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百四拾    井上選手完勝(2023/12/30)
百参拾九   ダイハツゲート事件(2023/12/23)
百参拾八   日露戦と宇露戦を並べる愚かしさ(2023/12/16)
百参拾七   承天閣美術館、福田美術館訪問(2023/12/8)
百参拾六   カセットデッキ蘇生中(2023/11/30)
百参拾五   為替について(2023/11/21)
百参拾四   望外の良展覧会「20世紀美術の冒険者たち」(2023/11/12)
百参拾参   『ゴジラ-1.0』は傑作(2023/11/7)
百参拾弐   イスラエルは中東の癌(2023/10/29)
百参拾壱   誤用というな(2023/10/22)
百参拾    「ぶらぶら美術・博物館」ロス(2023/10/14)
百弐拾九   ジャニーズ問題に感じる不整合(2023/10/10)
百弐拾八   韓国映画二題(2023/10/2)
百弐拾七   『異星の客』の凄さ(2023/9/26)
百弐拾六   台湾有事を言い募るのは何なの(2023/9/17)
百弐拾五   ジャニーズ問題縹渺(2023/9/10)
百弐拾四   「今どきの若者は」の嘘(2023/9/3)
百弐拾参   日本人のコミュニケーション能力について(2023/8/26)
百弐拾弐   ジョン・ワーノック氏逝去(2023/8/21)
百弐拾壱   井上選手は大谷選手に倣うべし(2023/8/12)




百四拾    井上選手完勝(2023/12/30)
 今週火曜日に有明アリーナで4団体S.バンタム級王座統一戦が開催されました。WBC/WBO王者 井上尚弥 vs WBA/IBF王者 マーロン・タパレス戦で、10RKOで決着しました。

 スタッツを見ても井上選手が3倍ほどパンチを当てていて、一方的な内容でした。ただ、ファンが期待したほど鮮やかな内容ではありませんでした。

 井上選手の左構えへの対応が拙かったです。逆を言うと、タパレス選手がよく考えた構えで対応していました。打ち合いに出るときは前傾で体重を乗せていましたが、それ以外では半身度を強くして後ろ重心でした。すると顔面が遠くなります。アントニオ・ターバー選手(左構え)がロイ・ジョーンズ選手(右構え)と闘った際にやった構えです。

 左構え相手だと(右脇腹への)左ボディフックが効きづらくなります。2年前にも左構えタイ選手と闘っ際も、ボディフックを右脇腹によい角度で何度も打ち込みましたが耐えられました。
 また、顔面が遠くなって右ストレートをクロスで効かせることができません。タパレス選手が打ち合いに来た場合には、右クロス、左フックを有効に打てましたが、上の構えでやり合った際には機能していませんでした。右クロスが機能せず、突き出すようなストレートでした。左右フックも顔面が遠いのでロングとなり、当たるものではありませんでした。

 左構え相手だと、右に回って位置取りをすべきなんです。お手本はバーナード・ホプキンス選手です。アントニオ・ターバー、ジョー・カルザゲといった左構えの強豪からもダウンを奪ったシーンがそれです。ホプキンス選手は右に回り込むのと同時に右クロスを打ち込みました。右からだと、位置関係から右ストレートをクロスに絞り込むことができます。

 タパレス選手も大差がついているのを判っていたのでしょう。後半には攻撃的に出もし、その機会を捉え、10Rに井上選手が正面に位置するタパレス選手をワンツーで下らせ、体重を乗せた右でテンプルを打ち抜きました。

 試合後の記者会見が糞でした。タパレス選手への質問の際、タパレス選手の上手さや健闘した部分に触れずに、「井上選手と闘った感想はいかがでしたか?」とか、内向き島国根性丸出しでした。あとの記者質問でも、誰もタパレス選手のボクシングの優れた点に誰も触れずで聞いてて恥ずかしかったです。「井上選手のパンチ力はどうだ?」「井上vsネリ戦の展望は?」とか訊いたりで、もうやめろよとか思いました。途中、パッキャオからタパレス選手へのメッセージが披露されましたが、あれですよ。あれを日本の記者も表すべきなんです。最後の記者がトレーナーに「上手くいった点と上手くいかなかった点」を質したのはよかったです。

 元ヘビー級王者ティム・ウィザスプーン氏の指摘が的確です。「今の井上選手に課題は見当たりませんか」の質問に対する回答がそれです。
 「敢えて述べるなら、ヘッドスリップしながら距離を詰めることも覚えるといい。ジョー・フレージャーが得意だっただろう。俺もあれは良く真似たよ」
 「井上は4階級を制している男だ。パワーもスピードも申し分ないが、今後、自分よりデカい相手、リーチのある選手との戦いが増えるだろう。ヘッドスリップしながら相手の懐に入って、あの強打を炸裂させるシーンを見てみたいね」
 これに尽きます。井上選手はパーフェクトと言っていいボクサーですが、より高度なボクシングを目指すなら、この潜(くぐ)るボクシングを身につけることです。現在は、速い出入りと強打で相手を圧倒しています。しかし、上のクラスで闘うとなると、大きな体でより頑丈な相手が待ってます。そこでの闘いには必須かと思います。
 2階級上げた長谷川選手がジョニー・ゴンザレス選手と闘った試合が思い出されます。長谷川選手は速い出入りで相手の長い距離を克服しようと努めましたが、通用しなかったです。あそこでも、ゴンザレス選手の強打を潜って入り込むボクシングが必要だったはずです。

 ドネア選手との初戦2Rにロープ際で左フックを食らったシーンにも言えます。あそこは本来であれば潜るタイミングでしょう。井上選手の試合は安心して見られるものの、この点だけは不満があります。
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百参拾九   ダイハツゲート事件(2023/12/23)
 年末になってとんでもない大騒動が持ち上がりました。認証に係る不正が25項目、175件の不正内容というものです。内容を見ると、OEM供給を含むほとんどの車種が関係していて、全車種が生産停止に追い込まれています。あまりな内容ですから、同情する余地がありません。

 VWがディーゼルゲートで支払った課徴金、和解金、賠償金などの総額が2兆円規模だったはずです。今回の不正規模ははるかに大きいですから、ダイハツさはん一体どう始末をつけるんでしょうか。空恐ろしいばかりです。

 経営幹部がどうこうでなく、完全に全社挙げての問題で、社風そのものを完全否定しなければいけません。かつて、姉歯氏が鉄筋艤装で建築会社を追い込んだ件も同様で、後になって取り返しがつかないんですね。カヤバが振動減衰装置不正によって、完成建築物を再調整に追い込んだのも同じです。
 一度見過ごしたら、事実関係が露呈した際に企業体そのものを揺るがしかねないんですね。こんなの怖くてできないですよ。ダイハツの場合、その出荷台数の多さからご免んなさいで済まないし、補償やリコールで企業屋台が傾く話です。従業員一人一人が、そこのところに想いを致せば決して手を染めるわけにはいかんでしょう。

 7年前に軽のディズ(三菱からエンジン供給)に燃費データ改竄があり、ユーザに10万円ほどの補償が為されました。当時、部下がディズに乗っていて、補償金で飲みに行こうよとか冗談を言ったことがあります。

 私のミラも燃費審査用試験エンジンに不正なチューニングが為されていたはずですから、今から補償を期待しています。まさか、試験に適合するよう審査用エンジンに施したチューニングを個別にやってくれるはずもありません。ポート研磨、マニホールド研磨、カム交換などで出力を増大させ、ハイオク仕様とするものです。こういうチューニングは、大歓迎です。認証モデルと同じ仕様に変更してくれるなら、むしろダイハツ様様です。よくぞやってくれたと感謝さえしますよ、私は。

 しかし、衝突試験の不正なんて、今さら対処のやりようもありません。ボディそのものの設計変更が必要になりますからね。無理である以上、補償でユーザを慰藉するしかないでしょう。審査適合車を全ユーザに提供するなんて不可能ですから。

