記にアクセスの上、ご利用状況の確認をお願いします」だの、「アカウントを変更してください」だのの見え透いた内容です。こんなのに引っかかる方もいるのでしょうか。お年寄りなどはクリックしちゃうんでしょうね。

 また、イオン銀行やらみずほ銀行、三菱UFJ、あげくに三井住友の名を騙ったメールも多いです。利用していない銀行ですから、相手にする必要もありません。
 そんな私でも、次のようなメールには正邪の判定に悩みます。エポスカードからのお知らせなんですけど、テキストメールなら詐欺メール100%ですが、ネット通販の広告メールの体裁だと迷ってしまいます。エポスからは、明らかな詐欺メールが連日のように送られてきているだけに怪しんでしまいます。



 上のメールが詐欺メールかどうかは分かりませんが、似たようなので明らかにインチキなものもありました。いかにもな雑なつくりで、迷わず迷惑ネールに仕分けました。
 上のメールが正規のものかどうか、未だに判定できません。クリック箇所もいくつかあるものの、確認するのも怖くて放置です。下手に押して、嫌なファイルをダウンロードしちゃったらお終いですから。まして、未だWindows7を使い続けている身としては慎重の上にも慎重を期さなければね。 
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拾七     祝日が分からない(2021/7/22)
 今月の祝日が混乱を招いていたそうです。私のように隠居してれば関係ないものの、勤め人にとっては下手を打てない話です。19日(月)が「海の日」との勘違いですね。

 海の日は、平成8年から7月20日で施行されていたのが、平成15年の改正で第3月曜日に変わったんですね。で、今年だけ五輪に合わせて開会式前日の7月22日(木)に変更されました。しかし、決定がカレンダーの作成に間に合わなかったので、本来の海の日である7月19日(月)が赤字の平日になりました。中には、制作を遅らせて正しい内容で印刷したケースもあるそうです。

 社員に対して、通常勤務日である旨を念押しする会社も多かったそうです。たしかに、注意喚起されないと勘違いする方もいるでしょう。

 隠居人は毎日が日曜なので、そもそものところ祝日が把握できていません。まして、近年は祝日がややこしく変転したのでなおさらです。
 かつて4月29日が天皇誕生日だったものを昭和帝崩御後「みどりの日」になって、今は「昭和の日」に衣替えでしょう。その「みどりの日」は5月4日に移ってしまい、天皇誕生日は現上皇の12月23日となり、令和帝即位後は2月23日でしょう。もうね、頭がついていけてません。

 ところで、令和帝と記したことに不敬と難ずる向きもありましょう。さすがに令和天皇と記すのは避けます。しかし、令和時代の天皇という意で、令和帝としているのでご容赦ください。今上天皇とか今上陛下がお薦めなのでしょうが、これは現天皇の意であらゆる時代に通じる呼称です。できましたら徳仁(なるひと)様を指したく、汎用呼びの今上天皇を避けたいのです。かといって、本名である“徳仁”呼びは、それこそ不敬の空気をまとってしまいます。貴人に対して本名は避けるべきですから。その点、外国の方々は遠慮がありません。昔から裕仁とか平気で記してきましたね。あれには、凄く抵抗を感じます。

 今日は祝日ながら、まったくその雰囲気がありません。小中学校は夏休み入りですから、子供が家にいるのは当り前ですしね。加えて五輪はグダグダの泥濘に入り込んで、ハレの気配は微塵もないしで、コロナを避けて閉じこもるばかりです。
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拾六     APD(聴覚情報処理障害)の辛さが理解できます(2021/7/10)
 NHKのニュースで、「“聞こえているのに聞き取れない” APD 初の大規模調査へ」が紹介されました。

 「雑音の中では話が聞き取れない」
 「早口や小さな声が聞き取りにくい」
 聴力は正常でも雑音の多い場所では必要な音や話を選び取れず、理解できなくなってしまう「APD(=聴覚情報処理障害)」という症状があります。


 この症状の辛さがよく分かります。ちょうど、発達障害への無理解から学校や職場で苦労するのにも似た話です。私も50過ぎてから聞こえ辛くなり、50代半ばからは言葉が解らずに何度も訊きかえすようになりました。音声としてちゃんと聴こえているのに、言葉としては不明瞭で判然としないんです。私の場合はAPDでなく、理由がはっきりしています。
 耳の高域特性の劣化が原因で、誰でも加齢によって多かれ少なかれ起こることです。高域成分というのは、音声の響き成分を担っていて、これが微細な雰囲気を色づけしてくれます。オーディオ趣味なので、理屈は知っていたものの、我が身に降りかかるとショックでした。
 耳への負担を強いる環境で仕事をしている方なんかは、若くして聴力欠損に見舞われることもあるでしょう。例えば、機械工場などの騒音下で日々仕事している方は、本当にお気の毒です。また、若い頃から年寄りと同居し、TVを大音量で聞き暮らしている方もまた、耳への負担が大きいことでしょう。

 言葉を把握し辛くなる少し前から、予兆がありました。オーディオの音声がきつく感じられていたのです。このサイトでもCD音声のきつさが我慢できず、いろいろ苦労した話を書き込んでいます。音がきつく感じられる一因が、耳の高域特性の劣化なんですね。

 ところで、オーディオに関して誤解があります。歳を取ると音がきつくなるのを、高音がきつくてやかましく感じると捉えがちですが、実は逆なんです。老齢とともに耳の高域特性が悪くなる(高音域の感度が悪くなる)のにともなって、音がきつく感じられるのです。10KHz超の高域が主音域の音に微細な響き(高調波)を付加し、陰影が豊かで、耳触りのよいまろやかさを生むんです。加齢によって高域が聞こえなくなると、高調波の響きが失われ、生の中音域だけとなってきつく感じるんです。

 高齢のオーディオ趣味の方が、中音域がソフトでまろやかな音に傾倒するのはこのゆえです。高域が聴こえないので、中音域からシャープさを取り除く必要があります。若い方がそうした音を聴くと、なまった緩い音と感じるでしょう。これはどちらが正解とかでなく、耳の特性違いからくる音づくりの違いです。

 私は未だ諦めきれず、高域特性のよいツィーターのスピーカーでありながら、さらにスーパーツィーターを付加して超高域のエネルギーを豊かにしています。それも、リボン型をセレクトして繊細な高調波をたっぷり乗せて耳の駄目さをカバーしているんです。いわば、ソフトな中音づくりに逃げず、ワイドレンジなままで緩和しようと足掻いているのです。

 なお、老齢者に耳鳴りが多いのは、落ち込んだ高域特性を耳側が補正しようと高域の感度を自動的に高めるためです。私も数年前から、常に耳鳴り状態です。邪魔くさいことこのうえありませんが、老齢劣化とあって受け入れるしかありません。

 引用記事の症例とは違った加齢劣化の話ですが、話し言葉が聴き取り辛い点ではまったく同じです。若いうちからお気の毒で、これへの対処としては、最初に書いたように周囲が理解することです。解りやすい発声を心がけたり、一度で聴き取れなかったら、遠慮なく訊きかえせるような雰囲気をつくることです。周りが早口で喋ったり、繰り返すのを面倒臭がったりがないような配慮をすることです。
 私も歳をくって耳が不自由になったため、よく理解できるんです。
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拾五     役職なんぞいらんのに(2021/7/5)
 今年度4月から自治会長を務めています。20年ほど前、すでに役を終えていたものを、脱会者が続いたのと年寄りが増えたのとで人がいないのです。
 齢を取って脚も不自由ともなれば仕方ありません。問題はその子供たちです。家庭によって、代替わりが上手くいかず、関係がよろしくない家庭が多いのです。子供といっても30代から50代という、いい歳したおっさんおばさんなんですけどね。
 そういう家庭は、えてして親世代がやたら口うるさいか甘やかしたかのどちらかです。いずれにしても、他人の世話とか地域の世話とか自分には関係ないと無視するタイプです。他人のために汗を流すなんて、一顧だにせぬ生き方なんです。多分、自分が損することには唾さえ出したくないのでしょう。昨今の気質としては、むしろそれが当たり前なんですね。

 役目柄、地域のコミュニティセンターに顔出しする用事があります。それが拙いんです。そこのセンター長さん、私が地元自治体に奉職していたときの先輩なんです。最初に顔出ししたとき、用を済ませてさっさと帰るつもりが、呼び止められて事務所に招かれました。嫌な予感がしましたよ。世間話が一段落したところで切り出されました。
 「いろいろ役があるのに人手不足で困っているんですよ。ひとつお願いできんかな」
 予測していたので、よどみなく返しました。
 「いやあ、親がぼけてしまっていて、なかなか目が離せないんです。それに、退職して4年も経って、もう使いものになりませんよ」
 繰り言を訊かされましたが、仕方なしと解放してくれました。

 しかし、油断はできません。先週のこと、○○市福祉協力員の委嘱状が送られてきて驚きました。普通は事前に了解を得るはずだし、自動的に割り振る役なら、それはそれで事前説明が為されるはずです。なんか、いいように扱われている気分です。
 大した役でもないし、やらなければなにもしなくて済みそうです。取りあえず知らん顔しときます。

