ヒトツキ遅れのバースデー
arc2|2006.11.09
(…とにかく、ひとまず自分の表情を確かめよう。それで)
また何ともない顔で、4人のいる食堂へ行こう。とても、勇気のいる行動だけど。
「まずは鏡よね…。えーっと、ここはどこら辺かしら…?」
そう呟いて、近くの扉を覗いてみると、自身が歩いてきた方向から慌ただしい足音。
と同時に感じる気配に、リーザは思わず身を固めた。
「リーザ!」
さすが一味内でトップを争う瞬発力。一瞬にして距離を縮め、目の前で切らした息を整えているのは、やっぱり彼。
「はぁー、リーザ足はえーな」
顔を上げて、最も特徴的な濃紫の瞳が細まって、リーザは困惑した。
「…エルク?」
そう名を呼ぶと、エルクは困ったように、躊躇うように頬を掻いてから、酷く言い難そうに口を開いた。
「えーっとな、そのな、あの…」
元々口べたな方だと思っていたが、これはあまりにも酷い。思わず助けてあげたくなるのを、リーザは堪えて続きを待った。
少し俯かせていた顔を上げて、エルクは告げる。
「さっきオレが食堂でしてたことって、人形作りなんだ!」
勢いよく、そう告げられたリーザは、先程とは違うショックにみまわれた。
「…にんぎょう…づくり」
言葉の意味が分からないといわんばかりに繰り返せば、若干吹っ切れぎみのエルクが頷く。
「そ。それで、その人形ってのは、リーザへのおっそいおそい誕生日プレゼントなんだよな」
「?私への?」
「おう」
こくりと頷かれ、リーザはまだまだ困惑を隠せない。
「エルクが作ってたの…?」
そうエルクに言われた言葉を呟けば、とたんにエルクは目をそらす。
「…で!さっきも本当は、素直にそう答えようとしてたんだけど、今日中に人形が手元に届いたらオレが作ってたヤツだってバレるってことに気付いて」
「う、うん、気付くと思う」
「うん。でな、東アルディアで会っただろ?ドールマンサーでネクロマンサー。ほら、下水道と廃墟のとこで」
急に話が変わったことに、当惑しつつ、リーザは自身の脳に検索をかけてみた。
「あ。う、うん、そんな人もいたわね」
でも、その人がどうかしたの?と首を傾ければ、エルクがようやくこちらをむいた。
その顔は先程とはうってかわって、真剣そのもので、思わず身構えてしまう。
「…リーザは、そいつが人形を手作りしたって聞いてどう、思った?」
「え?ど、どうって…」
予想外の質問にリーザは顎に指をかける。
思い出すのは廃墟の2階にいた不思議な出で立ちのおじさん。周りには、少女を象ったの人形。
「正直に言えば…気持ちいいものじゃなかったわ…でも、それがどうか、あ!」
気付いてしまって、リーザは思わず口を押さえれば、エルクは酷くばつが悪そうにまた顔を背けた。
その、あまりにも正直な、肯定を示す仕草に。そして、彼が関係ないと言ってしまった理由に、リーザはつい。
吹き出してしまって。
「は、あはははっ!え、エルク、そんなこと思うわけないじゃないっ」
目元を押さえてそう言えば、エルクが素晴らしい早さでこちらを見た。
「へ?な、何で?」
「そりゃそうよ、だって、エルクは私のために作ってくれたのでしょ?あの人は、自分の趣味で作ってたから」
「え、でも、気持ち悪いには変わりねーだろ。つか、オレだったら引くし…」
「ううん、エルクなら大丈夫よ?シャンテさんもサニアさんもポコさんも、何も言わなかったでしょ?」
「え…あ、うん。そうだけど、でも」
食い下がるエルクに、リーザは笑ったまま手を翳して待ったをかけた。
「ね、エルク。私は嬉しいわ。どこにも問題なんてない」
「え……そ、そっか」
照れたようにエルクが漸く頷いたから、リーザもつられて微笑んだ。
「うん」
「あ、あと、だからな、関係ないって言うのは、その…」
「エルクが関係なかったのね、人形と。そうでしょ?」
「ああ、そいうこと。…悪い」
項垂れて、謝るエルクに、リーザは首を横に振った。
だって、これはただの誤解だった。食い違いだったのだから。
謝る必要なんてないのだから。
「ううん。あ、あとね…私は駄目っていうのも…」
これはただの確認だ。今までの話から察するに『リーザは駄目』というのは、贈り相手に作らせるわけには、相談するわけにはいかなかったということだろうから。
エルクはきょとんと首を傾ける。
「リーザは駄目?何だそれ?オレ、んなことも言ったのか?」
眉間にしわを寄せながら本気でそう訊いているエルクに、リーザはもう笑いだしたくなった。
なんだ。なんだ。
「ううん、エルクじゃないの」
そう言ってみれば。
「へ?誰だよソイツ、ふざけてんな。リーザのどこが駄目なんだっつーの」
こうエルクは怒って言うから。
なんだ、勘違い。
ごちゃごちゃの感情が吹き飛んで、変わりに生まれたのは安堵と喜びと、誤解しちゃったことに対する恥ずかしさ。
