ヒトツキ遅れのバースデー
arc2|2006.11.09
入り口からひょこひょことこちらの机に向かってくるのは、ポコだ。
「おめーこそ、どこ行ってたんだよ」
ちらりと時計を見上げれば、午後3時をまわったところ。今日は早めの昼食で、シャンテから人形作りを頼まれたのは12時半。
それで、真っ先に相談しようとしていたのは実はこの音楽家にだ。
こう見えて、ポコは手先が器用で、お前は嫁に行く気かと言わんばかりに家事のできる奴。なおかつ、あまり茶化してもこないから、相談相手としてうってつけだったのに。いなかったのである、部屋に行っても。
そこで急遽サニアになったのだ。
きょとんとポコは目を瞬かせ、時計を見て驚く。
「え?ってもうこんな時間かー。アークと話してたんだよねー」
アーク。成る程、盲点だ。
「で、何してるの?サニアと居るなんて、珍しいよね」
なんか天敵っぽいのに。そう言外に含ませると、しっかりエルクは悟って息を吐く。
「しゃーねーだろ、おめーいなかったし」
「あら、あたしは代わりってわけ?こんなに手伝ってあげたっていうのに、その態度はなによ?」
「え、あ、わ、わりい!そういうわけじゃねーよ!」
わたわたと、手に持っていたタオルを机の上に置き、右手には針を持ったままでエルクは急いで否定する。
どうだか、とサニアがにまっと笑った。
思いっきり一方的に楽しんでいるやりとりを、見ているのも楽しいが、ポコは3度目の質問を繰り返した。
だって気になるし。
「で、何やってるの?裁縫なんて、今日は珍しいことばっか」
「う…。やっぱ、そうおもっか?」
「そりゃまあ。エルクってば、穴が開いてても気にせず服着るタイプじゃん」
「っていうか、塞いでもすぐ開くし…」
「そういうことを言ってるわけじゃないって。で、なんなのさー」
4度目だ、4度目。そろそろ、ポコはうんざりである。
それに助けを出したのは、サニアだった。
「ふふふ、コイツったら、なかなかすみにおけないのよ〜?」
「ば、馬鹿、んな言い方したら…」
ちらっとポコを見れば、にま〜っとした笑みが返ってきてエルクは手遅れになったことを悟る。
「なになになになに?ど〜いうこと?」
「や、ポコ、勘違いすんな。これはシャンテに言われて」
「あらあらあら、自分は仕方なくやってますってことなのかしら?」
「え、いや、違うぞ!…って、コノッ」
エルクは地団駄をふんだ。それを見てサニアは爆笑する。
なんだか、連れて行ってくれないなとポコは少し寂しくなっていると、エルクがよく聞けと前おいてから口を開いた。
爆笑しているサニアはもう、どうしようもないと諦めたらしい。
「リーザの誕生日が先月でな。で、遅いけどプレゼントを贈ろうって言うんで、ほら、ホルンの村に、もこもこしてる白い生き物いただろ?あいつをぬいぐるみとして作ってんだよ。で、オレはそんな裁縫とかしたことねーから、型紙からサニアに手伝ってもらってたわけだ」
そんだけ!それ以上でもそれ以下でもない!そうエルクは最後に言い、サニアの笑いはおさまらない。
その様子に苦笑し、成る程なーと、ポコはエルクの隣の席に座り、その経過を見てみる。
うん。
「結構出来てるねー」
「だろだろ?オレってば、やっぱ天才だから」
「ぷっ、あんたどんだけ手伝ってもらってるとおもってんのよっ」
「うっさい!シャンテよりマシだっつーの!」
そう叫んで、エルクは八つ当たり気味にタオルに針を刺した。
同時に、また一つ食堂へと入ってきた気配に、ビクリと体を震わせる。
ほんの少し遅れて、気配に気付いたポコとサニアは、入り口を見るやいなや必死で、吹き出すのを堪えた。
かつかつとヒールを響かせて歩いてきた来訪者は、エルク達3名の前に机を挟んで立つと、腕を組んだまま。
「あらあら、聞き捨てならないことを言ってくれるじゃない、エルク?」
にっこりと笑った。エルクはもう命をかけて目をそらしている。
そのエルクの様子を面白そうに眺めつつ、サニアの手元にある紙をとった来訪者、もといシャンテは感嘆の溜息をついた。
それにつられてポコも身を乗り出し、覗いてみる。
サニアの書いた設計図だ。占い師、というより自作ワラ人形を使う呪術者だけあって、絵図が上手い。
多分、彼女の人形もこうやって作られたのだろうと、思いつつ、口に出すことはしない。
そうしてシャンテは、今度はエルクが手に持つ物に視線をずらした。サニアとポコにちょっかいを出され、シャンテの視線を逃れつつも作業の手を止めなかった彼のそれは、ポコが言ったとおり終盤を迎えているようで。
(エルクに任せたのは正解だったわね)
見た目を裏切る器用さを信用してよかった。
自分の判断の正しさにうっとりぎみのシャンテである。
「ねーねー、エルク。それ、中に何詰めるの?」
「んー、それがなぁ…」
糸を切り、ポンポンと形を整えて、エルクは困ったように頬をかいた。
そうして、漸くちらっとだけどシャンテを見上げる。
シャンテは軽くうなずいて、手に持った設計図を机においた。
「それを作ろうって思いついたのが、今朝洗面所で新しいタオルを発見したときっていう突発的なものだったの。だから、さすがに綿はなくて。だから買いに行くしかないわ」
