建白TOPへ

百六拾    アンプ発送(2024/6/3)
百五拾九   “女優”か“俳優”か(2024/5/29)
百五拾八   大学教育の個人負担はいかにあるべきか(2024/5/22)
百五拾七   日米地位協定がもたらす環境破壊(2024/5/15)
百五拾六   傑作『ミレニアム』シリーズ(2024/5/8)
百五拾五   『サル学の現在』の凄味(2024/4/30)
百五拾四   再度、イスラエルは中東の癌(2024/4/20)
百五拾参   大谷騒動(2024/4/13)
百五拾弐   永代経法座初体験(2024/4/3)
百五拾壱   アンプ二度目の故障(2024/3/23)
百五拾    カセットデッキ復活途遠し(2024/3/14)
百四拾九   「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」(2024/3/5)
百四拾八   興梠一郎講演会に行きました(2024/3/5)
百四拾七   『カムイ伝第二部』って完結してたんですね(2024/2/29)
百四拾六   島成園讃歌(2024/2/22)
百四拾五   カセットデッキもう駄目そう(2024/2/10)
百四拾四   今年のミス日本グランプリ(2024/2/4)
百四拾参   自販機破壊の暴挙(2024/1/26)
百四拾弐   揺るぎなき共産党(2024/1/19)
百四拾壱   能登半島地震(2024/1/6)




百六拾    アンプ発送(2024/6/3)
 本日、アクアの大島さん宛てアンプを発送しました。連休明けに受け入れ都合を訊ねたところ、月末には立て込んだ作業も一段落するとの回答でした。その月末となり、受入れ曜日や時間などを確認し、火曜、水曜が受け入れ可だったので、本日発送の手筈となりました。関東方面だと通常は翌日に届くものの、遅延等で翌々日にずれ込むこともあるそうで、月曜発送となりました。

 オリジナルの外箱を保存していたので助かりました。前回修理の際にも重宝したので、しっかり残しておきました。35.1kg とういう重量級アンプとあって、半端な梱包では間に合いません。オリジナル箱なのでアンプにフィットするのは勿論、クッション材の発泡スチロールもアンプ形状に合わせて要所を守るデザインとなっています。

 下図のとおり、すでに見えないながらクッション材が底部に鎮座しています。箱の左にあるのが上から被せる保護材です。これもまた、アンプをガードする成型となっています。



 加えて、二重段ボールという念の入れようです。下図のとおり、内箱、外箱それぞれが二重蓋構造となっています。このレベルの緩衝保護材を自作で組み上げるとなると大変です。メーカー製オリジナルとあって、なんの苦労もなくベストフィットしています。



 オーディオ関係で宅配を利用する際は、ヤマト運輸が定番です。扱いが丁寧との評価があるみたいで、某ショップで購入した商品を修理したとき、ヤマトさんを指定されたくらいです。
 前回のアンプ修理もヤマトさんを利用したはずです。ところが、今回は駄目なんです。いつからか知りませんが、30kg を超える荷を取り扱わないんですね。そこで、佐川急便に訊ねると、50kg までOKとのことで、近在の佐川さんにお願いしました。

 大変だったのは梱包でなく、私の体力です。35kg超えの荷を持ち上げると、足の踏ん張りが利かなくなりました。階段を下りたとき、最後の方で腰砕けになってへたり込みました。また、荷を持ち上げるとき、腰をいわしてしまわないかと怖かったです。
 若い頃は背筋力が自慢で、このアンプもなんなく抱え上げたものです。しかし、今の私には文字どおり荷が重く、よたよたしながらの運搬でした。次に故障しても、修理発送は無理だと確信しました。私のオーディオライフも先が見えてきた模様です。
目次




百五拾九   “女優”か“俳優”か(2024/5/29)
 先週のYAHOO!ニュースから、いろいろ考えさせられました。
 65歳池上季実子「俳優」呼びに違和感「女優は女優でいいんじゃないか」

 池上は「”女優”という響きも含めて、その言葉自体にあこがれもありますね」と続けた。
 そして、女性にしか「女優を名乗れないという思いもある」とも述べた。


 Political Correctnessの指弾は嫌いですが、その趣旨に重要な観点もあります。八拾七    ジェンダーフリーという名の精神の破壊(2003/7/6)でも触れています。以下の文面を引用します。

 一番に取組んで欲しかったのは、マスコミが日常的に利用している性の商品化です。新聞や雑誌の見出しや記事に使われている「OL」「女子大生」「女子高校生」「女児」「主婦」などの扇情的記述です。これらの用語をニュース記事に用いることによって、性的興味を惹き、売上に寄与しようというさもしい根性が不愉快だったのです。先の用語は「会社員」「大学生」「高校生」「児童」「住民」で事足りています。ことさら女であることを強調することによって、事件に性的色合いを付加し、読む者の興味を掻き立てているわけです。これこそが、真っ先に抗議すべき点だと思うのですが。

 マスコミが“女優”を避けて“俳優”と記す理由はこれでしょう。“女優”は性差を強調しているので男女共に適した“俳優”を使うべしの趣意なのでしょう。その趣旨には賛同できるし、逆に“女優”の字句に色づけされたイメージが、むしろ池上氏が願うように貴重なものにも思えます。

 さて、そこで“俳優”の字句を眺めると、これは決して雅なイメージじゃないんですね。むしろ、忌むべき用語ということになります。“俳優”って、ひどく差別的な語義なんですね。いえ、私はこういう衒学的な引用で難癖をつけるのが嫌いです。その背景を知っておいてもいいんじゃね程度の感興から書いています。