 しかし、姉歯やカヤバの事件から学ばないんですね。愚かとしかいいようがありません。
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百参拾八   日露戦と宇露戦を並べる愚かしさ(2023/12/16)
 カセットデッキを毎日再生して馴染まそうと試みているものの不調は変わらずです。最初に再生すると高速の異常回転のままです。一時間ほど続けると正常となりますが、症状が好転する兆しが見えません。ベルトの硬化はあるに違いないにしろ、ひょっとすると、モーター制御関係も不調があり得るなあとか心配になってます。早送りや巻き戻しも中途で停止するので、その危惧を捨てきれません。取りあえずは試行を続けるしかありません。

 本日のYAHOOニュース「ロシアに勝った「日本」と、「ウクライナ」はいったいなにが違うのか」です。

 ウクライナの国際世論対策に拙劣な面が窺われるという指摘はそのとおりだし、相手国の世情に変化をもたらせる情宣活動が重要なのもそのとおりです。しかし、日露戦時の日本とウクライナの対外工作を並べて、停戦交渉への道程を云々するのは違うでしょう。

 いやもう、日露戦での様相と宇露戦とでは、何から何までまったくの別物です。。無理やり並べて「なにが違うのか」とかの話じゃないでしょう。情宣活動を挙げていますけど、それって「何から何まで別物」のうちでも小さな話です。

 地政からして比較できません。ウクライナとロシアは陸上に長い国境を接しています。日本はといえば間に日本海があり、まず以って日本国土は安泰です。戦場が中国という第三国ですから、日露双方ともに自国国土にダメージがありません。当然のこと、戦争遂行のためのインフラは無傷であり続けます。
 敢えて言うなら、ウラジオの巡洋艦部隊が通商破壊戦で大戦果を挙げています。これも一時的なもので、日本海軍が圧倒的に優勢ですから致命傷にはなりえません。

 日本側の情宣活動が成果を挙げたとか言われていますが、それもまた小さな話です。あくまで、戦場で大勝利を重ねて遼陽、奉天といった拠点放棄にまで追い込んだ戦勢こそが重要なポイントなわけで、ウクライナの現状と比較するのがどうかしています。

 ロシアを応援したのが、ドイツとフランスですね。一方の日本を英米がバックアップしてくれました。これは利害の一致によるものです。英国にしてみれば、ロシアの南下が中国利権を脅かすものと捉え、切実に日本をバックアップしました。アメリカにしても、日本への巨額借款ゆえに日本勝利を望むものでした。

 宇露戦の様相とは、あらゆる点がまったくの別物です。ネットには、得てして安易な思いつきのような記事が溢れています。上の記事も、ウクライナの対外情宣活動の拙い点を指摘しているわけで、それ自体は有意義です。そこで、日露戦時の話を絡めるからおかしくなるんです。
 国際世論対策は重要ですけど、こういう無理やり話を書く前に、立ち止まってよ〜く考えていただきたいです。
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百参拾七   承天閣美術館、福田美術館訪問(2023/12/8)
 昨日、京都の相国寺が併設している承天閣美術館開催の「若冲と応挙」展と、嵐山にある福田美術館開催の「ゼロからわかる江戸絵画」展を観覧しました。地元旅行代理店が企画した日帰りバスツアーです。
 バスは満席とあって窮屈を強いられ、今日になっても身体の節々が痛みます。バス乗車時間が11時間ほどもあったので、老体には堪えます。

 「若冲と応挙」はガッカリでした。若冲の極彩色の掛図が、すべてコロタイプ印刷だったのです。印刷物ごときで勿体ぶるなよと言いたくなりました。コロタイプそのものに恨みはありません。むしろ、発色に優れているし、耐久性に優れたインキなので、美術品には最適と言っていいものです。ただ、名品鑑賞はオリジナルに限りますから文句を言いたくなるんです。

 暖秋続きだったので、12月といえ相国寺は紅葉真っ盛りでした。正面の建物が承天閣美術館です。作品撮影が禁止されていたので画像はありません。



 メインは福田美術館です。桂川脇の小さな建物ながら、展示作品は一級品でした。写真撮影OKなのもポイントが高いです。
 若冲や長沢芦雪もよかったし、俵屋宗達もありでレベルが高かったです。嬉しかったのは、曽我蕭白に逢えたことです。面白い画題で描く一方、技術は超ハイレベルなんですね。下図は「粟に鶴図」です。背景に刷毛を使ってますね。



 「白蔵主図」です。面白い内容でしょう。こういうのが蕭白の醍醐味です。



 突如現れた狩野探幽の「雲龍図」です。ガラス額装なので、反射が写りこんでいて、探幽の幽玄たる筆致が判りづらいです。狩野派では、探幽が好きなんです。思いもよらぬ邂逅でした。



 来年には、福田美術館で「進撃の巨匠-竹内栖鳳と弟子たち」が開催されます。いつも利用している代理店さんに対して要望も出したし、美術展ツアーは大人気とあって、きっと採用実施されるものと期待しています。また、冬場はさすがの京都も観光客が減るので、旅行代理店としても実施しやすいことでしょう。

 秋シーズンの京都は激混みだったそうです。12月に入って減っているといえ、それでもインバウンド需要は本物ですね。桂川の渡月橋周辺は、外国人さんたちで埋め尽くされていました。中国、台湾、韓国などの東アジア人が多く、次いで、白人さんやインド人、はては中東系もかなりいました。そんな海外の方々が和服で散策していて、ほんわかさせられました。中でも若い女性があでやかな装いで、ちょっとした見ものでした。インドや中東女性の例のキリッとしたメイクがマッチしていて、小股の切れ上がったいい女っていうフレーズが浮かびました。
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百参拾六   カセットデッキ蘇生中(2023/11/30)
 先日、ふとカセットデッキが目に留まり、こいつ未だに生きているかと気になりました。
 弐百九拾四 オーディオ閑話休題(2007/4/7)の10番目に記したVictor TD-V931です。30年以上前に買った優れものです。その品質については語るべき点が多々あり、リンク先の説明を読んでいただければ納得いただけるでしょう。かの長岡鉄男氏も最大の賛辞で音質ベストの太鼓判を押していました。CDダイレクト入力があり、そこからFeCr(フェリクローム)テープにハイレンジ録音すると、ソースと区別がつかないくらいの高音質です。

 とはいえ、あまりカセットテープを楽しむこともなく、滅多に聴きませんでした。10年余り経って再生すると、ベルトが硬化してか異常回転となっていました。仕方なく、純正ベルトで交換しました。プーリーとかとセットになっていて、一式交換で復帰させました。

 それからもほとんど使用せず、今回20年足らず経ての再生とあって案の定の結果でした。なんでか超高回転で、ひどい状態でした。こういうのは長時間慣らして様子を見るべきです。復活する可能性がありますから。
 もはや純正品はないでしょうし、常用するわけでもないので交換するのも面倒です。甦ることを願うばかりです。

 再正し続けると徐々に回転が落ちてきました。2時間ほど経つと、正常回転に至りました。しかし、安心はできません。翌日に再生すると、最初と同じ超高回転でした。ここも再生し続け、同じく2時間かけると正常回転となりました。

 そして本日のこと、やはり同じ症状でしたが、1時間ほどで正常となりました。多分、これを繰り返せばベルトが柔軟性を取り戻しそうな気がします。新品時のゴム性状に戻すのは無理にしろ、使用に差支えない程度には甦るのでないかと期待しています。
 もはやカセットデッキを使うこともないでしょうから、ベルト交換までしての修理をやる気はありません。それなりの回転性能に復帰できればいいんです。動作を繰り返して、復帰を目指します。ただ、先は長そうです。ベルトだけでなく、モーター、ローラーやキャプスタンの動作も渋くなっているでしょうから、馴染が出るのは簡単ではなさそうです。
 本日、正常動作を取り戻したところから1時間ほど間が空くと、やはり回転不調症状となってました。こういう具合だと、甦るのにどれくらい手間がかかるものか見当がつきません。あるいは正常に戻るのか怪しくもあります。しかし、やれるとこまで試みます。