 農協総代の役も近づいてきている雰囲気です。先週のこと、自治会員を参集して次期総代立候補者の選出をしました。任期3年とあって、誰もやりたがりません。なんとか決まりましたが、いずれ私にも回ってくるでしょう。

 もっと鬱陶しいのが、祭りの宮総代です。これはさすがにやりたくないので、いっそ氏子を止めたい気分です。我が家はすでに当屋を務め、獅子の当屋も終えています。社日も3年前に努めました。幸いなことに、“社日”と“お日待ち”は、今年度から中止になりました。昨年からコロナのせいで祭事は中止、または人寄せを省略しています。その経験が生かされたともいえ、コロナにもメリットがあったのです。

 自治会長になったら行事に追われたり、自動的に各種役割が待っています。コロナのお蔭で祭事関係、運動会が中止になっていて、よいときに当たったものです。自治会組織の上位役は、たまたま他地域に割り当てられることとなり、これまた助かっています。

 今夏、隣の市の有名神社の祭りへの参加が予定されていて、コロナを理由に中止になることを願っています。
 あとは研修関係です。コロナを理由に中止すればいいものを、企画関係者はやる気なんですね。いい迷惑だわ。
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拾四     中谷選手いざ決戦へ(2021/6/26)
 明日の昼頃、ラスベガスにおいてノンタイトル戦ながら12R戦が行われます。WBOライト級5位の中谷正義選手とWBC1位で元3団体統一王者ワシル・ロマチェンコ選手が激突します。ここに至るにドラマチックな経緯があるんです。それもあって、ボクシングファンたちは先週の井上選手の防衛戦より、こちらをこそ楽しみにしているんです。

 2019年、IBFライト級王者リチャード・コミー選手への挑戦権を賭け、IBF3位で東洋太平洋王者の中谷選手と同級4位のテオフィモ・ロペス選手が対戦し、0-3の判定負けを喫しました。

 同年、ロペス選手はコミ―選手を2RKOで下して王者となりました。ちなみに、ロペス選手は勝った後、リング上で鮮やかなバク中を決めます。混雑している中、どけどけと手で払って空きをつくってダッシュします。



 翌2020年にWBA、WBO、WBC統一王者ロマチェンコ選手と4団体のベルトを賭けて戦い、ロペス選手が判定勝ちしました。昨年最大の番狂わせとなり、ボクシングファンたちを大興奮させてくれました。

 一方の中谷選手は引退を表明していたものの撤回し、昨年12月にラスベガスで世界5位のフェリックス・ベルデホ選手に9R逆転TKO勝ちしました。ベルデホ選手は次世代のホープと嘱望され、速いコンビネーションとステップワークを駆使する倒し屋でした。九百八拾九  二人の中谷選手が快挙(2020/12/20) に書いたとおりです。

 速度差は明確で、初回にダウンを喫し、4Rにも倒されるなど敗色が濃かったものの、強いジャブとボディで徐々に削り、9Rにジャブでダウンを奪い、フラフラ立ち上がったところを右クロスで仕留めました。身長差があったので、ジャブが打ち下ろしとなって体重が乗っていました。しかも、顎の向こう奥まで打ち抜いていたので、さぞかし強烈に効いたものでしょう。



 無観客試合だったので静謐でしたが、有観客なら総立ちになったであろう大逆転劇でした。こういう激闘を演じるとプロモーターも放っておきません。また、ロマチェンコ選手が復帰戦に中谷選手を選んだのも上の経緯があった故です。ロペス選手が苦戦した相手を選ぶことによって、明確に勝って優劣をあからさまにしたいのでしょう。

 オッズは1.06−8.0でロマチェンコ選手が圧倒的に優勢です。ボクシングファンたちはロマチェンコ選手有利としながらも、長い距離、強いジャブ、強いボディでジャイアントキリングを期待しています。もし、中谷選手が勝つことがあれば、明日のネット世界は興奮の坩堝と化すこと請け合いです。試合後に、結果報告をしたいと思います。

 6月27日追加
 中谷選手、9RTKOで敗れました。敗れたといえ、健闘しました。
 ボディを絡めた攻撃と距離が詰まったところで抱え込むなど、上手く闘っていたのですが、テクニック差は如何ともし難かったです。ダメージが重なって反応が鈍ったところに集中攻撃を浴びてしまいました。
 世界最高峰のテクニックを相手にしての敗戦ですから、惜しいというのでもなく、いっそ清々しいです。
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拾参     井上選手の去就(2021/6/21)
 昨日のこと、ラスベガスにおいてWBAスーパー&IBFバンタム級タイトルマッチが開催され、王者の井上尚弥選手にIBF1位のマイケル・ダスマリナス選手が挑みました。結果は、3回に2度のダウンを奪ってのTKO勝利でした。

 ダスマリナス選手が左構えからワンツーを出すのに、左フックを合わせたのでダスマリナス選手は縮こまってしまいました。その結果、ガードを固めて脚を使うものだから、顔面への攻撃が上手くいきません。2Rからボディへ焦点を定め、右脇腹へフックを抉りました。
 下図は左フックでダウンを奪ったシーンです。ダスマリナス選手は左構えなので、パンチの衝撃が逸れる角度となります。右構え相手なら全エネルギーがボディに浸透するのでよく効き、これ一発で仕留められたでしょう。



 3Rに入って完全にボディ狙いとなり、序盤にヒットさせてダウンを奪ったシーンです。よく立ち上がってきたものです。



 すでにボディが苦しくなっているところ、アッパー気味に入りました。これじゃあ立てません。レフェリーはすかさず試合を止めました。



 まったく危なげなく、ダスマリナス選手が攻め込むシーンは一度も見られませんでした。指名試合であってさえ、ミスマッチといえるほど力の差が歴然としていました。オッズは1.05−9.0で、井上選手の負けがまったく想定されていなかったんですね。

 ライバル局SHOWTIMEで予定されていたリゴンドー vs カシメロが、ドネア vs カシメロに変更されました。その両チャンピオンが他局のESPN番組でインタビューを受けるという、日本ではありえない展開でした。それもこれも4団体統一戦への流れを優先するというアメリカらしい構成でした。“絶対強者”井上に挑む挑戦者決定戦みたいな流れで、アメリカの大手プロモーターも井上との対戦を尊重していました。本当に強ければ、ここまで物ごとが動くんですね。日本だと、TV局が盛り上げてチャンピォン像をつくり上げるんですけど、次元が違っています。
 リゴンドー選手にはお気の毒ですが、それも致し方ありません。彼の塩試合ぶりとニーズに見合わない金銭要求が自らの頸を絞めたものでしょう。

 今回はIBF1位の指名試合で、昨秋の試合がWBO1位相手なので、義務を果たし終えた恰好です。WBAはスーパー王者なので他団体戦は自由です。以後は好きなようにカードを選べるでしょう。

 さっさと4団体を統一し、上のクラスへ移ってほしいです。もはやバンタム級に敵はいないでしょうから。残念なのは、スーパーバンタム級でも、対戦できる強敵がいるか怪しいんです。各選手のマネージメント会社の都合と契約メディアの関係で、誰とでも対戦できるわけじゃありません。フェザー級まで上げないと、刺激的な試合が実現しないかもしれません。
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拾弐     地熱発電備忘録(2021/6/9)
 カーボンフリーの是非については、いろいろ問題もあります。しかしながら世界の潮流は止めようもないとあって、否応もなく全力で取り組まなければいけません。参      カーボンフリーの世界は(2021/4/3)にも書いたように、各国の電源構成やCO2排出量の比率の違いがあるなか、各国それぞれが課題を克服する必要があります。
 日本の問題点は発電部門の負担が他国に比べて極めて大きいことです。火力の比率が大きすぎる現状を変革しないと日本は生き残れません。原発を再稼働させないことには、まず以ってどうにもなりません。加えて再生可能エネルギー拡大も必須です。とはいえ、太陽光や風力には限界があります。天候の変化に左右されるようでは、安定供給ができません。
 すでに以前から、地熱が再エネにおけるベースロード電源と位置づけられています。日本の地熱エネルギーは、世界第3位のポテンシャルを持っています。経産省も事ここに至って、地熱を主眼に据え始めています。地熱に積極的に投資できるよう、法改正を含めた環境づくりが進められています。

 そこで、日本全国で進められている地熱への取り組みについて、私自身の備忘録として整理します。
 地熱のエネルギーが眠っているのは、火山帯なので温泉地帯と被っています。北海道、東北、中部、九州辺りが有望な地域です。
 
 東北を貫く奥羽山脈が地熱資源の宝庫で、特に岩手県と秋田県の間に広がる八幡平の周辺には地熱発電所が集まっています。その一角にある安比(あっぴ)地域では、三菱グループが新たな地熱発電の事業化に向けて2014年から調査を実施しています。
 すでに地熱の資源量を確認する長期噴気試験に着手して、発電能力が15MW級の地熱発電所を運転できる資源量を確認していて、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を標準で70%と高く維持できると見られています。
 15MWの地熱発電所を運転できると、年間に9,000万kWhにのぼる電力を供給できる見込みで、一般家庭の電力使用量(年間3,600kWh)に換算して2万5000世帯分に相当します。建設予定地の八幡平市の総世帯数は約1万世帯で、その2.5倍に匹敵する規模の電力量になります。
 三菱グループは2019年から発電所の建設に入っており、2024年での運転開始(14,900kW)を目指しています。