 “俳”は、人(人偏)と非の構成です。音を表すのが非で、卑(ヒ)→稗(ハイ)と変化したものです。意味としては柔若人―せむしの意となります。
 皇帝や貴族の側に侍していたせむしの侏儒(こびと)のことで、酒席などで冗談や諧謔、歌舞を演じて接待役を担っていました。俳優の語義はここから来ています。俳謔もまた、言葉の遊戯ということになります。

 俳優は役者や芸人のことながら、その語意が決して優雅、典雅なものでないのは歴然です。Political Correctness 由来ということで、“女優”を“俳優”に言い換えても、決して差別的な意味合いから逃れられないんです。むしろ、語源を知ると、“女優”“男優”の方が好ましくもあります。

 決していちゃもんをつけたいのではありません。漢字は、どうしても語義が剥き出しなので、イメージが隠せないんです。池上氏には、“女優”路線で押していただいてよかろうかと思います。
目次




百五拾八   大学教育の個人負担はいかにあるべきか(2024/5/22)
 大上段のタイトルをつけましたが、これに対する回答は持ち合わせていません。でありながら、標記のことについて思いを致したのは、昨日の東京新聞の記事「東京大「授業料の引き上げ」検討…学生が抗議に立ち上がった 経済的に厳しい人が「学びにくい」でいいのか」を読んだためです。

 高等教育の重要性はいうまでもありません。特に国立大学の使命とかいいだすと、授業料の高騰が問題なのは間違いないでしょう。しかし、あまり世間の論点に上らない重大な問題があります。
 記事で俎上に上がっている東京大学など、果たして他大学と同等に語ってよいものか疑問です。東大に学ぶ価値は、他に大きく優っているでしょう。そこに疑義を挟む余地はないでしょう。であるなら、その対価としての授業料に多寡があっても不思議はないかと思います。

 また、芸術系大学の中、東京藝大が学生に提供しているサービスは他を圧しています。予算が桁違いなんでしょう。大学が美術館を運営するなんて他では考えられません。学生の自画像5,000点近くを収蔵していますし、卒業制作を始めとして在学中の優れた作品を買い上げています。買い上げ作品の中でも、横山大観の「村童観猿翁」や青木繁の「黄泉比良坂」は、これが学生時代の作品なのかと驚かされます。買い上げにも納得ですけど。
 実習棟には、ボストン美術館から寄贈された貴重な石彫像がずらりと展示されていて壮観です。昔は狩野芳崖の「悲母観音」が普通に飾られていたそうです。「ぶらぶら美術・博物館」でゲスト解説の山下裕二先生が、「学生時代に毎日見ていて飽きた」とか腹立つこと言ってましたもの。

 受益者負担の観点に立つなら、受益を勘案して他より高い授業料はアリかと思います。東大生や東京藝大生の受益は、他校生を圧していますから。むしろ、同一なのが不平等とも言えます。

 いえ、私はその不平等故の受益を享受した口です。全国の美術系学部としては、在籍時の生徒一人当たりの国費投入額が藝大に次いでいたそうです。といっても大差の2位でしたけど。それと、4回生までの学生総数が50名ほどの少人数だったので、総額は知れたものでした。
 これで教室(実習室)が8室もあり、自由に使えるという贅沢を味わいました。加えて、生徒用にも控え部屋が1室宛がわれていて助かりました。生徒専用に部屋を与えるというのは、全国的にも稀な話でしょう。これで授業料は高校の延長程度だったわけで、有難い話でした。今にして思えば、贅沢の極みでした。
目次




百五拾七   日米地位協定がもたらす環境破壊(2024/5/15)
 日米地位協定の面妖さは、昔から常識人にとって尽きせぬ問題でした。奇奇怪怪とさえ言えます。
 一番目立つのは基地の立地です。軍基地という特殊な用途でありながら、最大限に大きな顔で居座っています。沖縄が置かれた状況、横田厚木という首都圏でありながらの居座りに顕著です。戦後80年近く経過しながら、これを見直すことはありませんでした。
 横田空域を米軍が独占排除し、日本側に管制権が一切ないという情けなさ。そんな実態を海外の人間が知れば、日本が独立国家だと信じないでしょう。

 昔から基地が返還された際、地所内に有毒物質が埋められているのは通常です。その無毒化作業を日本側が手間と金をかけてやってきました。現今、あらたにPCBと有機フッ素化合物の扱いが危惧されます。

 在日米軍所有(使用)の高濃度PCBの処理について、やはりというか半端な対応が為されています。下記記事は、PCB廃棄物処理を請け負ている日本環境アセスが昨年の琉球新報を引用したものです。
 米軍高濃度PCB使用 日本の法律に従わせよ

 下記は、後日の琉球新報続報です。
 <社説>日本が米軍PCB処分 米軍の責任で撤去させよ

 下記は、今年に入っての進捗状況を報じた沖縄タイムズの記事です。すでに全文が読めなくなっています。
 米軍施設内のPCB 米国・海外製を米本国で処理へ 日本製は協議 ここ20年間は日本が約4億5000万円負担

 下記は、北海道新聞が今年2月に報じた記事で、結局日本側がなんとかする予定との記事です。これもまた、全文が読めなくなっています。
 在日米軍の高濃度PCB廃棄物、室蘭への搬入検討 防衛省

 下記は、環境大臣の記者会見要旨です。
 伊藤大臣閣議後記者会見録 (令和6年2月20日(火)09:15〜09:27 於:環境省第一会議室)

 上の大臣記者会見を読むと、答弁に困っているのが明白です。初期の日米間協議で、米軍基地内の高濃度PCB処理をアメリカ側が引き取って処分する手筈が、実は手つかずで放置されているのが窺われます。
 今までの実態からすると、米軍は基地内に埋めて放置するのが見えています。将来において返還されたとき、日本側がそれを発見して黙って大金をかけて処理するのが通例ですから。