 それと、テープそのものも不調です。これまた20〜30年の間、ほぼ放置していたのですから動作が渋くなっているのも当然です。テープによっては、動作が渋くて早送りや巻き戻しが利かないものもあります。まさに負の相乗効果です。こちらも、ひたすら再生させて回転機構に馴染みを出させるしかありません。
 中には回らないテープがあり、確認するとテープが外れていました。視聴時に切れもしました。面倒ながら分解し、テープをリールに接着したり、テープ同士を貼り合わせたりしました。ビデオテープで散々やった補修です。デジタル時代にもなって、まさかテープ補修をやる羽目になろうとは思いもしませんでした。やってて懐かしくもありましたけどね。
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百参拾五   為替について(2023/11/21)
 ここ数日のこと円安が昂進し、151円80銭/ドルという33年ぶりの水準にまで至りました。久々と言っていい円安を受け、為替議論が盛んです。それも転じ、今日には147円50銭とか円高に戻しています。

 為替がどの程度であれば適切なのかは一概に言えません。ポジショントークというか、事業形態によって望むところが異なっているからです。物価の面から言うと、エネルギーや食料の多くを海外に頼っていることから、円安は苦しいところです。しかし、そこで円高が招来すれば幸せかというと、全然そんなことはありません。デフレからインフレへの転換には、この円安が不可欠ともいえますから。

 33年ぶりの円安を受け、低成長の日本から資本が逃げ出している故とかの論調が喧しいです。しかし、変な話なんです。2010年あたりからの超円高時代にあって、製造拠点が海外に転ずるなど、まさに低成長で巨額の資本が流出したのに円高が続きました。ですから、現象の説明としては説得力がありません。

 金利差がもたらした状況との説明も通用しなくなっています。そもそも、ここのところ日米金利差が縮まっているのに円安が進行したのですからね。日米だけでなく、利下げをしている人民元に対してさえ円安ですから。
 また、日銀が金利上限の容認を演出したにもかかわらず、円安が進んだということは、為替市場が金利差縮小に反応していないかに見えます。

 今の円安相場を形成している理由が判りづらいんです。金利差で説明がし難く、景況感でもなく、貿易収支でもなしに円の先安相場観が醸成されています。じゃあ一体何によるものなのか、素人考えでは、八拾五    半導体製造事業の難しさ(2022/11/22)に書いた次の事情ではないかと勝手に思っています。
 上の記事のTSMC、共同出資新会社ともに、日本国内で本格的に半導体製造事業を軌道に乗せるには、円高を是正することが重要なポイントなので、昨今の円安をアメリカは是認しているのでしょう。

 今月には、アメリカ財務省の為替監視リストから日本が外れました。現在の監視リストには、中国、独、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナムが該当しています。日本は対米貿易黒字が第5位にあってさえ外されたんです。台湾から半導体製造の拠点が大きく日本に集約され始めています。この地政学的戦略転換が背景にあるからとしか考えられないんです。

 そうすると、変な話になってきます。為替というのが経済実態の結果でなく、為替が原因で経済が動かされている状況です。少なくとも、長年続いた円高がデフレを招いたのは間違いなく、今の円安を物価高とともに、この奇禍居くべしとばかりデフレの悪循環を断ち切るターニングポイントとすべきです。
 おかげで製造業が上向きとなっていますし、観光立国にも資すること大です。将来において日本再生が実現すれば、その結果として再び円が強くなることでしょう。その道筋をのみ目指すべきで、円高を指向しようと余計なことをしないのが吉です。
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百参拾四   望外の良展覧会「20世紀美術の冒険者たち」(2023/11/12)
 本日、高松市美術館で9月30日〜11月19日に開催されている「令和5年度国立美術館巡回展 20世紀美術の冒険者たち─名作でたどる日本と西洋のアート」を観覧してきました。

 日本で最初に開館した国立美術館である東京国立近代美術館が熊本県立美術館と高松市美術館と協力して本展が企画されたそうです。高松市美術館側としては、開館35周年記念事業としての取り組みみたいです。
 東京国立近代美術館のサイトに次の惹句があります。
 東京国立近代美術館の洋画・彫刻コレクションによって、20世紀の日本・西洋美術の軌跡をたどる展覧会を熊本県立美術館にて開催します。熊本県立美術館と巡回先の高松市美術館(香川県)の所蔵品をまじえた76点の作品による、近代美術から現代アートにいたる冒険の旅をご覧ください。

 高松開催に先んじ、7月22日〜9月18日に熊本県立美術館で展示され、本県はその巡回展の位置づけの模様です。高松展は継子扱いでしょうか、熊本で展示されていた大物 ― 重要文化財である萬鉄五郎の「裸体美人」と和田三造の「南風」が見当たらなくて残念でした。

 明治黎明期の逸品群、昭和初年に作家たちが独自性獲得へと取り組んだ作品群、いずれもが傑作で、凡百のアート作品と一線を画していました。
 撮影は自由ながら、カメラ撮影より目で楽しむことを優先しました。ただ、一点だけ記録に残しておきたく撮影しました。下図は、少しでも質感のユニークさが分かるよう大き目で配置しました。



 <社会と美術>のコーナーにあった桂ゆき(ユキ子)氏の「賀象」です。昭和15年の紀元二千六百年奉祝美術展に出品した油絵です。現物でないと分かりづらいのですが、そのタッチというかマチエールが実に独特なのです。ご本人がオリジナリティを意識したものか、知らず到達したのかは判然としませんが、今日にあってさえ珍しいタッチだったのです。見過ごせなく、この絵だけはと撮影しました。ただ、写真では原画の質感が伝わらないのが残念です。前例のない未だ見たことのないタッチだったのです。
 戦前において、最初にコラージュを絵画に取り入れたそうです。この作品は一見コラージュ風ながら、あくまで筆で描いています。女性初の前衛画家だそうで、その自分の表現を追求する姿勢は男性でもなかなか敵いません。
 

 <序章>コーナーの黒田清輝「落葉」から始まるとあって気分と期待が高まります。近代名画のあれこれを見ることができ、満足感が高いです。上に書いたように、ここに萬鉄五郎の「裸体美人」と和田三造の「南風」があればいうことないんですけどね。
 靉光の「眼のある風景」、藤田嗣治の「猫」、古賀春江の「海」、岸田劉生の「麗子5歳之像」など堪えられません。
 必見は、アンリ・ルソーの「第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神」です。東京国立近代美術館所蔵の名品で、楽しませてくれました。

 当地でこれほどの展覧会は、なかなか実現しません。というか記憶にないです。もう一度観覧しようかとも考えています。
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百参拾参   『ゴジラ-1.0』は傑作(2023/11/7)
 本日、『ゴジラ-1.0』を観ました。これは傑作です。第一作は別格として横において、米国版含めて最高のゴジラ映画と推します。

 モンスターパニック映画の最高傑作は『ジョーズ』に止めを刺すと評価していて、本作ゴジラは肩を並べたんじゃねと讃えたいです。『ジョーズ』の演出はパーフェクトで、映画づくりのお手本と言っていいかと思います。で、本作もその展開、演出が素晴らしいです。導入部からしてワクワクさせられ、本編への期待を高めてくれます。CGなのに、あえて着ぐるみ操演の動きに寄せてくれたのも、古株怪獣ファンの心くすぐらせるものがありました。

 火器によって身体が裂けたり、抉れたりの身体的ダメージを受ける設定がポイント高いです。身体が裂けると、瞬時に再生されるんですね。この設定が、ゴジラの怪物性を説明する最適解でしょう。欲をいえば、再生にそれなりに時間がかかればいうことなしですが、2時間枠の都合で仕方ないのでしょう。

 戦後復員、復興、戦災孤児などのサイドストーリーが、ゴジラ話に上手く絡まっていて、三丁目の山崎監督ならではです。登場人物がわめく演技演出にはげんなりしますが、これは邦画の限界とあって諦めます。もっと、抑えた演技演出を期待したところではありますが。