 同じ八幡平市内で安比地域から10kmほどの場所にある「松尾八幡平地域」でも、2019年から7,000kW超の地熱発電所が運転を開始しました。年間発電量は、一般家庭約1万5千世帯分の消費電力に相当します。


 秋田県の南部にある湯沢市の「山葵沢(わさびざわ)」の一帯では、以前から豊富な地熱資源の存在が確認されていて、数多くの温泉が湧き出ているほか、東北電力の「上の岱(うえのたい)地熱発電所」が29MWの発電規模で20年前から稼働しています。

 この同じ地域の国有林の中で、上の岱を上回る42MWの地熱発電所を建設する計画も進んでいます。電源開発(J-POWER)と三菱グループ2社が共同で設立した「湯沢地熱」の発電事業です。2019年からの運転開始で、46,199kWの国内4番目の規模であり、年間発電量は一般家庭約9万世帯分の消費電力に相当し、全国有数の発電所です。
 東北エリアは地熱発電の宝庫として、着実な歩みを見せています。


 圧倒的な地熱発電の規模を誇るのが、大分県の九重町で、新しい発電方式を採用した実証プラントが2016年9月に世界で初めて運転を開始しました。ベンチャー企業のジャパン・ニュー・エナジー(JNEC)が京都大学と共同で開発した「JNEC地熱発電方式」を採用しています。
 この発電方式の特徴は地中の温泉水を使わない点にあります。通常の地熱発電設備は地中から高温の蒸気と熱水をくみ上げて、発電した後に熱水を地中に戻す方法を採ります。そのために温泉資源に影響を与える懸念があり、温泉事業者が発電所の建設に反対するケースがあるわけです。

 JNEC地熱発電方式では地下1,000m以上の深さまで、二重管構造の地中熱交換器を埋設します。地上から二重管の外側に水を加圧して送り込み、地中の熱で高温になった水を内側の管を通じてくみ上げる方式です。地上に出た高温の熱水を減圧すると蒸気が発生し、タービンを回して発電する仕組みです。このサイクルを続ければ、地中の温泉資源に影響を与えずに地熱を取り出すことができます。
 それに加えて発電所を建設できる対象の場所も広がります。従来のように地中で温泉水が溜まっているところを特定する必要がなく、高温の地熱が分布している地域であれば二重管を埋設して熱を回収できます。地熱発電の大きな課題になっている開発期間の短縮と開発コストの低減にも繋がります。

 ただし現在の実証プラントの発電能力は24kWと小さいため、JNECと京都大学は性能向上の研究開発を続けて、2025年をめどに3万kW級の大規模な発電設備の建設を目指しています。

 九重町では九州電力の大規模な地熱発電所が3カ所で稼働しています。そのうちの1つが「滝上発電所」で、新しい発電設備の建設が始まっています。地中から汲み上げる蒸気と熱水は従来のままで、地熱発電の導入量を増やす考えです。
 滝上発電所は1996年に運転を開始し、発電能力は2万7,500kWにのぼります。年間の発電量は1億9,700万kWhに達し、一般家庭の使用量(年間3,600kWh)に換算すると5万5,000世帯分に相当します。地中から汲み上げた蒸気と熱水のうち、高温の蒸気だけを発電に利用して、低温の熱水は使わずに地中に戻してきました。
 蒸気の供給を出光興産グループが担当し、その蒸気を使って九州電力が発電する分業体制を採っています。出光興産は発電に使っていなかった低温の熱水を利用できる地熱発電所を新たに建設中です。低温でも蒸発する沸点の低い媒体を使って発電できる「バイナリー方式」を採用するわけです。
 発電能力は5,050kWで、2017年に運転を開始しています。バイナリー方式の地熱発電所では国内最大の規模になり、年間の発電量は3,100万kWhを見込み、一般家庭の8,600世帯分に匹敵します。この地熱発電所だけで九重町の総世帯数(3900世帯)の2倍以上に相当する電力を供給できます。

 大分県の九重町にある地熱発電所の中で最も古い「大岳発電所」でも、新たな取り組みが始まりました。大岳発電所は1967年に運転を開始して半世紀を迎えました。地熱を取り出す現在の設備を生かしたまま、発電機やタービンを更新して発電能力を増強します。地下から汲み上げる蒸気と熱水の量は変えずに電力を増やす取り組みです。従来の高温の蒸気だけを使って発電する「シングルフラッシュ方式」から、低温の熱水も組み合わせて蒸気の量を増やす「ダブルフラッシュ方式」に進化させ、2020年から13,700kWの出力で、今後は14,500kWに増加する予定です。

 同じ九重町にある八丁原発電所は、1977年稼働の1号機と1990年稼働の2号機により、合計出力110,000kWを誇る世界有数の地熱発電所です。


 日本は地熱資源に恵まれている一方、その利用率は数%にとどまっています。その原因は、適地が国立公園や自然公園の中に集中していて、発電所の建設が難しいことが1つ。また、地中から大量の熱水を汲み上げることにより、温泉源への悪影響があること。そして、こうした事前の調査や調整、さらにその後の発電所の建設工事にも多くのコストを要するといった点が挙げられます。

 大分県と熊本県にまたがる阿蘇くじゅう国立公園の周辺に開発計画が集中していて、2つの県で進行中の調査・開発プロジェクトは10件あります。従来は国立・国定公園の中に地熱発電所を建設することは厳しく規制されてきましたが、2012年に緩和され環境保護の重要度が高くない地域に限って条件付きで認めるようになりました。

 上で書いたジャパン・ニュー・エナジーのJNEC方式もまた、温泉水を地下から汲み上げるのではなく、地上から水を注入し循環させる「クローズドサイクルシステム」を採用することによって、温泉源への影響を緩和すべく開発されたものです。


 地熱発電は国内の再生可能エネルギーの中で開発余地が最も大きく残っています。これまでは発電所の建設に対する規制が厳しかったものを、徐々に緩和されて開発計画が増えてきました。日本地熱協会が政府に報告したレポートによると、現時点で調査・開発段階にある地熱発電のプロジェクトは全国に広がっています。
 その他にも、地元の理解を得ながら事業化を検討中のプロジェクトが10か所以上で進んでいるそうです。最も活発な地域は、北海道と青森、岩手、秋田の北東北3県です。北海道では調査・開発中のプロジェクトが3件あり、北東北では青森、岩手、秋田、福島で進行していて、自然環境の保全を図りながら全国各地で地熱開発プロジェクトが広がっています。

 南東北から関東、中部・北陸では6か所で地熱発電の調査・開発を実施中で、2015年からは、「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」が運転を開始し、年間に約300万kWの出力となっています。


 竹中工務店は2021年4月、岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷にて「TAKENAKA奥飛騨地熱発電所」の稼働を開始したと発表しました。同市の奥飛騨宝温泉協同組合と共同して既存の温泉井を活用する地熱発電事業です。
 同発電所は2021年3月から発電を開始していて、発電容量は50kW、年間発電電力量は約500MWhを見込みます。これは一般家庭約100戸分の年間使用電力量に相当する発電量です。再生可能エネルギー特別措置法の固定価格買取制度(FIT)を用いて中部電力パワーグリッドに売電するほか、同施設内の組合の温泉供給設備でも一部を活用するそうです。
 発電方法には、温泉の熱水や蒸気を熱交換し、低沸点の媒体を気化してタービンを回すバイナリー方式を採用しています。熱交換器を比較的自由に選定できるほか、直接蒸気で冷媒を加熱できる発電機を採用しており、発電量が従来比で約20%向上しています。また、分解して冷媒を抜かずにスケール除去が可能なプレート&シェル熱交換器を採用しています。


 昨年、東芝エネルギーシステムズと中部電力グループのシーエナジーが、岐阜県高山市に「中尾地熱発電所(仮称)」を建設すると発表しました。共同出資会社である中尾地熱発電が同年9月から建設工事開始し、発電所の稼働は2021年度下期を予定しています。
 地熱発電所の建設地は奥飛騨温泉郷中尾地区で、源泉の蒸気量が豊富かつ高温であり地熱発電に適した地域だそうです。発電所は地下から噴出される高圧蒸気と、共に噴出される熱水を減圧沸騰させた低圧蒸気の2種類の蒸気を、蒸気タービンに導いて発電するダブル・フラッシュ方式を採用し、出力は最大1,998kWで、約4,000世帯分の発電を行う計画です。
 なお、東芝グループと中部電力グループにとって、地熱発電所の建設は今回が初の試みとなります。発電に利用する熱水は、発電後に地元の温泉事業者である(有)中尾温泉へ配湯する計画で、温泉事業と地熱発電事業が共存・共栄していくシステムの構築を目指すとしています。


 オリックスは2022年に稼働予定で、北海道函館市南茅部で設備容量6,500kWの「南茅部地熱発電所」の建設に着手しており、バイナリー方式では国内最大規模の地熱発電所になるそうです。年間発電量は最大約5,694万kWhを見込んでおり、一般家庭約1万8,250世帯分の年間消費電力に相当する(1世帯当たり約3,120kWhで算出)ものです。施工は日鉄エンジニアリング及びきんでんが担当しています。