 私も仕事でPCB処分に係っていました。コンデンサやトランスなどPCBを使用している機器を抽出し、メーカーの製品情報と照らし合わせて内蔵量を調べます。次いで、リストアップされた機器に対し、成分を分析できる研究所などに検査依頼します。メーカー情報がなければ、すべて検査対象となります。
 検査結果を合わせ、PCB濃度ごと仕分けて専門業者に処理を依頼します。その際に大変なのは高濃度PCB対象機器です。当地であれば、北九州市にある処理施設に依頼することとなります。日程調整の上、輸送にも専門業者を要し、手間と金のかかるややこしい仕事でした。
 それも今年2月で操業を終えていますから、将来において米軍基地内から高濃度PCB機器が発見されると、その処理が難しい事態となります。


 高濃度PCBだけでなく、いずれ有機フッ素化合物もまた議題に上るでしょう。下記は、まぐまぐMONEY VOICEの記事です。
 日本の水道水が飲めなくなる?米軍基地による環境破壊が問題化も、調査すらできない隷属国家ニッポン=神樹兵輔

 汚染が米軍基地由来かは、調査に拠らなければ分かりません。しかし、その調査そのものが不可能という現実があります。
 日米地位協定を見直すことさえ、今の日本は自らタブー視して蓋をしています。元防衛大臣の森本敏氏からして、見直し論議を不可能と切り捨て、意見を述べる方に対してシニカルな否定しかしません。有力政治家はダンマリだしで、日本国民は救われません。
目次




百五拾六   傑作『ミレニアム』シリーズ(2024/5/8)
 私は読んでいませんが、2005年に刊行された『ミレニアム』三部作はスウェーデンのスティーグ・ラーソンの作品で、世界的なベストセラーとなりました。ご本人は上梓した後、2004年に亡くなったそうです。

 北欧ミステリの最高傑作とか言われているそうで、今や北欧ミステリのスタンダードに位置づけられています。そんな作品ですから、当然の如く映像化されています。私が最初に観たのはハリウッド版です。デビッド・フィンチャー監督、主演はダニエル・クレイグで、2011年の作品です。主人公の一人であるリスベットは、痩せて顔色の悪い風貌に擬せられていました。ハリウッド映画らしくテンポのよい、スタイリッシュな展開でした。

 これはこれで文句なしに面白かったのですが、WOWOWがオリジナルともいうべきスウェーデン版を放映してくれたので、この連休にじっくりWeb(オンデマンド)鑑賞しました。なお、映像化はハリウッド版より2年早い2009年です。
 第一作『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
 第二作『ミレニアム2 火と戯れる女』
 第三作『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』

 すべて180分ほどの大作とあって見応え十分、満足度100%です。劇場公開作品ではありますが、まるでTV向けに製作されたかのような趣です。3作すべてが2パート構成で、パートごと90分の180分となっています。また、パートごと冒頭において前回までのあらすじが簡単に提示されるし、オープニングが全パート共通のビジュアルと音楽です。知らない人が観たら、連続TVドラマと勘違いするでしょう。まるでTV映画スタイルです。TVの2時間ドラマは本編90分くらいの長さですから。

 ハリウッド版と違って、こちらは原作に忠実なのでしょう。いえ、原作は読んだことありませんけど。丁寧な展開なので、スウェーデンの社会や生活が活写されています。おかげで物語に深みが付加され、リアルさが生まれています。
 元々ひと繋がりの3部作なので、一息に観るのが正解です。ハリウッド版は、物語の一断面だけ切り出しているので、内容を知ってしまうともの足りません。

 女主人公のリズペットが醸し出す傷跡こそが、物語の核心なんですね。ハリウッド版はそこを切り捨てていますから、隔靴掻痒の感があります。物語の最初部から感じられるリズペットにまつわる違和感が、3部作を通じて徐々に明らかにされます。本作に興味がある方は、ハリウッド版でなく、オリジナルに忠実なスウェーデン版をこそ鑑賞していただきたいです。

 ところでリズペットが凄腕ハッカーの設定で、そのスキルで以って敵を打ち破っていく展開です。しかしながら、そのハッキングは疑問符だらけです。そんなのあり得んだろうなんです。いくら、凄腕ハッカーでも、自在に他人のPCに侵入できる筈もありません。まるで、スウェーデンの方々がセキュリティ放置でコンピュータを利用しているかのようです。

 昨年だったか、大物ハッカーでFBIと熾烈な闘いを繰り広げたケビン・ミトニック氏が亡くなりました。ミトニック氏はとんでもないハッキングをやってます。例えば、ある陸軍基地を盗聴した際、CIAが基地を盗聴していて、その盗聴活動をFBIが監視盗聴し、その状況をミトニック氏が盗聴するというマンガみたいな話もありました。
 ミトニック氏のハッキングは、実は電話盗聴であり、決して映画で見かけるようなコンピュータハッキングではありません。対象者の電話線に細工して盗聴するというものです。そのために電話局が使用している制御盤を盗んでさえいます。基本的にソーシャルエンジニアリングなんですね。

 などとケチをつけるのでなく、現実を忘れて物語に没入しましょう。冒頭から暗示されているリズペットの不穏な過去が徐々に明らかになり、最後にどんでん返しで解決します。そこまで辿り着いたら、きっと深い満足感に浸れること請け合いです。ただし、全編通して9時間ですから、お暇なときにね。
目次