 強力な米軍を外す理由づけには、説得力が弱いです。実は、陸海軍が解体した以上、占領軍が闘うものと勝手に思い込んでいました。ドーントレスによる急降下爆撃、アベンジャーによる雷撃、アイオワ級による16インチ砲撃などが見たかったです。

 ラストのあのシーンはいらんかったのにと残念です。続編制作への伏線かしらんけど、本編の完結余韻を棄損してくれました。多分、監督の本意ではなかったものと想像します。
 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』もCG映像に関しては凄かったけど、私にとっては本ゴジの方が数段がとこ上です。伊福部楽曲の入れ方も、東宝版の王道に則っていて文句なしでした。

 本作は誰相手であっても、お薦めに迷いがありません。感謝されることはあっても、文句を言われることがないでしょう。
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百参拾弐   イスラエルは中東の癌(2023/10/29)
 昨日の日經ニュース「国連総会、ガザ「人道休戦」の決議採択 日英など棄権」です。十分ではないものの、取りあえずの内容かと思います。

 今回のガザ情勢を受け、イスラエルの非道さが浮き彫りになったのは重畳というべきです。こんな損害を目にしながら、重畳などというのは不謹慎とのお叱りもありましょう。しかし、これほどの損害を出さないとガザの悲劇を訴求できないのが現実なのです。ハマスの狙いもそこなんでしょう。
 もちろん、ハマスに限らずテロ指導者連中を唾棄します。昔から、自爆テロを始めとして部下たちの命をなんとも思ってないやり口には反吐が出ます。自爆テロを使嗾する薄汚さというのが、少年少女をさえ洗脳し、その命を利用しています。で、その指導者たちは、素知らぬ顔で生きているんですね。

 イスラエルのエルダン国連大使の身勝手な言いざまを知っておいてください。あるいは日本のTVに出演して一方的な言説を垂れ流していた駐日イスラエル大使の言いざまもまた記憶に新しいでしょう。
 彼らが歴史を無視した一方的な主張をするのも無理ありません。以前、イスラエルのどこかの大学のイスラエル現代史教授のインタビューを見たことがあります。戦後建国の経緯について、ファンタジーみたいな内容を語っていました。専門の大学教授でそれですから、他の国民一般の頭の中なんて推して知るべしです。

 心強いのは、グテレス事務総長がものごとの根本を押さえ続けている点です。数日前の安保理事会で天晴な指摘をしてくれました。
 「イスラエルの占領政策の末にハマスの攻撃が起きた」
 当然、イスラエルのコーヘン外相は猛反発して事務総長との会談をキャンセルしました。私なんか、もっと言ってやれと拍手しましたもの。

 今回の決議に反対したのは、米、イスラエル、オーストリア、ハンガリー、パラグアイなどと圧倒的に劣勢です。棄権が、日本、英、加、独、伊、印、宇など44か国です。棄権の理由として、ハマスを名指しで非難する文言を含んでいない点が挙げられています。アラブ諸国も、棄権国の意向を容れてハマス批判を盛り込めばよかったのにね。そうすれば、今回の決議に圧倒的な賛成を得ることができたでしょうに。

 とにかく、イスラエルに対して言いたいです。あんたたちが錦の御旗にしているユダヤ人虐殺、ゲットー収容所の非道を、パレスチナの民に対して現にやってるじゃん。それも21世紀の今においてなお改めず、よりガザ閉じ込めを強化してるじゃないかと。
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百参拾壱   誤用というな(2023/10/22)
 誤用警察というのではないにしろ、細かいことを言う向きがあります。しかも、それが誤用でないのに否定してくると腹立たしくなります。その最たるものが「汚名挽回」です。これは、なにもおかしくありません。ところが、「汚名」の様態にする意なので間違っている、正しくは「汚名返上」だと難ずる方が多いんですね。

 「挽回」は、「取り戻す」「取り返す」「持ち直す」「復する」などの意で、この場合は「汚名」を「取り戻す」「取り返す」のでなく、「汚名」を元の状態に「持ち直し」たり「復す」ことを指していて、なんの問題もありません。と、誰でも理解しているはずなのに、なんでか難癖をつける方が多いんですね。
 「疲労回復」や「劣勢挽回」だって同じ構図です。わざわざ、「疲労低減」とか「劣勢逆転」とか言わんでしょう。

 昔は「汚名挽回」が常用されていたので、年配の人間にとっては馴染んだ熟語でしょう。なので、大抵の方が誤用説に疑問を持っているんじゃないでしょうか。昔は「汚名返上」の使用例が稀だったでしょう。その趣意のケースでは、「汚名を雪ぐ」の方が選択されたでしょうから。

 「汚名挽回」は間違いで「汚名返上」が正しいと、したり顔で宣う向きに対しては、上の説明をぶつけましょう。などと言いながら、私も静観しています。上のような説明をすると、衒学的とか、ペダンチックとか、物知り顔とか胸中で毒づかれそうで嫌なんです。

 「汚名挽回」に限らず、誤用と断ずる前に立ち止まっていただきたいです。得てして許容例が多いんです。漢字の読みともなると多様です。それを一々難ずるのは偏屈人間です。
 「的を射る」だけでなく、「的を得る」も今や可でしょう。「正鵠を射る」もまた、「正鵠を得る」で可とされているでしょう。下手に誤用だと指摘すると、恥をかく可能性の方が高いと心得るべきです。

 ちなみに重複について、私は「ちょうふく」を「じゅうふく」と読んでいます。「じゅうふく」の方が発声がソフトだからです。文句をつけられたことはありませんが、難じられたら、さすがに慣用読みで問題ないんだと説明するでしょう。逆に情緒は「じょうしょ」と読み、慣用読みの「じょうちょ」は遠慮しています。これもまた、「じょうしょ」の方がソフトだからです。ソフト傾向なのは、おそらく目立ちたくない田舎者根性ゆえでしょう。
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百参拾    「ぶらぶら美術・博物館」ロス(2023/10/14)
 先月27日に放映された「西洋絵画史まるわかり!国立西洋美術館ベストセレクション?モネ、ドガ、ルーベンスの傑作ずらり!西洋絵画の変遷を名画とともに徹底解説〜」が最終回でした。突然の終結とあって、呆然としました。

 人生の楽しみが、ひとつ終わったの感です。美術鑑賞番組としては、ピカイチといっていい内容でした。初回は、2010年4月6日に放映された「古代ローマの世界遺産 ポンペイ展」だったそうです。私が初めて見たのは、同年7月13日と17日に放映された第7回「オルセー美術館展〜モネ・ゴッホ・ゴーギャン 巨匠たちの名画 奇跡の来日〜」からです。

 四百六拾九  オルセー美術館展2010(2010/7/31)に書いとおり、この畢生の展覧会については、いろいろな番組が採り上げました。私が観ただけでも、「美の巨人」「世界の名画」「日曜美術館」「ぶらぶら美術・博物館」がそうです。いずれもが力を入れていました。なかでも、私にとっては「ぶらぶら美術・博物館」がエンタメ性で出色と思われました。MCを務める中野五郎氏が、ルソーについてぶっちゃけ解説をしていて、そこまで言っていいのとか驚きましたもの。

 その後は同時刻放送の「なんでも鑑定団」と内容を比較して面白そうな方を優先しました。次に見たのは、同年11月23日放映のホキ美術館を採り上げた「〜千葉県に誕生!日本初「写実絵画の殿堂」!!〜」だった記憶があります。この番組中、作品の一つを中野氏が買い上げていて、この方の愛好家ぶりは本物なんだと実感させられました。

 それから13年間、447回もの回数で、美術ファンたちによき勉強の場を与えてくれました。私も展覧会選択のよきアドバイザーとして重宝しました。全国の美術館や博物館の学芸員さんたちを知ることができ、それぞれの声や解説にも好感が持てました。
 ボケ役のおぎやはぎコンビ、生真面目お嬢さん役の高橋マリ子氏との掛け合いも楽しませてくれました。高橋氏には、番組最後のミュージアムショップでのガイド役お疲れさまでした。