 オリックスは、設備容量1,900kWの地熱発電所を温泉旅館「別府温泉 杉乃井ホテル」にて保有・運営していて、八丈島では2022年の地熱発電所の運転開始を目指すなど、地熱発電事業を積極的に展開しています。


 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2020年7月9日、超臨界地熱発電の実現に向けた取り組みとして、新たに3件の研究開発プロジェクトを採択しました。超臨界地熱資源の分布・性状・規模などを把握できるようにし、調査井掘削の成功確度向上を目指しています。

 日本国内には、合計100以上の活火山が確認されており、こうした火山地帯の深部3〜5kmには、400〜500℃程度の高温・高圧の超臨界水が存在すると推定されている。これを活用し発電する超臨界地熱発電は、従来の地熱発電より発電所当たりの出力を大規模化することが可能とされています。政府はこの超臨界地熱発電技術について、2020年1月に策定した「革新的環境イノベーション戦略」の中で、温室効果ガス排出量を大幅に削減する革新技術の一つに位置付けており、2050年頃の実用化が検討されています。

 NEDOは2017年度から超臨界地熱発電の実現に向けたプロジェクトを推進しており、現在は発電コストの試算などの実現可能性調査を終え、フェーズIIとして実際の調査井採掘に向けた事前検討を進めています。
 採択した3件の研究開発プロジェクトは、この調査井掘削の詳細検討に向けたもので、「資源量の評価地域の追加」、「調査井掘削に必要となる資材(ケーシング材およびセメント材)の開発」、「超臨界地熱貯留層のモデリング技術手法の開発」の3つです。

 「資源量評価」は、2018年度以降、モデルフィールドとして後志(北海道)、仙岩(岩手県)、八幡平(岩手県)、および豊肥(大分県)の4地域を選定し、作業を実施してきたものに、新たに秋田県湯沢市南部地域を加えています。

 「調査井掘削における資材の開発」は、掘削時に必要になる高温状態でも耐腐食性の強い新たなケーシング材の開発を目指すプロジェクトです。これまで用いられていない鋼材の検討やコーティング材の性能評価を実施するとともに、高温下でも安定した強度を保持する新たなセメント材を開発し、調査井掘削に向けてコストパフォーマンスを発揮できる材料の提案を目指しています。委託先は秋田大学と、エヌケーケーシームレス鋼管だそうです。

 「モデリング技術手法の開発」では、熱・水を対象とした従来のシミュレーションに加え、超臨界地熱資源の存在が推定される環境(地下状態)での評価に求められる力学(岩石の破壊や変形挙動)や、化学(鉱物の溶解・沈殿挙動)の現象を再現する地熱系の数値シミュレーションの開発に取り組みます。この手法により、地下の状況(特に浸透率への影響)をより正確に再現し、調査井掘削地選定や資源量評価の精度向上、人工貯留層を造成した際の地層への影響などに関してより正確な情報を得られるようにします。委託先は産業技術総合研究所、東北大学、大成建設となっています。


 現状について、大ざっぱ内容を概観しました。ちゃんと調べたら、もっと有意な内容を提示できるのでしょうが、私にはこれで限界です。地熱開発と実用化は、日本の命運を担っています。できうることなら、もっと巨額の研究開発費を投入していただきたいです。
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拾壱     こういうのができの悪い文化論です(2021/5/30)
 少し前に、「七      できの悪い文化論はもうたくさん(2021/5/5)」を書きました。私はこのような偏った文化論が嫌いです。今まで、屑みたいな文化論が数多出版されました。

 駄目な文化論のポイントは、次の2点にまつわるものです。
 ごく一部を取り出して、全体に敷衍する手法です。例えば、どこかの大学の先生がドイツに半年の研修に行き、その際の見聞から偉そうなことを書いていました。
 曰く「ドイツでは旧い建築物を保存し、また同時に再現するなど旧きものを大切にしている。対して、日本は新しいビル群を建設して古き良きものを捨て去っている」
 ねえ、もう馬鹿みたいな主張でしょう。グロピウスやミースを知らないんですね。近現代建築を語るなら、少しは調べろよです。ドイツ建築が果たした功績を知らないんです。
 逆に、日本においても各地で旧都を保存しているし、そもそも日本家屋って、室町時代の様式を今に残しているのにね。

 林望氏の『リンボウ先生シリーズ』もまた典型です。林氏がケンブリッジ大学とオックスフォード大学での研究のためにイギリスに長期滞在し、その間に見聞した随想をたくさん書いています。ここで、イギリスがいかに紳士の国であるかを書き連ねているんですが、誰も突っ込んだことでしょう。林氏が交流した階層が、上澄みだっただけじゃんと。
 こんな風にごく一部を以って全体に敷衍する、まして国民性にまで敷衍するのがおかしいって気づかないものなのか。同様にもうひとつ駄目なスタイルがあります。

 会田雄次氏の『表の論理・裏の論理』に代表されるタイプです。この中で、「猛獣に襲われたとき、日本の母親は猛獣に背を向けて子どもを抱きかかえる。対して、欧米の母親は子供を背にして猛獣に向き合う」とし、こんな具合に日欧の違いが見て取れるとしていました。

 これを読んだ方はみんな突っ込んだでしょう。お前は、日欧の母子を猛獣の檻に入れて、どのような反応を示すか実験をしたのかと。これって、単なる自分の思い込みを前提にして国民性を語っているんですね。もう、噴飯ものです。

 文春オンラインに掲載された雨宮塔子氏の「息子はフランスの高校1年生、生活指導の面談で感じたこと」 です。元は、「文藝春秋」6月号の「巻頭随筆」に載ってるそうです。
 読んでいただければ、なんの根拠もなしに思い込みで決めつけているのが判るでしょう。

 もしこれが日本だったら? 1カ月も離れるのは無責任だと批判されるか、あるいは、こういう母親だから息子の躾もなっていないのだと言われるだろうか?

 申しわけないけど、カテゴライズを非難する雨宮氏自身が、確固としたカテゴライズで語っています。高校生の遅刻に対して、仕事で不在の親に向かってどうこう言う先生なんていませんよ。私も遅刻が多い生徒をガミガミ叱りましたけど、親の躾がどうとか非難するなんて思いもよりません。そんなの聞いたことないです。
 もちろん広い世間には、いろんな先生がいるでしょう。しかし、それはフランスの先生だって同じです。いろんな人間がいますから、いろんな対応というか、いろんなもの言いをするでしょう。

 こんな風に、自分の思い込みを一般的な事実であるかのような前提で文化を論じる胡散臭さ、勘弁してほしいんです。私はこういうのを文化の摘み食いって云ってます。ある断片を都合よく極大化し、国民性として論を張るやり口です。ご本人には気づいてほしいな。
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拾      コロナと五輪(2021/5/25)
 一昨日から IOC のバッハ会長の発言が物議を醸しています。

 国際ホッケー連盟のオンライン総会で、「五輪の夢を実現するために誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない」と発言したそうです。

 これを受けて、「オリンピックは犠牲を払って開催するものなのか」などの趣旨で反発を受けているそうです。日本人って駄目ですね。いえ、日本だけじゃなく、世界中の人間が被害者ポジションに立つことによって、無謬の高みから他者を非難するのが潮流ともなっています。LGBT運動も典型でしょう。

 今、五輪を実施するとなると、選手関係者だけでなく、スタッフ、観客、衣食住をサポートする者ら、あらゆる人間が犠牲を強いられるのは当然のことです。その当たり前のことを当たり前に言っただけなのに、文句をつけなきゃ気が済まないみたいです。
 五輪開催ともなれば、仮令コロナ禍がなくても、受益者が生まれる一方で被害を被る人間は必ず出来します。犠牲は必ず生じるんです。なので、それが嫌なら最初から五輪なんぞ反対すべきなんです。今頃になって、なにを言ってんだか。

 IOC が開催国に途轍もない負担を強いるのは世界の常識だし、長野五輪ですでに経験したことです。日本はそれを承知の上で手を挙げたわけで、今さら IOC の銭ゲバぶりを言い募っても自業自得としかいいようがありません。嫌なら、最初から「スポーツ五輪なんぞいらん」と背を向けるべきでした。

 5月19日の共同通信の記事から引用します。

 日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事(56)が19日、東京都内で共同通信のインタビューに応じ、開催に否定的な世論が強い東京五輪について「国民の多くが疑義を感じているのに、国際オリンピック委員会も日本政府も大会組織委も声を聞く気がない。平和構築の基本は対話であり、それを拒否する五輪に意義はない」と厳しい意見を展開した。
>五輪開催「意義ない」と山口香氏


 コロナ禍での開催の意義として叫ばれる「スポーツの力」にも違和感を示し「薄っぺらい」と断じた。
 最近は批判の対象にもなる選手には「五輪と向かい合う時期だと思う。五輪に意義があるというなら、自分たちで立証していくくらいの気概を持ち、これからのスポーツ界を変えていってほしい」と意識改革を願った。