百五拾五   『サル学の現在』の凄味(2024/4/30)
 若い頃から買い溜めていた積読本の処理もあと僅かです。大物が数冊あり、中々手出しし辛くて、ついつい敬遠気味でここまで来ました。
 その一つに呉茂一氏の『ギリシャ神話』があります。読書途中で躓いてから放置したままです。多分、本書については読破することないでしょう。ギリシャ神話って、あまりに複雑膨大で、これを読みこなすのは不可能です。これで飯を食うのでもなければ、まず内容を把握するのは無理です。中国の歴史総覧である『資治通鑑』を読みこなすのに匹敵すると言って過言ではありません。『ギリシャ神話』は積読から読了に進むことはないでしょう。

 最近片づけたのが、立花隆氏による『サル学の現在』です。1991年初版発行で、翌年の9刷分を買ったものです。二段組みの大判(四六版)700頁という大冊です。その分量に圧倒され、なかなか手をつけることができませんでした。今月、一週間強もかけて読み終えました。あまりな大冊ゆえ、取っつきにくかったのが、いざ読み始めるとエキサイティングな内容に一気呵成に読み進めました。

 サルの生態が実に多彩なのです。多様な種、生息地域などによって、“サル”のひとことで済まない多様性なのです。西洋の生物地誌学というのは、単眼的な観察で結論づけるものでした。ここに一石を投じたのが京大の今西錦司氏、伊谷純一郎氏、川村俊蔵氏らによるニホンザル研究でした。一石を投ずるなんて軽い話でなく、1956年に学会で発表した「サルのカルチャー」と「サルのコミュニケーション」は世界を驚かせました。
 今西氏らは、最初から「群れ社会」前提に研究を始めています。このあたり、西欧の学者たちにはない発想でした。欧米の学問は、人間を動物一般から切り離していて、人間の意識に相当するものが動物にはない―人間は神の恩寵を受けているという固定観念に邪魔されていました。

 日本人にそんな固定観念はありませんから、当然のように動物の意識を研究対象にできました。そこで、今西氏らは「個体識別」と「長期観察」を肝として、サル社会を解き明かそうとしました。今では、このアプローチ手法は世界中の研究者にとってスタンダードなものとなっています。

 先ずは餌付け群である高崎山のニホンザルから始め、後年には日本中の野生ニホンザルを調査対象としました。餌付け群と野生群とで、群れの行動がまったく違っているのも新鮮でした。

 次いで、類人猿の研究へと進み、アフリカにフィールドを広げてゴリラやチンパンジーの研究を深化させます。欧米の研究者から出遅れたものの、欧米の研究者が気づかなかった群れの社会性を発見してステージを上げました。
 その他、ヒヒ、オランウータン、ハヌマンラングール、新世界(南アメリカ)ザルとフィールドを広げても行きます。同じサル科であっても、それぞれの種には大きな違いがあり、進化系統の研究も世界規模で進められています。

 本書に登場する研究者たちが最終的に目指すのは、ヒトとサルの連関性です。この研究には、現生ザルの観察だけでは及ばず、化石調査、生化学分野からのアプローチが必須で、分子レベルの進化、DNAによる進化なども重要な研究対象です。

 各分野の研究者に対するインタビュー形式で構成されていて、立花氏がそれぞれの研究成果を読者に解りやすく解説しながら展開されます。ここで、立花氏のジャーナリストとして優れた資質が十全に発揮されます。ヒトとサルを繋ぐミッシングリンク探究でもあるだけに、そこには社会学や文明論など広汎な前提知識が求められます。立花氏は研究者それぞれの分野ごと、適切な予備知識を提示して研究者の成果を解き明かしてくれます。

 本書の内容は、サル学黎明期からほぼ40年間の成果を総覧しています。すると、今の我々からすると、本書以後ほぼ30年間の学問的進歩が気になります。是非にも知りたいところですが、本書の後を継ぐ「令和版:サル学の現在」が上梓されることはなさそうです。今の日本のジャーナリストで、これが務まる方は存在しないでしょう。立花氏みたく広汎な社会学や文明論まで網羅して把握している方は、ちょっといないかと思います。
 もし、誰かが取り組んでも、単なるインタビューと学説紹介記事にしかならないものと想像します。惜しい方を失くしたものです。それと、京大の霊長類研究所はすでに無くなっているはずです。もしかして、今やサル研究は廃れているのかしら。
目次




百五拾四   再度、イスラエルは中東の癌(2024/4/20)
 イスラエルがいかに非道な国であるか、これまでも書いてきました。年配の人間なら、現代中東における騒乱と住民蹂躙の半分がイスラエルの所業であることを理解しています。得てして若い方は、その辺りの事情に疎いものです。しかしながら、昨今の騒擾を受けて若い方々にもイスラエルのトンデモさが知れ渡ったことでしょう。
 これまでも、中東問題にイスラエルがいかに影を落としてきたかを書きました。
 六拾六  スペース・シャトルとイラク空爆(2003/2/9)
 百六拾  夜郎自大(2004/11/14)
 四百九拾七  アメリカと独裁政権の蜜月(2011/2/12)
 百参拾弐   イスラエルは中東の癌(2023/10/29)

 現在、イランとイスラエルの間に戦闘が生起しています。
 BBCニュースによると
 イランの革命防衛隊は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部がイスラエルによって攻撃され、将官7人が死亡したと発表した。
 シリア国防省によると、イスラエルの航空機が1日午後5時ごろ、同国が占領するゴラン高原方面からイラン領事部の建物を攻撃した。領事部は大使館の隣で、ダマスカス西部メゼ地区の高速道路沿いにある。


 他国内の領事館を空爆するという信じ難い暴挙です。普通だったら、これは宣戦布告と同等の行為でしょう。ここまでやるのがイスラエルの常道で、相手次第では民族殲滅を隠しもしません。