「ふーん…ならさあ、布団のでよかったら使わない?裂いてみないと状態はいいとは言い切れないけど、もう使えないのがあるんだー」
「おめーこそ、どこ行ってたんだよ」
ちらりと時計を見上げれば、午後3時をまわったところ。今日は早めの昼食で、シャンテから人形作りを頼まれたのは12時半。
それで、真っ先に相談しようとしていたのは実はこの音楽家にだ。
こう見えて、ポコは手先が器用で、お前は嫁に行く気かと言わんばかりに家事のできる奴。なおかつ、あまり茶化してもこないから、相談相手としてうってつけだったのに。いなかったのである、部屋に行っても。
そこで急遽サニアになったのだ。
きょとんとポコは目を瞬かせ、時計を見て驚く。
「え?ってもうこんな時間かー。アークと話してたんだよねー」
アーク。成る程、盲点だ。
「で、何してるの?サニアと居るなんて、珍しいよね」
なんか天敵っぽいのに。そう言外に含ませると、しっかりエルクは悟って息を吐く。
「しゃーねーだろ、おめーいなかったし」
「あら、あたしは代わりってわけ?こんなに手伝ってあげたっていうのに、その態度はなによ?」
「え、あ、わ、わりい!そういうわけじゃねーよ!」
わたわたと、手に持っていたタオルを机の上に置き、右手には針を持ったままでエルクは急いで否定する。
どうだか、とサニアがにまっと笑った。
思いっきり一方的に楽しんでいるやりとりを、見ているのも楽しいが、ポコは3度目の質問を繰り返した。
だって気になるし。
「で、何やってるの?裁縫なんて、今日は珍しいことばっか」
「う…。やっぱ、そうおもっか?」
「そりゃまあ。エルクってば、穴が開いてても気にせず服着るタイプじゃん」
「っていうか、塞いでもすぐ開くし…」
「そういうことを言ってるわけじゃないって。で、なんなのさー」
4度目だ、4度目。そろそろ、ポコはうんざりである。
それに助けを出したのは、サニアだった。
「ふふふ、コイツったら、なかなかすみにおけないのよ〜?」
「ば、馬鹿、んな言い方したら…」
ちらっとポコを見れば、にま〜っとした笑みが返ってきてエルクは手遅れになったことを悟る。
「なになになになに?ど〜いうこと?」
「や、ポコ、勘違いすんな。これはシャンテに言われて」
「あらあらあら、自分は仕方なくやってますってことなのかしら?」
「え、いや、違うぞ!…って、コノッ」
エルクは地団駄をふんだ。それを見てサニアは爆笑する。
なんだか、連れて行ってくれないなとポコは少し寂しくなっていると、エルクがよく聞けと前おいてから口を開いた。
爆笑しているサニアはもう、どうしようもないと諦めたらしい。
「リーザの誕生日が先月でな。で、遅いけどプレゼントを贈ろうって言うんで、ほら、ホルンの村に、もこもこしてる白い生き物いただろ?あいつをぬいぐるみとして作ってんだよ。で、オレはそんな裁縫とかしたことねーから、型紙からサニアに手伝ってもらってたわけだ」
そんだけ!それ以上でもそれ以下でもない!そうエルクは最後に言い、サニアの笑いはおさまらない。
その様子に苦笑し、成る程なーと、ポコはエルクの隣の席に座り、その経過を見てみる。
うん。
「結構出来てるねー」
「だろだろ?オレってば、やっぱ天才だから」
「ぷっ、あんたどんだけ手伝ってもらってるとおもってんのよっ」
「うっさい!シャンテよりマシだっつーの!」
そう叫んで、エルクは八つ当たり気味にタオルに針を刺した。
同時に、また一つ食堂へと入ってきた気配に、ビクリと体を震わせる。
ほんの少し遅れて、気配に気付いたポコとサニアは、入り口を見るやいなや必死で、吹き出すのを堪えた。
かつかつとヒールを響かせて歩いてきた来訪者は、エルク達3名の前に机を挟んで立つと、腕を組んだまま。
「あらあら、聞き捨てならないことを言ってくれるじゃない、エルク?」
にっこりと笑った。エルクはもう命をかけて目をそらしている。
そのエルクの様子を面白そうに眺めつつ、サニアの手元にある紙をとった来訪者、もといシャンテは感嘆の溜息をついた。
それにつられてポコも身を乗り出し、覗いてみる。
サニアの書いた設計図だ。占い師、というより自作ワラ人形を使う呪術者だけあって、絵図が上手い。
多分、彼女の人形もこうやって作られたのだろうと、思いつつ、口に出すことはしない。
そうしてシャンテは、今度はエルクが手に持つ物に視線をずらした。サニアとポコにちょっかいを出され、シャンテの視線を逃れつつも作業の手を止めなかった彼のそれは、ポコが言ったとおり終盤を迎えているようで。
(エルクに任せたのは正解だったわね)
見た目を裏切る器用さを信用してよかった。
自分の判断の正しさにうっとりぎみのシャンテである。
「ねーねー、エルク。それ、中に何詰めるの?」
「んー、それがなぁ…」
糸を切り、ポンポンと形を整えて、エルクは困ったように頬をかいた。
そうして、漸くちらっとだけどシャンテを見上げる。
シャンテは軽くうなずいて、手に持った設計図を机においた。
「それを作ろうって思いついたのが、今朝洗面所で新しいタオルを発見したときっていう突発的なものだったの。だから、さすがに綿はなくて。だから買いに行くしかないわ」
「ふーん…ならさあ、布団のでよかったら使わない?裂いてみないと状態はいいとは言い切れないけど、もう使えないのがあるんだー」