 ほろぼれする男前な発言です。メッセージの芯の強さと視野の広さに、ちょっと痺れました。モスクワ五輪不参加決定を受け、カメラの前で泣いて見せた山下氏と大違いです。
 数兆円の負担を強いる五輪を前にして、スポーツの意義を語ったところでなんの説得力もありません。この点に思いが至らないアスリートはきっと頭が悪いんでしょう。あるいは無神経なのか、現実が見えないのか。


 昨日の読売新聞オンラインの記事です。
 周囲の制止振り切り突っ走る首相、高齢者接種「7月完了」譲らず…[政治の現場]ワクチン<1>

 菅首相が恣意的な人事で以って、強権的に官僚に対する手法は嫌いです。ただし、それは平時の話で、有事においては許されるものと考えます。
 厚労省に任せていたのでは、ワクチン接種が遅々として進まない状況があったのでしょう。横から総務省を使って自治体の尻を叩いているそうで、この点を批判的に捉える向きもありましょう。しかし、今回の件に関しては、無理押しであろうともやらないよりやるべきと考えます。他国がワクチン接種で成果を上げているのも、戦時体制で無理押ししたればこそじゃないでしょうか。ジョンソン首相もゴリゴリで突っ走っているそうですし。
 「周囲の制止振り切り突っ走る」でなけりゃ、そのときには「果断な実行力に欠ける」とか叩かれるものと想像します。
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九      世間の話題二点を体験しまし(2021/5/17)
 婆さんへの2回目ワクチン接種を終えました。先月に第1回目を受け、その場で2回目の接種日を指定され、昨日日曜に接種を終えたものです。
 小さな町とあって人口も少ないので、1時間での接種者数は40〜50人ほどだったかな。4人の医者が接種可否の予診を担当し、4チームの看護師さんが接種していました。

 他にも誘導、受付、接種認証、初回者に対する次回予約、待機管理などの役割分担で会場を回していました。なお、誘導役を担う方が、各ポイントごとにいて、それぞれが手慣れた風で効率が上がっていました。今は75歳以上のお年寄りが対象なものだから、手がかかるんですね。回を重ねているので、記入漏れが多い箇所も把握していて、入場待機場所で待つお年寄りに念を入れていました。

 電話で申し込もうとする方々は、今も苦労しているそうです。知り合いは、電話がどうしても繋がらないので、娘にネットで予約してもらったそうです。その方は今月末の接種とのことなので、2回目は来月下旬ということになります。
 我が町での75歳以上接種完了は、6月末の模様です。その後に65歳以上〜74歳への接種が案内されるものと考えられます。該当者への接種券送付は5月中旬以降とのことなので、近々私にも届けられるでしょう。受付開始の際には、ネットでずばっと予約しますよ。


 今年3月頭に中国が台湾産パイナップルの輸入を禁止したため、台湾が日本への輸出に舵を切りました。台湾産は甘いとかと話題になり、私も味わってみたく、スーパーの店頭に眼を光らせていました。先週のこと、ついに地元大手スーパーが販売を開始し、すかさず買いました。
 昨日、切り分けて賞味しましたよ。フィリピン産だと酸味が感じられるところ、台湾産は完全な甘みのみでした。また、いわれているように芯も問題なく食べることができました。柔らかく、ちゃんと甘みがあるんですね。

 値段も1個580円の安さで、割安感が満点です。価格については、台湾側も破格の安さで輸出しているそうです。中国向け価格より相当安くしているそうで、まさに「この奇禍居おくべし」とばかり、日本への浸透を図っているものと想像しています。なんか、蔡英文総統が呂不韋と重なって見えます。やり手なのは間違いないでしょう。

 皆さんにも台湾産パイナップルをお勧めします。売れることによって、スーパーさんが販路を確保するものと期待しています。今後は定期的に賞味したいですから。
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八      鉛筆の様変わり(2021/5/9)
 昨日のYahoo! Japan ニュース「【特集】昔はHB いまの主流は2B! 4Bや6Bも… 子どもの鉛筆事情 太く濃く… 筆圧や学習、生活が影響?」です。長野放送のニュースを記事にしたものです。記事中のトンボ鉛筆関係者による総括を引用しておきます。

 トンボ鉛筆によりますと、鉛筆の売り上げは、1999年はHBが43%、2Bが22%でしたが2006年に逆転、現在では全体の半分以上を「2B」が占めています。

 「事務用で使っていた鉛筆が“IT化”によって消費量が少なくなっているということ。鉛筆の主要マーケットが学習用に変わってきている。どんどん濃い鉛筆の方向は加速している。今、2Bを使っているお子さんが7割、HBはわずか5%」

 「パソコンやスマホが普及し、大人が鉛筆を使わなくなったこと」、「子どもも以前より濃い鉛筆を使うようになっていること」、この2つが売り上げでも「2B主流」の要因になっているということです。


 私はデザイン教育に長く携わっていたので、鉛筆の選択には意を用いました。
 まず、版下の下図は精度が求められるので、細く表示できる2Hを指定し、それ以外は複数鉛筆を用途に応じて使わせました。
 特にデッサンには、大まかな描線、細かい描線、あるいは陰影の表現それぞれに異なった鉛筆が必要となります。そこで、HB、B、2B、4Bを配布しました。

 小学生であれば、HBか2Bでしょう。特に低学年であれば、2Bも頷けます。信州大学教育学部(書写書道教育)の小林比出代教授の説明には納得させられます。

「“はね”とか“はらい”という特徴が漢字やひらがなにある。そういった特徴を勉強するのには硬い芯より、軟らかい芯、毛筆に近い筆記具の方がわかりやすい」

 これですね。“はね”、“はらい”、“とめ”の学習には、柔らかく太い描線が適しています。ここを習得するには、ノートに書かれた字に差異が明確に表れないと、理解しずらいですから。書道だと迷う余地はありませんけど、硬筆でも最初からきちんと表現するに越したことはありません。

 高学年になるとHBが多くなるそうで、適切に運用されている印象です。学年が上がるに従って、漢字の画数が多くなりますから、太い鉛筆だと不便が生じます。また、学習量が増えるに従って、ノートへの書写量も増えます。すると、必然的に字のサイズが小さくなります。個人的な印象ですが、高学年になっても太い鉛筆を使っている生徒は、学習量が少なめなんじゃないでしょうか。

 ところで、鉛筆とペアになる文房具といえば消しゴムです。世間ではどのブランドが優勢なのでしょうか。有名なのは、トンボの「MONO」でしょうか。誰もが知っているブランドですね。
 私もこれを買って配布もしました。しかし、貴重品として最優先で配布したのは三菱の「uni」です。これこそが消し味最高で、紙を傷めずカーボンだけをきれいに取り除いてくれます。つまり、ゴム質の柔らかさがポイントなんです。

 その「uni」にも、スペシャル品が存在します。鉛筆をダースで買ったとき、ケースごとに1個おまけで付いてくる「uni」が貴重なんです。これは、通常の「uni」よりさらに柔らかいゴムで、紙の上に付着しているカーボンをシンナーで拭うがごとく取り去ることができます。鉛筆を購入するごと、おまけの「uni」を集めておき、新入生に配布物として貸与しました。
 「これを使いきったら、通常の「uni」か「MONO」だぞ。失くさず大切に使えよ」と勿体ぶったものです。で、その「uni」を実際に体験した生徒が驚くんですね。大して力を加えず、撫でただけで紙がクリーンになる快感は、他の消しゴムでは味わえません。

 で、生徒たちに念押ししました。「おまけの消しゴムがスペシャルなのは秘密だから、誰にも言っちゃあ駄目だぞ」
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七      できの悪い文化論はもうたくさん(2021/5/5)
 先月のYAHOO!JAPAN ニュースで見かけた変な記事です。脳科学者の中野信子氏が日本人の国民性を云々した「私が損をしているのだからお前も損をすべき!」です。
 これがもう、絵に描いたような駄目な文化論なんです。皆さんも読んでください。こういう性質の悪い記事や書籍に騙されないためにも、あるいはものごとを正しく見抜けるよう他山の石としましょう。

 残念ながら(? )、日本人は他国よりも顕著に「スパイト行動」をしてしまうという結果が報告されたわけですが、このスパイト行動とは、相手の得を許さない、という振る舞いのことです。もっと言えば、「自分が損してでも他人をおとしめたいという嫌がらせ行動」とでも言えばよいでしょうか。

 こういうの本当に苦手です。論拠を示さないまま国民性を云々する、よくある文化論です。

 大阪大学社会経済研究所の実験をご紹介します。

 実験としては、おたがいにお金を出資して公共財(道路)を造ろうというゲームをしてもらいます。プレイヤー同士がおたがいにどんな行動をとるかによって自分の損得が決まるというルールで、心理的な駆け引きが見えてくるようになっています。

 この実験によれば日本人は「スパイト行動」、つまり「自分が損してでも他人をおとしめたいという嫌がらせ行動」が顕著であったというのです。日本人は他人が利益を得ようとして自分を出し抜くことを嫌います。いわゆる「フリーライダー」を許さないのです。


 「ゲームをプレイする実験において、スパイト行動が見られた」という観察結果なわけで、現実世界の話に敷衍することに疑問を持たないのか。まして、ひととびに国民性にまで敷衍するトンデモ理論をすんなり受け入れるナイーブさはなんなのでしょうか。
 もちろん、「私が損をしているのだからお前も損をすべき!」は、少なからずあるでしょう。しかし、このような負の感情は、日本人に限ったことでもないと思うのですけど。