 軍事的に劣るイランは係りたくもないでしょうが、知らん顔もできません。国内のナショナリズムに応える必要があり、13日に報復に及びました。

 NHKニュースによると
 イスラエル軍のハガリ報道官は14日、声明を発表しイスラエルに向けて300以上の無人機やミサイルが発射されたとしたうえで「99%を迎撃した」として、攻撃への対処の成果を強調しました。声明では、イランが発射した無人機およそ170機と巡航ミサイル30発以上はいずれもイスラエル領内には到達しなかったとしています。また、弾道ミサイル120発以上のうち、一部がイスラエル南部のネバティム空軍基地に着弾したものの、基地は引き続き機能しているということです。

 これに対して、14日早朝にイスラエルがイランを攻撃したと報じられました。ロイターによると次のとおりです。

 イスラエルのミサイルがイランの拠点を直撃したと、米ABCニュースが18日遅く、米政府当局者の話として伝えた。
イランのファルス通信は、中部イスファハンの空港で爆発音が聞かれたと報道。現時点で理由は不明としている。イスファハン州にはナタンツのウラン濃縮施設など、イランの核施設が複数ある。


 未だ詳細は判りません。アメリカ当局のコメントといい、イランの各界関係者のコメントといい、現時点では判然としません。
 イラン国営TVの報道では、イスファハン上空でドローン迎撃戦が行われたそうですが、現地は平静だそうです。イスファハン州には、大規模な空軍基地、主要なミサイル製造施設、いくつかの核施設があるとかで、きな臭さが感じられるものの、特段の被害とかもなさそうです。イスラエルの反撃が限定的だったのでしょうか。

 今回の関連報道の中で、アメリカの対イスラエル支援が年間6,000億円とか紹介されていました。支援額が長く3,000億円とかいわれていたのが、倍増していたんですね。私が何度も書いているように、アメリカが諸悪の根源ともいえます。
 アメリカのメディアはすでにユダヤに牛耳られているのでしょう。数年前までは、政府のブリーフィングの場にアラブ系の年配婦人が最前列に陣取って報道官に遠慮のない質問をぶつけていました。すると、報道官なりがその正論に応えられず、返答に窮して立ち往生する場面がありました。数年前にその婦人が排除され、以後はアメリカの手前味噌な説明を質す者もいなくなりました。

 パレスチナの民が救われることは、最早ないのでしょう。アメリカに限らず、西欧諸国も明らかに捨て置いています。日本もまた歩調を合わせていて、アメリカの陰に隠れるばかりです。
目次




百五拾参   大谷騒動(2024/4/13)
 大谷選手の口座から送金された違法賭博騒動も決着がつきました。FBIの捜査報告ですから文句なしの一件落着です。
 水原氏の借金返済に充てられた、その手法が争点になっていたのが氷解しました。なるほどです。

 アメリカの銀行振り込みの手続き慣行を知らないし、まして庶民にとって、高額預金者の取り扱いがどんなものか見当もつきません。大谷選手の場合、球団からの報酬も超高額で、CM契約料なども天文学的です。ならば、大谷選手の金銭管理は、企業契約と併せ事業家としてのそれです。

 普通に考えると、球団紹介の会計士が係っているものと考えられえます。そのような中で、水谷氏が勝手に口座を運用できるか疑問でした。

 司法当局からの説明で、その辺りの手口が解ったわけですが、完全なる詐欺師のやり口でした。大金の送金指示が続くと、日本だったら銀行担当者が確認するところです。今回の説明で、アメリカでも同じでした。ところが、本人確認先を水谷氏が自身に変更して成りすましていたんですね。

 大谷選手担当の会計事務所に対しても、嘘の対応を返して騙したという悪質さでした。それもこれも大谷選手が英会話に通じていれば避けられたものでしょう。なので、大谷選手にも反省すべき点がありますね。今後は奥さんのサポートもあるでしょうから、このような不祥事も避けられることでしょう。
 とはいえ、金銭に無頓着な大谷選手なればこそ、野球で大成できたものでしょう。大谷選手の思考と生活習慣は、ほぼ野球のみに占められ、野球がすべてだからこそ、ここまでの成功が成し遂げられているのでしょう。

 こういう話を聞くと、ボクシングのリカルド・ロペス選手を想起します。アマチュア40戦全勝でプロ入りし、WBA/WBC/WBOミニマム級王者、IBFライトフライ級王座を獲得しました。52戦51勝(37KO)1分けで無敗のまま引退しました。防御が完璧で、攻防一体のボクシングは理想形とまで称えられました。
 その完成度の高いボクシングを保証していたのが、たゆまぬトレーニングです。試合後ホテルに帰って一服すると、いつもどおりのレーニングを課していたそうです。その辺り、大谷選手に通じるものがあります。

 怪我次第といえ、今の姿勢を完遂できるなら、メジャー史上最高のプレーヤーとなるのも可能性大です。未だ29歳で、今後数年間は最盛期を迎えるでしょうから。
目次




百五拾弐   永代経法座初体験(2024/4/3)
 先週のこと、AQUEの大島さんから待ちわびた返信がありました。不具合症状のやり取りの後、全体に明らかな劣化があるとのことで、要修理が伝えられました。ただ、立て込んでいるので、連休明け以降とのことでした。そこで、連休明け辺りで、受入れ都合を確認するということで話がつきました。
 なので、あと一か月余り、修理期間も入れると二か月近くもステレオが聴けない状態となります。その間は、PCのしょぼい音声で我慢です。

 旦那寺の上の寺院とは、長い付き合いがあります。本堂の耐震化工事の修繕費として十数年前に30万円ほどの寄進もしました。毎年の永代経として、自宅で読経してもくれます。
 寺での永代経法座への案内が年に二回あり、古くは祖父母、以後は母がお座に参列していたものの、身体が不自由になってからは欠席していました。いつまでも知らん顔できないので、本日のこと今春の法座に参列してきました。お釈迦さんの誕生日(4月8日)を祝ってのものですね。

