ヒトツキ遅れのバースデー
arc2|2006.11.09
ようはこの"固まり"が成りたかった、完成品を。
「…ふ」
シャンテは憂いに満ちた目で、もう一度遠くを見ることで答えた。
思い出したくもないほどの緊張感で酷く苦労しながら、なんとかシャンテを怒らせないように聞き出した内容によると。
彼女が作り出そうとした人形のモデルはホルンの村で育てられていた、白い大きなモンスター。
ふわふわっとしたそいつらは、昔からずっと村人達と暮らしているらしい。彼等の毛だとか高タンパクを含んだ乳は、極上だと復興の手伝いをする最中で聞いた。
あの壊滅状態の中で、柵を自ら破り山へ逃亡し生き残った彼等の喉を、リーザが嬉しそうに愛しそうに撫でていたのを、エルクも覚えている。
(シャンテもそれを見て、プレゼントしようと思ったんだろーな)
結構な大役を任されてしまったことをもういちど改めていると、正面からお目当ての人物が歩いてきた。なんという偶然。
飴色の長い髪に、褐色の肌。スタイル抜群の彼女は、歩き方もモデル顔負け。しかも鈴の音がするイメージ。
ただ、口を開いたらとてつもない。それがサニアだ。
「あら、エルク」
さて、どうするものか。
シャンテ以上にやっかいな性質をお持ちなのは百も承知。ただ、彼女たちはとても世話焼きがいいから、そんなには心配していないのが本当のところ。
だから、正直に。正確に伝えれば。
エルクは顔を上げた。
「…手伝って欲しいことがあるんだ」
「手伝って欲しいこと?私に?」
ふと聞こえてきた声に、思わず止まってしまった足。
「ああ」
それに肯定する声が返る。エルクの声だ。
「リーザは?あと、シャンテとか」
最初の声が、今度は自分の名前を口にするのだから、リーザはどきりとした。
自室から出ようとすれば、聞こえてきた2つの声。
ノブに手をかけたまま、リーザはどうしようもなく耳を澄ませる。
「シャンテはたよりになんねーし、リーザは駄目だ」
その言葉に、リーザは耳を疑った。
駄目?駄目って、何が…?
その疑問に当然答えが返ってくることはなく、2人の会話は続く。
「ふ〜ん……いいわよ。何?」
「サンキュ。んーっと、ここでごちゃごちゃ言っても仕方ねーし。机あるとこって…どこだ?」
「そうね…ここなら食堂が近いわ」
「おっけ」
それを合図に小さな足音が離れていく。
完全に聞こえなくなったところで、リーザはノブから手を離し俯いた。
頭に残るのはさらっと言ったエルクの「駄目」の言葉。ただ、それだけ。
別にリーザは、自分のことを強いと思っているわけでもなければ、頼りになる人間だと思っていない。
だってそうでなければ、一ヶ月前、彼女の祖父は死ぬことはなかった。
その事実は、未だにリーザの心に張り付いている。立ち直るしかない、前を向くしかなかった今の状態。
不幸差に順位を付ける卑屈なことは考えないけれど。ただ、自分のような目に、自分たちのような目にあう人を減らすための旅だから。
だから、本当はこんなにショックを覚える言葉じゃないはずだ。当たり前なのだから、守れなかったのだから。
ないはずだったのに。
「一緒に行こう」と、私を後押ししてくれたのはあなたなのに。こんな私に言ってくれたのはエルクなのに。
『リーザは駄目だ』
彼の言葉が、足を止める。
「駄目」なのだと、私では「駄目」なのだと。
きりりと痛む胸を、リーザは押えるしかなかった。
「あれれ?なーにやってんの、エルク」
食堂にて、タオル相手に格闘していたエルクは顔を上げた。隣でいろいろとケチをつけてくれていたサニアも同様に顔を上げる。
「…ふ」
シャンテは憂いに満ちた目で、もう一度遠くを見ることで答えた。
思い出したくもないほどの緊張感で酷く苦労しながら、なんとかシャンテを怒らせないように聞き出した内容によると。
彼女が作り出そうとした人形のモデルはホルンの村で育てられていた、白い大きなモンスター。
ふわふわっとしたそいつらは、昔からずっと村人達と暮らしているらしい。彼等の毛だとか高タンパクを含んだ乳は、極上だと復興の手伝いをする最中で聞いた。
あの壊滅状態の中で、柵を自ら破り山へ逃亡し生き残った彼等の喉を、リーザが嬉しそうに愛しそうに撫でていたのを、エルクも覚えている。
(シャンテもそれを見て、プレゼントしようと思ったんだろーな)
結構な大役を任されてしまったことをもういちど改めていると、正面からお目当ての人物が歩いてきた。なんという偶然。
飴色の長い髪に、褐色の肌。スタイル抜群の彼女は、歩き方もモデル顔負け。しかも鈴の音がするイメージ。
ただ、口を開いたらとてつもない。それがサニアだ。
「あら、エルク」
さて、どうするものか。
シャンテ以上にやっかいな性質をお持ちなのは百も承知。ただ、彼女たちはとても世話焼きがいいから、そんなには心配していないのが本当のところ。
だから、正直に。正確に伝えれば。
エルクは顔を上げた。
「…手伝って欲しいことがあるんだ」
「手伝って欲しいこと?私に?」
ふと聞こえてきた声に、思わず止まってしまった足。
「ああ」
それに肯定する声が返る。エルクの声だ。
「リーザは?あと、シャンテとか」
最初の声が、今度は自分の名前を口にするのだから、リーザはどきりとした。
自室から出ようとすれば、聞こえてきた2つの声。
ノブに手をかけたまま、リーザはどうしようもなく耳を澄ませる。
「シャンテはたよりになんねーし、リーザは駄目だ」
その言葉に、リーザは耳を疑った。
駄目?駄目って、何が…?
その疑問に当然答えが返ってくることはなく、2人の会話は続く。
「ふ〜ん……いいわよ。何?」
「サンキュ。んーっと、ここでごちゃごちゃ言っても仕方ねーし。机あるとこって…どこだ?」
「そうね…ここなら食堂が近いわ」
「おっけ」
それを合図に小さな足音が離れていく。
完全に聞こえなくなったところで、リーザはノブから手を離し俯いた。
頭に残るのはさらっと言ったエルクの「駄目」の言葉。ただ、それだけ。
別にリーザは、自分のことを強いと思っているわけでもなければ、頼りになる人間だと思っていない。
だってそうでなければ、一ヶ月前、彼女の祖父は死ぬことはなかった。
その事実は、未だにリーザの心に張り付いている。立ち直るしかない、前を向くしかなかった今の状態。
不幸差に順位を付ける卑屈なことは考えないけれど。ただ、自分のような目に、自分たちのような目にあう人を減らすための旅だから。
だから、本当はこんなにショックを覚える言葉じゃないはずだ。当たり前なのだから、守れなかったのだから。
ないはずだったのに。
「一緒に行こう」と、私を後押ししてくれたのはあなたなのに。こんな私に言ってくれたのはエルクなのに。
『リーザは駄目だ』
彼の言葉が、足を止める。
「駄目」なのだと、私では「駄目」なのだと。
きりりと痛む胸を、リーザは押えるしかなかった。
「あれれ?なーにやってんの、エルク」
食堂にて、タオル相手に格闘していたエルクは顔を上げた。隣でいろいろとケチをつけてくれていたサニアも同様に顔を上げる。