 この傾向は世界のほかの国の人々には見られなかったというのです。

 多くの国の人間をモデルにしたのでしょうか。その中身(データ)を知りたいものです。有意なデータであるには、各国ごと相当数のサンプルが必要です。また、性別・年齢層・職業・学歴などの幅広いサンプルが必要です。特に外国だと社会階層による断絶が顕著なので留意しなければいけません。

 政治家や芸能人のゴシップ記事で、炎上しやすいのが日本特有である理由の一端も、これで説明することができるかもしれません。
 有名税という言葉は日本特有かもしれません。自分よりもおいしい思いをしている有名人は「けしからん!」と考えるのです。


 ゴシップで炎上するのは、いずれの国にもある話だし、国によっては日本以上に激烈な反応を生じます。場合によっては、身の危険にさえ及びます。
 有名税という言葉自体は日本語でしょうが、有名人が人々の俎上に載って物議を醸すのは万国共通でしょう。アメリカやイギリスでのゴシップの凄まじさというのは、日本どころでありません。メーガン妃をめぐる騒ぎなんか、記憶に新しいし、あれで動く金は日本なんか可愛くなるほど巨額です。

 映画を例に挙げるのは気が引けますが、ゴジラ前作に登場した女性科学者なんか、このスパイト行動の極致でしょう。自分の信念実現のために、人類を滅ぼそうとまで考えたのですから。あるいは現実での類似の話としては、カンボジアの赤色クメールが分かりやすい例です。なにせ、国民全員を地獄へ沈下させたわけで、凄まじいまでのスパイト行動です。
 また、外信で頻繁に伝えられる暴動映像がよいサンプルです。暴動に乗じての略奪行為なんか、他者を苦しめることにまったく痛痒を感じていない自分勝手の典型でしょう。
 いやいや、日本人なんて可愛いもんです。
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六      新型コロナワクチン接種(2021/4/26)
 我が家にも婆さん(75歳以上)がいるので、先月のこと新型コロナワクチン接種券が送られてきました。4月5日から予約受付だったので、初日にネットで予約しました。ネットなら一発で済みました。
 ご近所さんたちは、電話が繋がらないとか文句言ってました。お年寄りにネットは鬼門なのでしょうが、家族が代わりに申し込めば済むのにね。なんか、いずこも親子断絶みたいです。

 市内各所に接種場所があり、距離があるといえ、一応がとこ町内で申し込みました。どちらかというと隣町の方が近いのですが、やはり身内意識に身を任せました。

 ということで、昨日の日曜日に接種を済ませました。年寄りなのでボケていますから、私が付き添いで手早くエスコートしました。同時に世間を賑わしている接種会場の様子を観察させていただきました。

 職員さんは大変です。私もかつて奉職した職場なので、町民へのお世話がどのようなものか知悉しています。なので、できるだけ面倒をかけないように気配りをしました。多分、職員さんたちからすると、理想的な被接種者だったことでしょう。

 医者の予診を受けた後に接種する流れです。町内の医者4名が動員されていました。私も知っている内科とか皮膚科の先生でした。呼吸器科系の医者は、残念ながら町内にはいないんですね。

 注射も実にあっけなく済みました。婆さんへの接種後に注射器を廃棄したので、最後の注射割り当てだったのでしょう。
 「その注射器は5人用ですか、6人用ですか」と訊きたかったのですが、皆さん忙しそうだったのでパスしました。

 次に二回目の接種予約です。来月16日の同じく日曜日が指定されました。

 その後、15分間の待機を経ての解散です。薬に対してアレルギーなどがある方は、30分の待機だそうです。
 「待機中に不調を訴えた方っていましたか」と訊きたかったものの、監視役の方が、えらい真剣な様子だったので止めました。仕事の邪魔になってはと遠慮したんです。

 接種会場にいた1時間程度の観察ながら、流れはスムースで問題もなくこなせていました。慣れとともに、さらにスムースさが増すでしょう。まずは安心しました。接種には時刻指定があり、指定時間内での割り当て人数も適切でした。あらかじめ予行演習を繰り返し、適切な所要時間を把握してたんですね。

 一点だけ、つまんないことがありました。男性職員一名だけが、ウレタンマスクを着用していました。愚かなのか、恰好づけなのか、どちらにしろ馬鹿な奴です。
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五      純白塗料やいかに(2021/4/18)
 Gigazine の記事「光の98%以上を反射する「最も白い塗料」が開発される、白すぎて塗った物体が冷える」です。

 ここ数年、漆黒の素材が話題になりました。
 最も比反射率が低いのは、ペンタブラック S-VIS で、カーボン・ナノチューブを使って99.96%の吸収を実現しています。イギリスのサリー・ナノシステムズ社が開発しました。
 これに次ぐのが、レンセラー工科大学(米)のチームで、同様にカーボン・ナノチューブを利用して99.9%吸収です。
 日本の産業技術総合研究所もカーボン・ナノチューブで99%吸収を実現しています。

 逆に、光を反射する素材として有名なのは、廃業したコダック社が開発した「硫酸バリウム粉末圧縮成形白色板」が最高反射率を誇っています。可視全域にわたって99%の反射率だそうです。これは検査室で扱うレベルで、時間が経過すれば空気中の不純物が混じって低下するそうです。
 ハロン粉末圧縮成形白色板も BaSO4 と同じく優れていて、長波長側の可視帯域外では上回るそうです。
 また、酸化マグネシウムも高反射率の素材です。

 記事の「光の98%以上を反射する「最も白い塗料」」も硫酸バリウムを素材にしていて、長波長側(赤外線)も反射するので、熱を受けつけないこととなります。

 白い屋根で日光を反射すると、太陽光による地表の加熱を防ぎ冷房の稼働率も抑えることができることから、ノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー氏は「温暖化をくいとめるには世界中の屋根を白く塗りつぶすべき」と唱えています。

 白色が光をよく反射するので、夏場に涼しかろうというのは常識です。特に、車の車体は金属なので、夏場に炙られて熱くなります。そこで、車体色を白にすれば緩和できるのは誰でも知っていることです。その昔、車雑誌が黒色と白色の車体温度を測定したところ、予想どおりの大差が生じました。当然のこと、白色の方がエアコンの効きがよくなります。

 屋根や外壁を白く塗りつぶせば、屋内の温度上昇を緩和できるでしょう。そのメリットは間違いなくあります。一方で、温暖化を食い止める役に立つかは疑問です。家屋を始めとした建築物を白くすれば、内部のエネルギー消費を抑えられます。しかし、太陽から降り注ぐ光は一定なのですから、他に拡散するだけです。つまり、白い屋根や外壁だと、光が周囲に散乱して大気中に熱が拡がるだけです。

 また、反射が多い環境は、視界が眩しさで辛くなります。そうなったら、暗色で落ち着いた景観を提供すべしと逆の要望が出るでしょう。
 それと、白い建物はメンテナンスに苦労しますよ。車は洗車がやり易いので問題になりませんが、建築物ともなると、汚れへの対処が難しくなります。そんなしょっちゅう足場を組んで、屋根や外壁のクリーニングや再塗装なんてやってられません。そもそも、高コストの塗料を要し、メンテナンスにも金がかかるなんて、エコに逆行する話です。

 それとね、高反射率であっても、否応もなく色染みや埃でくすんできます。反射効率がどんどん低下し、汚れも目立つしで、あとあと困るのは間違いありません。
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四      スーパースターの訃報(2021/4/12)
 先月のこと、正真正銘のスーパースターの訃報が伝えられました。キックボクシング創生に功ありというか、キックボクシングそのものであった沢村忠氏が3月26日に亡くなりました。各界の功績者がなくなると、ひとつの時代が終わったと嘆じさせられます。ところが、沢村氏の逝去を聞くと、キックボクシングそのものの終わりさえ感じさせられます。

 沢村氏の半生については、その詳細を知悉しています。しかし、あえて私が書くこともないでしょう。引退後のご本人がマスコミから完全な距離を取り、スターとしての過去を封印して一市民として生きたことから触れたくありません。私の知る限り、TV、スポーツ雑誌、格闘技雑誌それぞれ一度だけ取材に応じただけじゃないでしょうか。家庭でも過去の経歴の類を一切隠し、お子さんたちもキックボクサーの過去を知らないとかインタビューで答えていました。
 そのような生きざまがとても魅力的なんです。それを私が傍からどうのこうのと書くのは失礼かと思います。

 直接関係ない話を一点だけ書いときます。私がボクシング知識を深めたサイト管理者は、タイでのみ試合をしたそうです。日本のキックジムで練習していて、本場タイのレベルの高さに打ちのめされてタイで修業をし、やがてタイのリングに上がってキャリアを重ねたそうです。そのムエタイ時代に師匠だった方が、沢村氏と一番多く闘ったシンサック・ソー・シリパンだったそうです。後に来日し、日本で暮らしていたそうです。赤坂の韓国料理店で働いていて、たまにキックの指導に係っていたそうです。