 お勤めの後、高松の正真寺住職である安本正貴氏の説教を聴いてきました。安本氏の祖父は結構有名な方で、以前勤めていた施設でも幾度か講演会を催してお招きしました。



 祖父の公演は迫力満点の喋りで、若い生徒も飽きず話に耳を傾けたものです。孫である正貴氏は31歳の若さとあって、まだまだ説教に慣れていない模様です。私自身、長年講義を飯のタネにしていたので、その辺りは一応専門家といっていいベテランです。

 四苦を端緒にして、釈迦の四門出遊を語っていました。もっと上手く話を展開できるだろうにと、やきもきしながら聴きました。30名ほど、ちょうどいい具合の列席者で、みなさん大人しく聴いていました。
 ただ、前列のおばさん3名が私語を続けるものだから煩くて、思わず「ちょっと、私語を止めなさい」と声かけしてしまいました。おばさんたち、済みませんと黙ってくれました。
 私も、口煩い爺さんになっちまいました。こういう声かけ、若い方からすれば、うざいものでしょう。反省すべきか、世のためと励むべきか悩ましいところです。

 歳を取ったといえば、うどんのお斎も頂きました。若いうちなら、面倒とばかり口にせず、さっさと退出したはずです。ついでにお替りまで頂きまして、我ながら寄る年波を実感しました。
目次




百五拾壱   アンプ二度目の故(2024/3/23)
 現行アンプは1990年に購入したものです。2004年に故障して修理しました。その経緯は、百四拾九   アンプ故障(2004/9/4)と百五拾四   アンプ帰着(2004/10/10)に書いています。4ケ使われているダイオードのうち2ケが破損してヒューズが切れたものでした。これが購入後14年経った2004年のことでした。

 修理はサンスイのOBが経営するAQUEに依頼しました。AU-X1111MOS VINTAGEとほぼ同内容である前モデル開発設計にも係った方ですから安心でした。

 先週のこと、例のごとくテープを再生していると、ふいに音が出なくなりました。続いてハム音が出たので慌てて電源を落としました。翌日、あらためてテープ再生すると、最初は普通に再生されたものの、5分後くらいに音が出なくなり、やはりハム音が出ました。
 さらに数日後、試しにパワー部に直結しているCDを再生すると音は出るもの雑音が混じる症状でした。これはもう修理しかありませんので、AQUEに修理依頼を出しました。未だ返信はありません。以前も日を措いた返信だったので、今は待機している状態です。

 本日のことパワーダイレクトのレコードを再生すると、音が出ないんです。これは難儀な故障です。プリ部に明らかに不具合があり、パワー部にも別の不具合が存在するはずです。しかも、CD入力は一応音が出て、フォノ入力はまったく駄目という意味不明の症状なんです。

 以前はダイオード交換という簡単な話でしたが、今回は回路のあちこちをチェックする必要があるでしょう。技術料も高くつくことでしょうが、背に腹は代えられません。幸いなことにAQUEさんには、サンスイアンプに関するノウハウ蓄積がありますから安心なんです。とにかく修理受け付けの返事が待ち遠しいです。
目次




百五拾    カセットデッキ復活途遠し(2024/3/14)
 毎日飽かずカセットデッキを再生しながら復活に取り組んでいます。
 その中でモーター回転が正常に至るには、ほぼ4時間を要することが判明しました。2時間で正常かとも思っていましたが、僅かに速く、そこから時間をかけて少しずつ正常に近づく案配です。音楽を流しっぱなしにしていると、回転の僅かな変化に都度気づかされます。
 再生開始時には、LPレコードを45回転で再生したくらい高速です。それが2時間ほどで34回転くらいに落ちます。聞き慣れた音楽だと、そこからの僅かな変化を聴き取ることができます。昔の安物のポータブルプレーヤーみたいなものです。あれは34〜35回転のモノが多かったものです。ダイレクトドライブなら安物であっても回転は精確でしたが、得てして安物はベルトドライブかアイドラードライブが多く過回転でした。
 高校時代に貰い物を使っていたとき、回転の速さが我慢できなくなり、モーターシャフトをラジオペンチで挟んで回転させ、時間をかけて研磨して33回転に落としたのも良い思い出です。

 正常回転になっても、停止して間を置くと再び回転が速くなります。ただ、一旦定速に落ち着いた後であれば、これまた短時間で正常回転に落ち着いてくれます。

 しかし、モーター正常化に向けての取り組みが3か月を超えても、未だ症状が好転せず変わらぬままなんです。夏場の熱気がゴム性状を変化させるかと期待して継続していますが、なんか駄目な予感がひしひしとしています。

 限られた所蔵テープを次々に換えながらの聴取とあって、聞き飽きたりもします。そこで、興味の薄いテープについては、聴きたいレコードで再録音して気を紛らわせています。
 マニアとしては完璧を期すべく、ヘッドをクリーニングし、さらに事前にテープを無信号で録音し、いわば初期化した状態で録音しています。バイアス調整も念を入れ、録音レベルも有効レンジを最大限活用しています。その際に3ヘッドの威力に助けられています。3ヘッドなので、ソース音源と再生音を瞬時に切り替え、音質を揃えることができます。
 おかげでカセットテープとは思えない高音質を堪能できています。なお、消去ヘッドはセンダスト、録音・再生ヘッドはともにアモルファスという究極の逸品です。まさに最強のカセットデッキで、長岡鉄夫氏の評を引用します。