人気もあるみたいだし、当面続くだろうと気にしてもいなかったのが、突然の最終回とのことでショックでした。今は若干の空虚感を味わっています。今はお疲れさまと感謝しかありません。いずれ装いも新たに再開することを願って止みません。
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百弐拾九   ジャニーズ問題に感じる不整合(2023/10/10)
 ジャニーズ問題については、大多数の方が「何を今さら」とか、「社会の縮図なんだから、ジャニーズだけに矮小化するな」とか、思うところがいろいろあるでしょう。

 私は女性向け週刊誌を読まないし、芸能ゴシップに興味がないので詳しいわけではありません。専ら「噂の真相」の記事で目にしたくらいです。ところが、この「噂の真相」に書かれていた記事というのが、相当に危ない内容で、まさに正鵠を得ていたんですね。

 ただ、当該誌が対象にしたのはジャニーズだけでなく、他の大手芸能プロダクションも俎上に上げていて、放送局やマスコミを支配する手法をその都度書いていました。
 また、スポンサー企業やクライアント企業側の担当者が同様の手法でえげつないことをやらかした事案も書いていました。今、企業サイドがCM打ち切りなどと距離を置いていますが、あんたらも人のことを言えんだろうとしらけます。
 そんな風に、立場が上にある者が、権力や勢威を笠に着て都合を押しつける事案はあらゆる場面で見られます。まさに社会の縮図というべきです。

 芸能界に限ってもジャニーズだけの話ではありません。言ってみればよくある話でしょう。現今の騒ぎは、まさにジャニーズに矮小化している印象です。

 あと、気になるのは名称変更です。名称については、なにをどうしようが難しいのかもしれません。想像ですが、初っ端から自発的に「“ジャニーズ”は被害者の方々の心を傷つけるものであるから、永遠に抹消します」と切り出していたら、「名前を変えて責任の所在を曖昧にしようとしている」「世間が忘れることを狙ったあくどい手法である」とか、今と逆ベクトルで非難を浴びたんじゃないでしょうか。邪推ではありますが。

 非難する際のキーワードとして、ヒトラーやナチスが持ち出されたのは聞き苦しかったです。主語を大きくするにもほどがあります。かつて南京大虐殺をユダヤ人虐殺に比す論調に対し、ユダヤ関係者がその例えは事実にそぐわない不謹慎なものであると非難しましたね。ユダヤ人大虐殺を矮小化するなと。むしろ、ジャニーズ性加害を擬えるなら、教会やボーイスカウトが適切でしょう。

 ここで、「非道な性加害の事実が忘れ去られることなきよう、“ジャニーズ”の名称を永く刻み続けます」とするのも、ひとつの見識かと思います。ずい分昔に“日の丸論争”がありました。侵略戦争の旗幟であり、軍国主義のレガシーである日の丸は国旗として不適切であるとの主張でした。それと似た構図に見えます。
 私は当時、よいことも悪いことも含めての日の丸であり、日本人の歴史として受け止めるべきものと考えました。上の意見への反論として専ら法制議論として受け止めていましたけど。
 “ジャニーズ”の名前もまた、日の丸と同じ対応でもいいんじゃないでしょうか。いえ、私にはなにが正しいかが判りませんけど。
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百弐拾八   韓国映画二題(2023/10/2)
 中秋も近いのに暑さが去りません。それでも、さすがに猛暑は通り過ぎました。おかげで秋の作業を開始したところです。3か月以上も放置していた雑草を抜きにかかりました。除草剤を散布したといえ、後始末で抜かなければいけません。多分、2か月くらいかかりそうで、今から憂鬱です。

 期待の韓国映画がレンタル開始されたので、さっそく鑑賞しました。『オオカミ狩り』は、B級の傑作です。劇場放映前から楽しみにしていて、観覧した方々の評判を聞き、一層期待値が高まりました。

 ストーリーは無茶苦茶だし、後出し展開の連続でありながらも、まったく目が離せませんでした。とにかく映像づくりが丁寧です。加えて俳優陣の演技が見事で、邦画関係者には目を覚ましていただきたいです。出鱈目なプロットであろうと、つくりが丁寧なので引き込まれるんですね。

 フィリピンで逮捕された極悪犯罪者たちを船で韓国に護送する警官たちとの間にきな臭い空気が漂い、やがて死闘が繰り広げられます。警官だけでなく船員たちも殺されるという凄惨な戦闘の中、第三の人物が闖入してきます。正体不明の怪人は、怪力、快速、不死身の戦闘力を有し、目につく者を片端から潰しにかかります。文字どおり人間をひしぐかのように殺してゆきます。

 シリアルキラーみたいな犯罪者がラスボスかと思われたものの、中盤で無残に殺されます。この犯罪者がいい演技で造形されていました。死に際の憎たらしいこと。
 優秀な女性警官もまた終盤で殺されます。普通は生き延びる役回りだろうという予想が見事に裏切られました。生き延びたのはわけありの犯罪者で、後づけの理由というか事情が次から次と回想されます。普通であれば、後づけの説明も大概にしろと文句を言うところですが、本作に関してはB級アルアルなので気になりません。

 第三の怪人誕生の秘密を旧日本軍の所業としていて、韓国的には実に収まりがよいのでしょう。目くじらを立てても仕方ありません。この怪人がオカルト超人で、船内の人間を意味もなく敵として殺して回る展開は、むしろ痛快でさえあります。
 丁寧なつくりといいましたが、旧陸軍軍人さんたちの日本語がカタコトなのだけはいただけませんでした。

 レンタルディスクがなんでかDVDだけで、BDが用意されていませんでした。高画質で鑑賞したいのですが、地上波での放映は不可能でしょう。剥き出しの暴力シーンの連続で、あまりに残酷なので民放BSは無理でしょう。WOWOWでの放映を待つしかありません。

 WOWOWで『非常宣言』を楽しませていただきました。飛行機という閉鎖空間でのウィルスパニックものです。機内でのドラマと地上でのドラマが交錯し、文字どおりの非日常を提示してくれます。

 面白かったのは、成田空港に緊急着陸を求め、これを拒否して阻止しようと空自のF-15が威嚇射撃や進路を塞ぐシーンです。いつから空自のスクランブル対応が、こんなに頼もしく果断なものになったのか。日本人からすると、ちょっと説得力がありません。せっかくの緊迫した場面が嘘くさくなってしまいました。

 などというのは小さな話で、見事なウィルスパニック映画に仕上がっていました。『オオカミ狩り』も含め、邦画実写映画では、とうてい作れそうにもありません。そこが羨ましくも残念です。
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百弐拾七   『異星の客』の凄さ(2023/9/26)
 ロバート・ハインラインの『異星の客』を読み終えました。1961年に出版された本書は、アメリカの近い未来図を予言してさえいます。ハイラインの熱烈シンパとしては、あらためてその凄さを実感しました。

 火星探査チームの忘れ形見であり、唯一の生き残りである男が地球に帰還してきて物語が始まります。火星人に火星人として育てられたため、地球の言葉も文化も一切知りません。
 ハインラインは、そこからして他の物語とは一線を画しています。よくある異星間交流とか異文化交流とは、まったく違っているのです。通常のSFだと、やがて翻訳を可能にして意思疎通を可能にします。ところが本書では、言語を通じ難いものとして扱っています。

 例えば、人間(Man)という言葉も理解されず、なかなか意思疎通に辿り着けません。現実に異星間交流が為されたら、たしかに言葉のひとつひとつが通じないでしょう。我々が慣れている人間(Man)も、異星人にとっては性別、人種、成長ときどきでの形態、いずれもが違った相貌ですから、相手にとっては理解し難いでしょう。

 ハインラインは他の作家が思いつかない状況を次々に描出し、やはり別格だなあと感心させられます。やがて、物語は新たな様相を迎え、火星の男は人類の生き方そのものに干渉し始めます。