 沢村氏が失踪して1〜2年後に正式な引退式が行われました。それまでにも引退したスター選手が幾人もいたものの、引退式は行われませんでした。最初の10カウントは沢村氏のためにとっておくべしと野口会長が定めていたためです。この配慮には、おそらくすべてのキック関係者が頷いたことでしょう。

 沢村氏が引退して間なく、月曜7時の番組は深夜に追いやられ、それも一年で終了となりました。月曜の後番組はクイズショーでした。すでにゴールデンタイムお茶の間のチャンネル権が子供や女性に移っていた故です。殺伐とした格闘技など望まれなくなっていたのです。
 TVを失ったキックは衰退の一途を辿りました。興業が大きく減るや、選手も辞めたりでジムも離合集散を繰り返して業界が縮小しました。


 同じ3月、元ボクシング統一ミドル級王者のマービン・ハグラー氏も亡くなりました。沢村氏がキックボクシングそのものであったように、ハグラー氏もボクシングそのものを体現したかのようなアスリートでした。
 戦績は67戦62勝(52KO)3敗2引き分けです。3敗と2引き分けは、すべて判定であり、レナード選手に喫した敗け以外は、後に再戦してKO勝ちを収めています。

 その強さというのが、パーフェクトといえるものでした。ミドル級としては身長が低めながら、リーチが190cm近くあるという恵まれた体格でした。加えてスイッチが巧みで、どちらでも完璧なボクシングができました。すべてのパンチが強く、ガードも強固でした。また、当て勘がよく、動く相手をピンポイントで仕留めることができました。
 ハグラー選手の絶対的強みは、打たれ強さとスタミナです。鋼鉄のような頑丈さと無尽蔵のスタミナを誇っていたので、相手が誰であろうが、最後に立っているのはハグラー選手でした。ラストファイトのレナード戦を判定で落としたのは悔しかったろうと想像されます。本来、敗ける相手でなかったものを、変に余裕を演出してポイントを失いました。後半に入ってから危機感を覚えたのか、遮二無二な攻勢に出て挽回しましたが、ときすでに遅しでした。

 この敗け試合を悔やんだためでしょうか、あるいは判定に納得できなかったのでしょう。あっさり引退しちゃったんですね。引退が惜しまれるボクサーの最右翼だったのは間違いありません。引退時点でさえ、文句なしの最強ボクサーだったのですから。

 沢村氏といい、ハグラー氏といい、現役時代は実にストイックな選手生活を送っています。でなけりゃ、あのような偉業を打ち立てることはできなかったでしょう。強くあれかしと一途に打ち込む姿を見て、誰もが魅せられたのです。その二人が亡くなったことで、最初に書いたように、時代の終わりを痛感させられるのです。
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参      カーボンフリーの世界は(2021/4/3)
 昨日の JBpress の記事「「国境炭素税」で新しい貿易戦争が始まる」です。

 この新しい枠組みは、かなりの確率で実施されそうです。そのとき、下手すると日本は沈没する惧れがあります。

 ややこしい話です。このややこしさを整理し、関税として実施するには根拠となるデータが必要となります。そのためのデータ作成が世界規模で行われています。そのあたりを概観すると、一筋縄でいかないことが分かります。エリアごとにカーボンニュートラルの比重が異なっていて、国(地域)ごとに利権のぶつかり合いが起こりそうです。

 今後、カーボンニュートラルを目指した政策を見据えるでしょうが、それには膨大な統計データが必要です。多分、IEA(国際エネルギー機関)がその任に当たっているものと思われます。そのIEAのデータからは、難しい問題が見て取れます。

 社会活動部門ごとのCO2排出量は、国(地域)ごとに比率が異なっています。日本、EU、アメリカ、中国の4エリアを比較した際、各国ごとの部門比率を見ると、国ごとに事情が大きく異なっているのです。「発電」は日本、「民生」はEU、「輸送」はアメリカ、「産業」は中国がそれぞれ最大となっています。なかでも、アメリカの「輸送」と中国の「産業」比率は頭抜けて大きくなっています。

 カーボンニュートラルに踏み込むには、これらの相違をLCA(ライフサイクルアセスメント)として、部門間の関連性を紐づけて数値化しなければいけません。先日、VWがドイツだったかEUだったかでのLCAをアナウンスしていましたね。この数値が今後、極めて需要な点となります。マツダも同様の発信を数年前から行ってきました。
 とても重要な点なのに、なかなか採り上げられません。EUの2021年CO2排出規制も、EV車はゼロとして計算されています。ガソリン車とEV車とでは、EV車のCO2排出量の実態は、ガソリン車の7〜8割掛けと分かっていながらです。また、HV車は生の燃費を扱うのに、PHV車はほぼ1/2の計算で優遇されています。実際には、バッテリー負担が大きいPHV車のCO2排出量が多いにも関わらずです。

 ただ、これは仕方ありません。EUの規制ですから、EUが恣意的に立法するのも当然でしょう。アメリカでは、カリフォルニアのZEVがEU以上に一方的な規制です。バイデン新大統領の元、他州もCO2規制を厳しくするであろうと覚悟すべきです。

 中国のNEVもカリフォルニアのZEVに準じた規制だったものを、トヨタのはたらきかけが功を奏し、HVが優遇対象になったのは幸いでした。というか、本当にCO2削減を推進するなら、HV車こそが現時点での最適解なのは間違いありませんから。

 今後、難しい舵取りを迫られる中、日本の課題というか弱点は、「発電」部門の負荷が半端なくでかいことです。「2050年における電源構成の試算」を眺めても、その困難さが理解できます。

 「原子力利用のフルオプション」でも、日本はEUやアメリカに比べて圧倒的に原子力比率を高めなけなければいけません。「原子力なしオプション」だと、EUやアメリカが太陽光と風力で9割ほど賄うところ7割止まりとなり、2割ほどを「その他の再エネ」で賄うこととなります。これは多分、地熱がメインなのでしょう。「その他の再エネ」は、「フルオプション」の場合でも2割弱を要し、重要な役割を担う予測です。
 さいわい、手間と時間のかかる地熱開発も地道に取り組まれています。地熱が上手く回るよう期待しています。

 最初に掲げた「国境炭素税」の問題をクリアするには、何をさておいても発電部門のCO2低減と低コスト化が必須となります。ここをないがしろにすると、日本の製造業は壊滅するしかありません。法制化に向け、日本も積極的に係っていかないと、他国にいいように食いものにされるだけです。そのためには、国際的な発信力と最初に書いた根拠データの提示が重要事となるわけです。
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弐      韓国映画がクール(2021/3/21)
 2月最終週の 九百九拾九  大作延期中は韓国映画で(2021/2/27)で、次は『幼い依頼人』を観る予定です。実際にあった凄惨な児童虐待死亡事件を元にしているそうで、今から楽しみです、と書きました。観劇したところ、期待を裏切られませんでした。2013年に起きた「漆谷継母児童虐待死亡事件」を下敷きにした2019年の作品です。

 弁護士事務所の採用試験を不採用になった主人公が児童福祉施設に勤務し、継母から虐待を受けている少女から相談を受けます。親権の壁に阻まれてなにもできないうちに弁護士として新生活を始めます。その虐待を受けていた幼い姉弟の弟が継母からの暴行で死に、継母が死亡の責任を姉に被せました。頼るもののない少女は主人公を最後の頼みとし、主人公が勝ち目のない裁判に挑んでいく内容です。

 邦画にも幼児虐待をモチーフにした作品がありましたが、いずれも中途半端でした。『幼い依頼人』は法廷での決着まできっちり仕上げていて、完成度の高さがレベル違いです。人間の醜さに正面から向き合い、重く暗いテーマを扱いながらもエンターテインメントに昇華させています。

 本作を観ると、児童虐待が問題となっている韓国の現状が伝わってきます。韓国の児童虐待は増加傾向で、2001年:4,133件、2015年:1万9,208件、2017年:3万4,169件だそうです。もちろん、数の多寡の話でないし、仮に少なくても重大な関心を寄せるべきです。日本における幼児、児童虐待も極めて深刻で、鬼畜の如き所業によって幼い命が奪われることは絶無にしなければいけません。
 この映画は観る者に、幼児、児童虐待についてあらためて考えさせる力を有しています。

 『悪人伝』もまた、極上のエンターテインメントでした。シリアルキラーとこれを追う暴力刑事、ここに武闘派暴力団組長が加わって三つ巴の追跡劇が繰り広げられます。武闘派組長を演ずるマ・ドンスクがいいんです。100kgの筋肉が暴力への説得力を付与しています。冒頭で、対立組織のチンピラをサンドバッグに入れて吊るし、フックで殴り倒す場面が挿入されています。そのフックが本物なんです。シリアルキラーに襲われた際、瀕死の重傷を負いながらも反撃して逆に斬りつけます。そのアクションシーンが演技以上なんです。

 屈辱にまみれた組長は、刑事への情報提供を拒否して自分で片をつけようとします。やがて、連続殺人犯の手強さを知って、刑事と協力して追い込んでいきます。もうね、ワクワクするプロットです。アメリカの映画会社が版権を買って、スタローン制作でリメイクする話にも納得です。