 鮮度の高い、力強いサウンド、音場感もよく、CDのダビングでもへたなDATに負けない。ハイCP機だ。

 当時の詳しいレポートが手元にないのが残念です。たしか、あらゆる点で絶賛していたはずです。高音質への拘りが隅々にまで行き渡った、ビクターが持てる技術すべてを投入したものでしょう。
 捨てるには惜しい機器だけに、なんとか復活させたいものです。
目次




百四拾九   「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」(2024/3/5)
 先週のこと、先々月から地元美術館で開催されている川瀬巴水展を終了間際に観覧しました。川瀬巴水は好きでも嫌いでもなく、きれいな版画だなあの感興でした。なので、あえて足を運ぶ気にもならなかったものの、せっかくだからと訪ねました。

 本展覧会においては、約180点と画業のほぼすべてが網羅されていました。巴水は日本全国を旅して、その風景を描いています。その際のスケッチも並置していて興味深かったです。残念なのは、関東大震災で自宅や工房が焼けたため、ほとんど焼失したそうです。なので、以後のスケッチなのでしょう。

 北海道、東北、北陸、京阪神、東海道、中山道、九州、中四国、沖縄ときて、当地も画題にしていました。加えて朝鮮も描いています。人気なのは、「東京二十景」ですね。例の「芝増上寺」は、色も鮮やかな作品を展示してくれていました。
 残念というか仕方ないのですが、褪色を抑えるために照明が暗いんですね。夜景や暮色濃い風景、雨模様などと色調そのものが暗いものが多く、暗い照明では分明し難く残念でした。

 近代以後における風景版画の第一人者であるのは間違いないのでしょう。当時から海外人気が高く、好事家であるスティーブ・ジョブズも大ファンだったそうですね。

 私はというと、あまりに綺麗すぎる絵とあって、感動とまではいかないんです。とはいえ、今回足を運んだのは無駄ではありません。川瀬巴水の人気と評価の理由を知ることができました。巴水は、広重や北斎がつくり上げた従来の構図から離れ、独自の構図を創るべく苦悩もしているのが解りました。
目次




百四拾八   興梠一郎講演会に行きました(2024/3/5)
 先週のこと地元法人会が、興梠一郎氏を招いて講演を行いました。テーマは「いま中国で何が起きているのか?〜習近平体制の現状と課題〜」でした。なにかで講演会のこと知り、すかさず申し込みました。さすがの人気で、ホールはほぼ満員でした。

 自己紹介の中で、学生の頃から少林寺拳法をやっていた関係で多度津には縁があると語っていました。総本山を何度か訪ねたそうです。

 興梠一郎氏はBS報道番組で引っ張りだこです。国際ネタ、特に中国関連だと第一人者の扱いですね。ただ、そのあたりの現況について講演会でも語っていましたが、自分の扱いは二番手、三番手だと。メインゲストは内側に座り、自分は外側だと。確かにそうですね。座席指定を見ると、ああ今日の扱いはこうなんだと自虐していました。なお、全人代を控えているだけに、最近は取材や出演依頼が目白押しとか話していました。

 講演内容はというと、まずは近著『毛沢東 革命と独裁の原点』の紹介を兼ねた独裁のあり方についてです。ついで、経済問題、最後に台湾問題でした。いずれも見聞きしている内容ばかりではありましたが、ご本人生身が目の前で語ってくれるとあって説得力がありました。前から2列目に座りましたから、表情もよく見えて楽しかったです。印象として、飄々とした人物との観です。

 願わくば、TVでは公開できない講演会用スペシャルネタを期待しましたが、それはありませんでした。とはいえ、十分に楽しませていただきました。
目次




百四拾七   『カムイ伝第二部』って完結してたんですね(2024/2/29)
 『カムイ伝』は、私にとって極上の漫画です。第一部を読んだのは大学時代で、コミック版を一気読みしました。多感な時期だったので、感動ひとしおでした。第一部完結後、十数年経ってビッグコミック誌で第二部が開始されました。
 この連載は掲載時にしっかり読みました。しかし、話が途中のまま、連載が途絶しました。コミックも中途のまま出版され、作者も放置したやに思えました。これが1999年のことでした。

 それから二十数年が経ち、もはや忘れていた頃、ネットで驚きの情報に接しました。『決定版 カムイ伝全集』という、やや大き目の四六版が出ていて、この最終巻に頁が描き足されて話が完結しているとのことでした。ただ、紙本はすでに絶版で電子版のみ販売だそうです。仕方なく、楽天で中古本を注文しました。

 それが一昨日に届きまして、二十数年ぶりに途絶していた話の続きを読むことができました。同時に第二部の完結を見ることができ、喉に刺さった棘がやっと取れました。

 第一部に比べ第二部の構成は、必ずしも巧みではありません。白土氏の表現したい世界はあったのでしょうが、加齢もあってか投げ出した印象です。絵も完全に弟の岡本鉄二氏によるものです。
 結局、望月佐渡の守のあくどい政治的野望が達成され、竜之進たちは敗北したんですね。
 音弥のライバルになる筈だった源(錦丹波の息子)は、針ヶ谷夕雲(無住心剣術開祖)の弟子となり、柳生流の音弥との闘争が予感されました。しかしながら、源のその後は音沙汰なしで、フェードアウトしちゃいました。

 一方で野生動物の世界を丹念に描いていて、むしろ第二部の完結を野獣の闘争に託した印象です。なにせ、第二部巻頭において、サルの群れの生態と闘争を描き、これがほぼ二巻にも及んでいます。そして、第二部終結へと向かうに、猿群と野犬群が互いの存在を許さぬ決戦へとなだれ込み、猿群は壊滅します。
 勝ち残った野犬群に狂犬病が蔓延し、これを滅すべく狼の群れが生死をかけた決戦を挑みます。カムイもまた狼と共闘して狂犬病を絶滅させようとします。そして、勝った狼たちも狂犬病に侵され、すべてが死に絶えます。狼の群れを率いていたのは、第一部冒頭から登場していた白い狼です。それが子を生していて、血を受け継ぐ白狼のみが生き残るというラストです。