 地球の政府や法を否定するアナーキズム、フリーセックス、社会と隔絶したコミュニティ、瞑想的な意思の疎通(ぶっちゃけテレパシー)、意思の共有、念動、教育による宗教的なステージのレベルアップなど、60年代からアメリカにおいて若者中心に浸透した思潮でもあります。それらをハインラインはいち早く描いていたんですね。現実にヒッピーたちが本書をバイブルにしていたそうで、その先見性とオリジナリティに感服するばかりです。

 本書を読むとハインラインがリベラルな人間かとも思われがちですが、小説世界の虚構と作者自身の現実とは別ものです。本書と対極に位置するのが『宇宙の戦士』です。海兵隊勤務の経験を活かした冒険活劇で、まるでタカ派かと思わされるような内容です。
 地球連邦軍に志願した若者が機動歩兵に配属され、訓練を経ながら、あるいは実戦を重ねながら成長してゆく物語です。本書を読んで海兵隊に志願する若者がいたくらい濃密な軍隊生活が描かれています。

 決してハインラインはタカ派でなく、リベラリストでもないでしょう。SFという空想小説に描かれた世界観があまりにリアルゆえ、作者自身の思想性が反映したと勘違いするのでしょう。これはつまり、ハインラインの筆力というか、創作の妙手の冴えゆえでしょう。

 なにぶん訳文を読んでいるので、原文がどのようなものかは知りません。訳文を元にした感想なので、外しているかもしれませんが、古典SF作家のなかでハインラインは別格でしょう。アシモフ、クラーク、ブラッドベリらの小説も楽しませてくれますが、それらはSF要素以外の小説構成に見るべきものがありません。文学修行の痕跡が窺われないので、小説づくりに関しては素人レベルかなあと邪推してしまいます。ところが、ハインラインはSF要素抜きにしても見事な小説です。ハインラインがSFをも小説の本流に合流させたとか評価されるのも納得させられる所以です。
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百弐拾六   台湾有事を言い募るのは何なの(2023/9/17)
 昨今のニュースはジャニーズ性加害とビッグモーターが双璧で、宇露戦争が変わらず報じられています。あとは大谷選手、ラグビー、バスケ、阪神優勝などのスポーツが幅を利かしています。その合間合間に、飽きず台湾有事が語られています。

 8月初旬に訪台した麻生副総裁が物議を醸しました。外交部主催のフォーラムで基調講演を行い、迂闊な発言をしたものです。
 「大事なことは、台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ。抑止力には能力が要る。そして、抑止力を行使する意志を持ち、それを相手に教えておくこと。その三つが揃って抑止力だ」
 「今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国々に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はない」
 「いざとなったら、台湾海峡の安定のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」


 ここで気になるのは、麻生発言が政府の公式見解であるかです。どうも曖昧な模様です。

 同行した鈴木馨祐元外務副大臣の解説は次のとおりです。
 「今回、実は麻生太郎衆議院議員個人の発言ということではなくて、自民党副総裁という立場での講演。当然、これは政府の内部も含めて、調整をした結果のことですから。少なくともこのラインというのは『日本政府としてのライン』」

 一方で、「戦う覚悟」は政府として公式にすり合わせたラインではないと、外務省高官は火消しに追われました。
 「『戦う覚悟』といっても、色んな戦い方がある」

 あげくに無礼レベルの内政干渉までやらかしています。
 「(総統選挙について)台湾はきちんとした人を選ばないと、急に中国と手を組んでもうけ話に走ると、台湾の存在が危なくなる」

 麻生氏は、2013年から14年にかけてのウクライナでのナショナリズムの先鋭化がいかに国を誤らせたかを忘れています。あのときも、西側によるオルグ活動がキエフで活発となり、キエフを始めとした西部での反露ナショナリズム高揚に手を貸しました。その結果が今の惨状です。わずか10年前のことなのに、皆さん忘れちゃったのかなあ。

 中国外務省の反発は当然です。
 「台湾海峡の緊迫した状況を誇張し、対立をあおり、中国の内政に乱暴に干渉した」

 台湾では以前から“現状維持”の意見が大勢を占めています。現状維持とは、“独立”でもなく、“統一”でもありません。台湾と本土とは密接な経済的繋がりができていて、平和的に現状を維持することを望むものです。麻生氏の発言は、台湾の民意にさえそぐわないものです。おそらく、麻生発言を不快に感じている方が多いのではないでしょうか。

 上に書いたように、台湾有事をテーマに今もマスコミがいろんな報道や主張を繰り広げています。そのいずれもが、将来での対決を前提にするかのような論調なのです。中国に台湾侵攻の考えはないでしょう。もちろん、多様な場面への対応として、台湾侵攻もまたひとつの選択ではありましょう。しかし、現実の選択として、優先順位が低いのは間違いありません。
 確実なのは、東シナ海と南シナ海の内海化を目標にしていることです。これは公式にも謳っていることですから、日本としては尖閣の実効支配をゆるがせにしないことです。日本の実効支配を後押しすることが、引いては東南アジア諸国にとっても対中国に資することとなります。ところが、台湾は尖閣の日本領有を不法としています。ネトウヨな方々は、そういうことを理解してるんですかね。

 台湾有事を声高に採り上げるのは決して褒められたことでなく、むしろ害悪でさえあります。その点を弁えて議論すべきです。
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百弐拾五   ジャニーズ問題縹渺(2023/9/10)
 ジャニーズ事務所の元社長であり創業者のジャニ―喜多川氏の性加害問題に世間が揺れています。私なんかは芸能スキャンダルなんぞまったく興味がないものだから、横目で眺めているだけです。ジャニーズファンたちにとっては、心痛める大問題なのでしょうね。

 故ジャニー氏が少年たちに陰間行為を強いていたのは周知の話で、あらためて驚く方もいないでしょう。私の場合、専ら「噂の真相」でリアルタイムで読んだものです。その内容は少年愛関係だけでなく、TV局に対する強権的な振舞いも問題にしていました。自社タレントをパック売りするのが常とか書かれていました。新人タレントを売り出す際、TV局は絶対に断れなかったそうです。著名タレントの出演を得るためのバーターとか言われていました。

 また、都合の悪い話題をTV局が採り上げるのもまたタブーだったそうです。これを破るとタレントの出演に差し障りが出るとあって、腫物扱いする必要があったのですね。「噂の真相」には、そのときどきの軋轢や裏取引などがすかさず記事になっていました。

 そういうのはジャニーズに限ったことでなく、他の大手芸能事務所関連でも聞きましたし、大手クライアント企業や政治家がらみでもあった話です。なので、ことさらにジャニーズ事務所をあげつらう気はありません。

 少年に対する性加害はグロテスクな話です。とはいえ、今回の調査とその報告書を絶対視するのは問題です。反論不能な故人相手への一方的な申告なのですから、その取扱いには気をつけなければいけません。個人的には、生きてるうちにやれよとか思います。死んでからだと、言ったもの勝ちと受け取れられかねません。

 とにかく証拠のない話をいくら重ねても説得力に欠けます。生きている相手なら、相手側にも反論させ、さらに論破するなどの手続きを重ねることができますから。
 まして、被害者に対して国による賠償を願うなどは、もはや妄言でしょう。また、事務所名を云々する話にもげんなりします。ヒトラーの名前を使うようなものだとかの非難にはついてゆけません。こういう具合に主語を大きくする連中は信用できません。ものごとを深く精確に考えようとせず、脊髄反射的にもの言う輩なんですね。

 また、ジャニーズタレントに対してコメントを求めるのも余計というか、一種のセカンドレイプに見えます。東山氏については、社長職を継ぐ以上、厳しい矢面に立つのも仕方ないでしょう。ただ、その東山氏に陰間行為を質すのは、違うかと思います。被害者がいるなら、正式に賠償を求めればいいのです。まずはその被害者に当たって、話を表に出すべきです。その被害者がセカンドレイプを嫌って拒否するなら、そこまでの話であり、風聞レベルで採り上げちゃ駄目でしょう。