 邦画でこの暴力を描こうとするなら、半世紀前の東映以外では無理です。『仁義なき戦い』撮影時の東映なら、役者たちも暴力団員の生態に詳しくて、リアルな暴力シーンを描けたでしょう。今は、もう俳優からして力不足です。

 『弁護人』は、2013年に公開されたソン・ガンホ主演の社会派法廷ミステリーです。若き弁護士時代の盧武鉉元大統領をモデルにした実話だそうです。1980年代の全斗煥大統領時代、南北軍事対立が厳しかった時期を背景にしています。光州事件の余波も生々しい時代だったのでしょう。国家安全企画部が峻烈な対応をしていた公安事案に、ソン・ガンホ演じる弁護士が挑む内容です。土地登記や税金を扱っていた弁護士が、専門外の刑事事件−それも公安マターに係っていきます。

 80年代の韓国を知る者としては、本当にリアルに迫ってくる映画です。まさに、このとおりだったでしょう。主人公の奮闘虚しく、検察と警察はすべてを圧し潰してしまいます。韓国の50代以上の人間には、光州事件の惨劇は未だ癒えぬ傷なのでしょう。
 文在寅大統領が熱狂的な支持を得たのにも理由があるんですね。盧武鉉人気と氏の後継者ゆえだけではありません。検察改革の必要性が国民全般の共通認識なのでしょう。そのあたりの空気や熱量が、この映画から伝わってきます。

 映画を通じて、韓国人や韓国社会を知ることができます。日本と似た面もありますが、違った面も多々あり、その違いというのが映画をよりドラマチックに生かしているやに思えます。『パラサイト 半地下の家族』なんか典型でしょう。日本人のメンタリティでは理解し難いし、社会構造もまるでドラマのつくりごとかと思わせます。でも、事実なんですね。今や日本も相当ですけど、韓国の階層の分断ぶりは半端じゃありません。いえ、世界的な視野で俯瞰すると普通のことなのでしょう。しかし、日韓は風貌が似ているだけに違いが際立つんですね。
 そのような韓国社会のあり方は、映画づくりの観点からすると、ドラマチックな要素を生み出します。となると、今後も邦画は後塵を拝し続けるしかありません。
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壱      被害者ポジションが力を発揮する(2021/3/14)
 ミネソタ州のミネアポリス市は、昨年5月に白人警官に取り押さえられて亡くなったジョージ・フロイド氏について、遺族に2,700万ドルの和解金を支払うことで合意したそうです。

 氏の死後、世界中で氏を悼む運動が沸きおこりました。ミネアポリスでは英霊として、ヒューストンでは天使として、またナポリでは血を流す聖人として祀り上げられました。世論対策としての巨額和解金で、アメリカならではでしょう。ここまでいくと、さすがに理解が追いつきません。

 また、米CBSがゴールデンタイムに放送した番組が世界を駆け巡りました。英王室を離脱したメーガン妃夫妻が、米著名司会者オプラ・ウィンフリー氏とのインタビューで王室の一員としての生活を振り返り、メーガン妃が英国メディアから「人格攻撃」を受けたと語る場面や、自身や夫、子どもの幸福より王室のイメージを重視する態度に傷つけられたと吐き出す場面が注目されました。
 CBSはオプラ・ウィンフリー氏の制作会社に700〜900万ドルの放映権を支払ったとされ、その契約金の相当が夫妻に渡ったともいわれています。

 言葉は悪いのですけど、人権をネタに被害者ポジションを得ることが金の卵を生み出すとの印象を持ってしまいます。このような印象を持つのは、私が俗物だからなのでしょう。金になるかはともかく、BLM 運動が強権を発揮できるのは間違いありません。そこに違和感を持ってしまうのです。本来、リベラルというのは信条や発言の自由を大切にする側なのに、今や抑圧する側に立っているのです。

 その代表的な案件について、先月の News week 記事「ディズニープラスの「マンダロリアン」に出演するジーナ・カラーノが、SNSへの不適切な投稿で契約解除された。「#MeToo」以降、ハリウッドは大きく変化した...... 」から引用します。なお、ポイント部分をピックアップしています。

 差別発言をしたらクビ、は近年のハリウッドでは常識
 カラーノは、以前から、コロナ対策でマスクを着ける人たちやトランスジェンダーの人たち、また「Black Lives Matter」運動の参加者たちをバカにし、差別するコメントをソーシャルメディアに投稿してきた。そのことに頭を抱えてきたディズニーとルーカスフィルムは、今回の投稿で、まさに堪忍袋の尾が切れたというわけだ。

 カラーノは、これから製作される「マンダロリアン」第3シーズンにも登場するはずだったし、さらには彼女を主人公にした新たなシリーズが作られる計画もあったようだが、それらはすべて立ち消えてしまった。この展開を受けて、カラーノが所属していた大手タレントエージェンシー、UTAも、彼女との契約を打ち切っている。

 問題発言、とりわけ差別発言をしたらクビにされるというのは、近年のハリウッドで、もはや常識。大物スターであっても、主役であっても、容赦はない。

 たとえば、2018年には、当時トップの視聴率を誇っていたコメディ番組「Roseanne」から、主役でプロデューサーのロザンヌ・バーがクビにされた。トランプ支持者であるバーは、かつてオバマのアドバイザーを務めた黒人女性に対する人種差別コメントをツイートしたのである。主役がいなくなったことで番組は打ち切りになったが、巻き添えを食った共演者たちはバーのキャラクターを死んだことにして番組を続けたいと主張し、見事、実現させた。主人公のロザンヌがいないので、タイトルは「The Conners」(コナー一家)に変更され、今も続いている。

 民主党支持者も、差別発言でクビに
 カラーノも、バーも、自分たちが受けた仕打ちは民主党支持者からの嫌がらせだと激怒し、反発した。しかし15年間もディズニーのCEOを務めてきたボブ・アイガーは、広告収入を稼いでいる人気番組を諦めてでもバーをクビにすると決めたのは「正しいことをしなければいけなかったから。政治的に正しいか、ビジネス面で正しいかではなく、純粋に正しいことをするべきだったからだ」と述べている。

 また、ディズニーは、バーがクビにされたのと同じ2018年、民主党支持者の映画監督も、やはり差別発言のせいでクビにしているのだ。マーベルの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」を監督したジェームズ・ガンである。

 ガンの場合、原因となったのは、その頃の発言ではなく、10年ほど前に彼が投稿したツイートだ。それらのツイートで、ガンは、AIDS患者や太った人を差別したり、レイプを肯定しているようなセクハラ的なジョークを書いたりしていた。今さらそれらを持ち出してきたのは、保守派のウェブサイトである。トランプと共和党支持者をツイッターで激しく攻撃してきたガンは、敵によってこんな形で報復を受けたのだ。

 「#MeToo」以降、大きく変化した
 「#MeToo」でも、ディズニー及びピクサーのトップだったジョン・ラセターや、アマゾン・スタジオズを立ち上げたロイ・プライスなど、「まさかこの人がこの会社からいなくなるの?」と思われる大物が、ばっさりと切られた。

 人権重視に否やはありません。しかし、過去のあれこれまで採り上げるのは、さすがに嫌な空気です。ハリウッド人士にとって、非米活動委員会は不倶戴天の敵だったはずです。なのに、形は違えど、あるいは正義のあり方は違えど、人を黙らせ、人生を奪うやり口が同じなんです。こんなんで、リベラルを名乗っていいのでしょうか。

 MeToo でもやりすぎと思えるケースがありました。残念だったのは、ウディ・アレン氏への断罪です。過去において性的虐待の告発を受けたことがあります。その不起訴案件を蒸し返され、一昨年に制作した『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』のアメリカ上映が延期になったままです。『ミッドナイト・イン・パリ』にも似た、アレンらしい洒脱で先の展開が読めない映画です。
 グレーゾーンの案件を持ち出して外部が断罪するのは、推定無罪を無視して犯罪者扱いするのと同じです。リベラルも墜ちたものだと残念に思います。

 こういう被害者ポジションを活用している日本人といえば、小池都知事を真っ先に思い浮かべます。
 2年ほど前のことです。平井伸治鳥取県知事が全国知事会で、地方税収の大都市から地方への配分強化を巡り、東京都に譲歩を促そうと「母の慈愛で大都市と地方が折り合える案を考えてほしい」と発言しました。後日、小池知事は記者会見で、「私は母になれなかった。安易な発言で大変傷ついた」と不快感を示しました。

 これってくだらないんです。自分の経験にないことを、「体験していない事象を押しつけてくるな。失礼だ」とか言ってたら、貧しい会話しか成立しません。政治家は未来を語ったり、大きな予想枠を想定しなきゃならんのに、仕事が務まらないでしょう。

 質問:東南海大地震によって、関東が機能不全に陥る恐れがある。東京都として対応を考えているのか
 答弁:私は関東大震災クラスを体験していない。経験値のない人間に対する安易な質問であり、大変傷ついた

 まるでジョークでしょう。都知事選立候補時の成功体験−つまり、被害者ポジションを得るべしを実践しているのでしょう。極めて有効な手法なのでしょうが、メーガン妃の件といい、ジョージ・フロイド氏の件といい、あんまし好きになりません。まるで、人権問題を金に換える算段に見えて仕方ないのです。
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