嬉しくて、リーザはエルクの手を握った。
また何ともない顔で、4人のいる食堂へ行こう。とても、勇気のいる行動だけど。
「まずは鏡よね…。えーっと、ここはどこら辺かしら…?」
そう呟いて、近くの扉を覗いてみると、自身が歩いてきた方向から慌ただしい足音。
と同時に感じる気配に、リーザは思わず身を固めた。
「リーザ!」
さすが一味内でトップを争う瞬発力。一瞬にして距離を縮め、目の前で切らした息を整えているのは、やっぱり彼。
「はぁー、リーザ足はえーな」
顔を上げて、最も特徴的な濃紫の瞳が細まって、リーザは困惑した。
「…エルク?」
そう名を呼ぶと、エルクは困ったように、躊躇うように頬を掻いてから、酷く言い難そうに口を開いた。
「えーっとな、そのな、あの…」
元々口べたな方だと思っていたが、これはあまりにも酷い。思わず助けてあげたくなるのを、リーザは堪えて続きを待った。
少し俯かせていた顔を上げて、エルクは告げる。
「さっきオレが食堂でしてたことって、人形作りなんだ!」
勢いよく、そう告げられたリーザは、先程とは違うショックにみまわれた。
「…にんぎょう…づくり」
言葉の意味が分からないといわんばかりに繰り返せば、若干吹っ切れぎみのエルクが頷く。
「そ。それで、その人形ってのは、リーザへのおっそいおそい誕生日プレゼントなんだよな」
「?私への?」
「おう」
こくりと頷かれ、リーザはまだまだ困惑を隠せない。
「エルクが作ってたの…?」
そうエルクに言われた言葉を呟けば、とたんにエルクは目をそらす。
「…で!さっきも本当は、素直にそう答えようとしてたんだけど、今日中に人形が手元に届いたらオレが作ってたヤツだってバレるってことに気付いて」
「う、うん、気付くと思う」
「うん。でな、東アルディアで会っただろ?ドールマンサーでネクロマンサー。ほら、下水道と廃墟のとこで」
急に話が変わったことに、当惑しつつ、リーザは自身の脳に検索をかけてみた。
「あ。う、うん、そんな人もいたわね」
でも、その人がどうかしたの?と首を傾ければ、エルクがようやくこちらをむいた。
その顔は先程とはうってかわって、真剣そのもので、思わず身構えてしまう。
「…リーザは、そいつが人形を手作りしたって聞いてどう、思った?」
「え?ど、どうって…」
予想外の質問にリーザは顎に指をかける。
思い出すのは廃墟の2階にいた不思議な出で立ちのおじさん。周りには、少女を象ったの人形。
「正直に言えば…気持ちいいものじゃなかったわ…でも、それがどうか、あ!」
気付いてしまって、リーザは思わず口を押さえれば、エルクは酷くばつが悪そうにまた顔を背けた。
その、あまりにも正直な、肯定を示す仕草に。そして、彼が関係ないと言ってしまった理由に、リーザはつい。
吹き出してしまって。
「は、あはははっ!え、エルク、そんなこと思うわけないじゃないっ」
目元を押さえてそう言えば、エルクが素晴らしい早さでこちらを見た。
「へ?な、何で?」
「そりゃそうよ、だって、エルクは私のために作ってくれたのでしょ?あの人は、自分の趣味で作ってたから」
「え、でも、気持ち悪いには変わりねーだろ。つか、オレだったら引くし…」
「ううん、エルクなら大丈夫よ?シャンテさんもサニアさんもポコさんも、何も言わなかったでしょ?」
「え…あ、うん。そうだけど、でも」
食い下がるエルクに、リーザは笑ったまま手を翳して待ったをかけた。
「ね、エルク。私は嬉しいわ。どこにも問題なんてない」
「え……そ、そっか」
照れたようにエルクが漸く頷いたから、リーザもつられて微笑んだ。
「うん」
「あ、あと、だからな、関係ないって言うのは、その…」
「エルクが関係なかったのね、人形と。そうでしょ?」
「ああ、そいうこと。…悪い」
項垂れて、謝るエルクに、リーザは首を横に振った。
だって、これはただの誤解だった。食い違いだったのだから。
謝る必要なんてないのだから。
「ううん。あ、あとね…私は駄目っていうのも…」
これはただの確認だ。今までの話から察するに『リーザは駄目』というのは、贈り相手に作らせるわけには、相談するわけにはいかなかったということだろうから。
エルクはきょとんと首を傾ける。
「リーザは駄目?何だそれ?オレ、んなことも言ったのか?」
眉間にしわを寄せながら本気でそう訊いているエルクに、リーザはもう笑いだしたくなった。
なんだ。なんだ。
「ううん、エルクじゃないの」
そう言ってみれば。
「へ?誰だよソイツ、ふざけてんな。リーザのどこが駄目なんだっつーの」
こうエルクは怒って言うから。
なんだ、勘違い。
ごちゃごちゃの感情が吹き飛んで、変わりに生まれたのは安堵と喜びと、誤解しちゃったことに対する恥ずかしさ。
嬉しくて、リーザはエルクの手を握った。