 バラエティ番組レベルで済ますのでなく、やるならエビデンス掘り起しから取り組むべきです。果たしてそれが可能かどうかは知りませんけど。
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百弐拾四   「今どきの若者は」の嘘(2023/9/3)
 「今どきの若者は」のフレーズには、首肯できる部分と頷けない部分があります。一昨日の AERA dot 10th に目から鱗の記事がありました。最近の若い子たちは、メール一本で『会社を辞めます』って言うんだよなあ。かんべんしてほしいよ です。

 私も似たような感想を持っていましたが、記事を読んだ今は「そりゃそうだよなあ」の感興です。もちろん、メール一本で済むはずもなく、後の事務手続きや引継ぎ用務もありましょうし、返還物や私物整理もあるでしょう。しかし、少なくとも退職通知そのものはメール一本で済まされても仕方ありません。

 記事中に書かれているように、面接合否がメール一本で済まされる慣行を強いられているんですから、これまた当然かなと納得させられます。面接合否は、総務部門による正式な会社通知です。なら、社員の側によるメール通知を正式な対応と看做すことに整合性がありましょう。

 イーロン・マスク氏がツイッター社を買収して以後のドタバタがニュースで報じられました。特に大量解雇が大きな話題になりました。
 ツイッター社の解雇が「メール一本」で大量解雇は合法なのか 「日本で裁判になれば解雇無効も」と専門家

 あのとき、嫌気が差した社員がメールで退職を通知しても、まったく違和感がないでしょう。それが労使双方による互恵関係というものです。

 私などは、半世紀近く前の求職就職慣行の中で生きてきたので幸せでした。バブル崩壊以降の若者たちの就職事情というのはお気の毒なものです。まず、学生を始めとした求職者たちに過大なスキルを求めるようになりました。それまでの日本企業というのは、入社後に丁寧な社員教育を実施するなど、社員に優しい企業像を目指していました。
 3DCGが典型です。3DCGを習得するには、高額な業務用ソフトと高性能PCが必須です。これを学生たちの側に課すという厳しいものです。しかも、それら業務用ソフトが手に馴染むには、そればっかし専修しながら少なくとも2年はかかるという阿漕なものです。
 CG専門学校の「デジタル・ハリウッド」が話題になったことがあります。これは文科省の専門学校でないため、学校といいながら学歴にはなりません。施設機器を24時間解放して自由に使える態勢でした。そういう取り組みでないと、業務用CGソフトを習得できないし、まして成果物を制作できません。そこまでして就職しても、給与は最低賃金レベルで、まともに家に帰れない長時間労働とあって時間単位でいうならコンビニバイトの方がましなくらいでした。今はどうだか知りませんが、そんな厳しい労働環境に加え、ロクでもない就職慣行を課すのですから、労働者側から反発を受けても受忍すべきです。

 幸いというか、昨今の少子化と円安での好景気で、企業側は人手不足で困ってます。求人難の現状は、まさにこの奇禍居くべしです。学生を始めとした求職者たちが、世に問いかけるチャンスです。冒頭に引用したような言説が、広く人口に膾炙されることを期待します。
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百弐拾参   日本人のコミュニケーション能力について(2023/8/26)
 今週水曜日のYahoo! ニュース「日本人の「コミュニケーション能力」はますます低下 ドイツ人がコンビニで「震えるほど怖かった」瞬間とは」です。

 島国に住んで同一民族、同一文化を共有するとあって、昔から欧米との差異を指摘されてきました。
 一説では、例えばアメリカでは自己の無害安全さをアピールするのが習い性とか聞いたことがあります。社会の平安を維持するための工夫ともいえ、これはあるでしょうね。

 私が勤め人時代、入学選考の際に校門で案内誘導をよくやっていて、挨拶しない人間が増えたのを実感しました。あらゆる年齢層の方が受験対象者で、黙って入ってくるのは50代後半以上の男性が圧倒的に多かったです。
 池田小の事件もあり、敷地内への進入に際しては、手続きを経る重要性が認知されたはずです。それなのに無言で知らん顔のまま通り過ぎる方を放置できませんでした。
 「どういったご用件ですか」とわざとらしく呼び止め、相手に用件を言わせたうえで受付への誘導をしました。若い方は、わりと声出し挨拶してくれましたが、年配の男性はなんでかこちらを無視するんですね。他人に下手から出て挨拶するのは損とばかりの態度でした。プライドが邪魔するのでしょうか。わざとらしく呼び止める私も大概でしたけど。
 その年配の方々も勤め人時代には、他施設訪問の際にはきちんと名乗って申告していたはずです。それが途端にこうなんですね。

 また、生徒に対しては、校内で外部の人間に出立ったら、挨拶をするよう指導していました。声出ししないにしても、会釈を必須としていました。外部の人間には、出入りの業者以外に業界関係者が多く、挨拶できない生徒と認識されたら就職で不利になりかねません。逆に、あそこの生徒は挨拶がきちんと出来るとの評価が、なにかの折りに話題に上るかもしれません。生徒にもその大切さを理解してもらいました。

 ですから、生徒の業界での評判はよかろうと思っていましたが、上には上がいると思い知らされました。
 某専門学校を所用で訪ねたとき、校内で出会う生徒すべてが大声で挨拶してくれたんです。午前中だと「お早うございます」、午後だと「こんにちは」のオンパレードで、こちらも声出し挨拶の連続でした。これが休憩時間だと、教室から出てきた生徒群に挨拶の集中を受け、アイドルの舞台挨拶もかくやと思わされました。

 それまで我が施設の生徒は挨拶がよくできていると自賛していましたが、認識を改めさせられました。以後は自校生徒にその話を伝え、負けないよう発破をかけました。下手すりゃ評判の良しあしで、就職の際に不利になっちゃいますから。

 この引用記事の日本人たちも、小学校時代には気持ちいい挨拶ができていたはずです。横断歩道で待機してくれたドライバーへのお辞儀が世界で感心されていますしね。それが、いつしかぶすくれた愛想のない大人に変貌しちゃうんですね。中高時代に問題があるのでしょうか、そのあたりが変わり目なのかなあ。
 入社して挨拶ができるようになっても、それは職場内と仕事関連に限られるみたいで、それ以外を対象外とするのが不思議です。もちろん、こういうのは人それぞれで、常に気持ちよく接する方もいれば、愛想するのが損だとばかりの方もいるしで一概には言えませんけどね。
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百弐拾弐   ジョン・ワーノック氏逝去(2023/8/21)
 Adobe創業者であるジョン・ワーノック氏逝去のYahoo! ニュースです

 DTPに長く携わった人間としては、感慨深いものがあります。コンピュータ創成に係った人間たちの多くが、少なからずドラマチックな半生であり、ワーノック氏もまた例外ではありません。

 ワーノック氏は、ユタ大学大学院の数学科で優秀なプログラマとして在籍していたとき、妻子を食わすために大学の教務事務の仕事もしていました。某夜、生徒の履修届けの整理入力をしていると、学生がやってきて愚痴を漏らしました。海洋アカデミーから水先案内の訓練シミュレーター開発を課されて二進も三進もいかなくなっていたのです。

 ニューヨーク港内を移動するに従い、刻々変わる画面表示をいかに実現するかという難問です。近景遠景を含め、ビルに隠れたり現れたりする情景をどう処理するか、当時の技術ではまず以って不可能事でした。あらゆる場面、方向を撮影し、それらを組み合わせたとて解決する話ではありませんでした。特にデータ量がとてつもなくなりますから、解決策が見当たりません。

 話を聞いたワーノック氏は、ラスター処理でなく、数学的陰面解析でベクター処理するアイデアを学生に提示しました。驚いた学生は、担当教授に話し、教授→学部長→学長へと話が伝わって、ワーノック氏は数学科からコンピュータサイエンス科へと専攻を替え、時代というか世界をも変えてしまいました。ここで得られたアイデアが、後のPostScriptの出発点なんですね。

 その後、パロアルトに入所し、次いでチャールズ・ゲシキ氏とともにAdobeを設立し、編集出版のテクノロジーを世界レベルで変革しました。さらにPDFに進化することで、今や事務分野においてもなくてはならないツールに成長しています。そのゲシキ氏も2年前に亡くなりました。

 ちなみにPostScript言語に対応した最初のアプリケーションが「PageMaker」です。出版システム会社からスピンアウトしたポール・ブレンナード氏らがつくりあげ、AppleのLaserWritterの機能を唯一活かすことのできるアプリでした。

 私も最初にDTPに親しんだのがPageMakerでした。最初はMacの漢字Talk6.0あたりで、PageMaker3.0Jだったかを使っていました。もはやバージョンも忘れて確としませんけど。

 PageMakerは表示バグが致命的でした。Windows版PageMakerの表示に問題がありましたが、それはMac版も同じでした。当時、Windows嫌いのMac使いの方々が、Windowsの表示が駄目だとか強調してましたが、あれはWord、Excel、PageMakerという特定アプリの仕様の問題であり、OSの仕様は関係なかったんですけどね。前述したように、PageMakerはMac版も駄目でした。画面の表示比率を変えると、字送りがコロコロ変化しました。なので、いずれの表示倍率で版面構成すればいいか困りました。印刷するまで字送りが確定せず、一体どこがWYSIWYGやねん、と情けなかったです。それもこれも、今となっては懐かしい昔話です。
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百弐拾壱   井上選手は大谷選手に倣うべし(2023/8/12)
 井上選手のS.バンタム級戴冠試合は、世界中のボックスファンが興奮しました。それほどの名試合を成し遂げながら、どうにも後がいけません。

 THE ANSWER の井上尚弥「フルトンにシカトされ…」 試合後の舞台裏告白、狡猾プレーには「わざとでしょうね」から引用します。

 3点ばかし立居振る舞いに不適切さを感じます。

 一夜明け、神奈川・横浜市内 の所属ジムで会見した。
 井上が勝利したが、前夜に会場にあった2団体の実物のベルトはフルトンの所有物。後日、井上には新たなベルトが贈られる。通例では試合後会見、この日の一 夜明け会見で前王者のベルトを借りて臨むが、井上の 試合後会見でもベルトはなし。すぐに相手陣営が回収 したという。
 井上は「まぁそんな人たちなのかな」と受け流し、最強王者として度量の大きさを見せた。


 相手を貶めるために、わざわざ裏事情にまで触れる必要はありません。むしろ、反省すべきは井上陣営です。試合後のリングでフルトン選手をあそこまでコケにしておいて、よくもこんな小さな件を外に向かって話したものです。
 勝利後のリングが、勝者のみの場となっていましたね。インタビューも日本人選手にありがちな自分のことばかり語るものでした。大橋会長は、その流れの中でタパレス選手をリングに上げ、次期対戦候補として並び立たせて撮影までさせていました。

 敗者インタビューはなしというか、完全に無視しました。衆人環視の前、世界同時配信の中で、よくもあそこまで失礼なことができたものです。その反省もなく、私的なやり取りであるベルト貸与返還のタイミングに文句をつけているんですね。もはや、自分がなにをしているか、なにを言ってるか真っ当な判断ができなくなっています。

 「(右構えに)今まで足を踏まれたことはない。(フルトンに)何回か踏まれたけど、レフェリーも1回しか注意してくれなかった。踏まれると集中力が1回切れるんですよ。踏まれた時につま先にグッと来ていたので、わざとでしょうね。ああいうのは練習しないとできないと思う。接近したとしても(つま先が通常と)角度が違って、異様に斜めに来ていた。1ラウンド目に躓いて、サウスポーとやっているような感覚でした」

 フルトン選手はスタンスを大きく広げ、後ろ重心だったので、左脚を大きく前にせり出していました。この体勢で安定するには、つま先というか足を横に向ける必要があります。上の注文は勘違いですね。
 フルトン選手は前脚を前方に置くことによって、井上選手の踏み込みの邪魔になるよう工夫していました。これはディフェンス技術であり、反則でも何でもありません。ただ、小刻みに前進しながら井上選手の前足を踏みにいったのは反則行為です。すかさずレフェリーが注意しましたから、それで済んだ話です。

 フルトン選手の体勢に文句を言うのは的外れです。むしろ、悪質な反則を挙げるなら、これはもう井上選手による後頭部への加撃に止めを刺します。ナックルと身体の捻りを入れたあれは強打でした。「ああいうのは練習しないとできないと思う」は、自身の反則行為に向けるべき言葉です。

 フルトン陣営からは思わぬ“言い掛かり”をつけられ た。
 過去の井上の試合記事を目にしたフルトンのトレ ーナー、ワヒド・ラヒーム氏からのもので、その試合での井上のバンテージの巻き方に論争が起こっていたというのだ。
 通訳によれば、記事は海外メディアの英字記事だというが、同氏は「今回の試合に関しては、そういった問題が起こらないように、レフェリーや見てくれている人たちに分かりやすい準備をしていってほしい」と語った。

 これに対し、報道陣から見解を問われた井上は「すごくナイーブだなと思いましたし、自分は24戦やって24戦全試合、正々堂々と試合をやっているので、何の記事を見たのか分からないのですが、少しナイーブになり過ぎなのかなと。こちらも正々堂々と戦うのでご心配なく」と冷静に言い返した。

 すると会見の最後に、再びラヒーム氏自ら発言の意図について説明。通訳を通じて同氏は「井上選手からナイーブになっているのではないかというコメントがあったが、私はフルトンが問題なく試合を遂行できるように準備を含めて、やはり選手のどちらかが有利になってはいけない、ワンサイドになってはいけない、公平に戦いたいと思っている。その中で、映像で見たバンテージの論争が起こっているなかで、パンパンになったグローブをつけてやる試合は公平ではないと思っている。なので、フルトンを守るためにも、公平に試合が行なわれるように、皆さんの前でコメントをさせてもらった」と語り、会見は締めくくられた。


 こんなの問題にするような話ではありません。「バンテージの巻き方に疑問があるなら、現場で確認してください」と返して終わりです。対戦相手のバンテージの巻き方を監視するのは普通にやることですから。このやり取りから、ひょっとして後ろ暗いことでもあるんかいなと勘ぐってしまいます。

 今回のフルトン陣営からの指摘は有意義であったと考えています。バンテージについては、海外でも国内試合でもグレーな話がいろいろありました。
 対戦相手を訪ねるとすでに巻き終わっていて、どのような巻き方をしたか分からず、指摘しても応じない悪質ケースもありました。また、石膏を塗りつけた話もありました。
 国内でも、相手の見てないところで巻き終り、巻き直しに応じなかったケースがあります。また、巻き終ってコミッションがマジックで認証サインしたはずが、試合後のバンテージ映像でサインが大きくずれていたというとんでもケースがありました。またあるいは、水で湿らせながら巻いている選手がいたと語るジム関係者もいます。
 つき合いの長いボクシングライターさんたちは、ジムや選手のグレーな面を絶対に書きません。言わば業界の内部関係者であり、ジャーナリズムとは無縁ですから。

 今回、話題になることによって、バンテージのルールが広く知られたり、テーピングの様子がカメラで撮られたりで、業界健全化の為にも有意義でした。ですから、フルトン選手のマネージャーには賛意さえ示したいです。

 上で紹介した井上選手のコメントは、いただけない内容ばかりです。思わず大谷選手の試合後のコメントと比べてしまいました。百参     大谷選手は脳筋にあらず(2023/4/7)で触れています。もうね、大違いです。
 MLBでトップアスリートとして長く活躍している選手と内向きの島国メンタリティに染まっているアスリートを比べちゃいけないんでしょうが、井上選手が第二のパッキャオに擬せられるほど声名が高まっているだけに惜しまれます。パッキャオ選手もアメリカで出世し、ビッグマッチのメインイベントを務めるに従ってコメントもまた洗練されていきました。

 きっと、マスコミがこぞってスター扱いする中で、本人も勘違いを深めていったのではないでしょうか。願わくば、もっと謙虚に、もっと対戦相手に敬意を払うようにしていただきたいです。その振る舞いが自身の価値を高め、あるいは逆に貶めもするんですから。
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