 隔靴掻痒ともの足りなさが残るものの、白土氏もこの時点で70代半ばだったのでしょう。健康面がどんな具合であったかは知りませんが、創作を続けるには無理があったものと邪推しています。いずれにしても、構想していたであろう第三部が読めないのは残念だし、仕方ないとの諦念もあります。
目次




百四拾六   島成園讃歌(2024/2/22)
 昨日、地元旅行代理店主催の日帰り旅行に参加しました。中之島美術館で開催中の「モネ 連作の情景」観覧のためです。
 現地を訪ねて驚きました。下図のとおり、モネ展だけでなく、「女性画家たちの大阪」も同時開催されていたのです。



 もうね、モネの方は足早に観覧しました。混雑して観辛かったし、モネ好きとあって散々鑑賞していますから、早目に切り上げました。数少ない撮影可のうち、下図だけ紹介します。これは「藤の習作」で、描き込みを途中で切り上げています。筆の早いモネの、さらに筆を重ねていない段階が見て取れます。こういう絵が手元にあれば、きっと勉強のお手本になることでしょう。もはや、私には関係のない話ですけど。



 見学に充てられていたのが2時間だったので、手早く「女性画家たちの大阪」のチケットを購入しました。双方のチケット間割引があったので、券売機前の行列に並ばずに済みました。割引者は別途窓口対応だったので、これまた時間節約ができました。

 中之島美術館は、戦前に大阪で活躍した画家たちの絵を大量に所蔵しています。彼ら、彼女らは中央画壇に距離があり、必ずしもメジャーではありませんでした。なので、美術史において適切な評価を受けているか疑問もあります。
 なかでも、島成園はもっと名が知れていい画家だと思います。いえ、成園は「三都三園(京都:上村松園、東京:池田焦園、大阪:島成園)」の一人に数えられるんだから著名だろうとの指摘もありましょう。

 しかし、彼女の意欲的な画業が当時は理解されず、むしろ男性たちから無慮の非難を浴び続けました。私は、氏のチャレンジングな画道が好きです。
 代表作のひとつである「祭りのよそおい」なんか、無比ともいうべき超高度な到達点を示しています。4人の娘が描かれ、それぞれの装いに注目してください。着物、帯、頭の装飾、履物、扇子と団扇、足袋の有無などに違いがあります。いわば、経済格差とそれを受け入れて生きる少女たちの挙措振舞いを描いているんですね。長く見たかった作品を、今回初めて実見できて感激しました。ちなみに、成園21歳の作品です。信じられません。

 作品群の大半が撮影禁止で、最終エリアのみ撮影可であったものの、それらは知らない方々の作品で撮る気も起きませんでした。が、そんな中に一作、島成園の自画像があったので、すかさず撮りました。



 いいでしょう。自画像といえば、他にも「無題」もありました。顔にないはずの痣を描き込んで、醜い痣を持った女性の心情を表現しようとしたものでしょうか。
 中之島美術館には島成園ら大阪で活躍した画家たちの作品が多数所蔵されていて、今回そのうちの代表作多数が展示されていました。こういうとき、田舎住みが恨めしくなります。大阪に住んでいれば、何度も足を運んでじっくり鑑賞できるのにと残念です。

 JR大阪駅の関連ビルに「くるぞ、万博」の巨大なデモが掲示されていました。しかし、準備遅れの怪しい現実を前に空しさが漂っていました。

目次




百四拾五   カセットデッキもう駄目そう(2024/2/10)
 昨年11下旬から百参拾六   カセットデッキ蘇生中(2023/11/30)のとおり、カセットデッキの再生に取り組んでいます。経過は不調で、好転の兆しもなく不具合が直りそうもありません。テープ再生を1.5か月間ほど試みたものの、症状はまったく変わりません。2時間ほど再生を続けてやっと正常回転に至ります。もう諦めます。ひょとして夏場ならゴム性状に変化が表れるかもしれませんが、あんまし期待しちゃ駄目ですね。

 加えて拙い失敗をしでかし、一部破損させてしまいました。長時間再生させたので、久々にヘッドクリーニングしようと無水アルコール(エタノール)を入手しました。



 カバーが邪魔なので取り外そうとしましたが、長年月の経過で固着してビクともしません。やや力を込めたところ、外れたもののピンが一箇所折れたうえ、留め具のピンも外れてしまいました。幸い、元に戻せてピンなしでも動作するので一応助かってはいます。外れたピンは、配置が見当もつかないので横に取り置いています。

 折れて外れたときは絶望的な心持ちになり、いらんことしなきゃよかったと後悔しきりです。以後は、カバーを着けたままヘッドクリーニングしています。

 クリーニングの効果はありますね。音にすっきり雑味がなくなりました。それはいいのですが、破損が悔やまれます。できれば時間を巻き戻したいです。

 回転正常化に向けての試行には、手持ちテープすべてを順番に充てています。中には特に聞きたくもない音楽もあり、あらためて聴きたいレコードから録音しました。録音性能も劣化していて、かつての感動的な高音質には届いていません。
 購入後30年ほども経ってるしで、劣化は仕方ありません。それでも、アナログテープの味わいは間違いなくあります。昨年末からCDを聴くことなく、飽かずカセットテープ三昧です。これを暖かくなるまで続け、さらに暑い中でゴムの変化を待ちたいと思います。実のところ、もはや期待はしていませんけど。
目次




百四拾四   今年のミス日本グランプリ(2024/2/4)
 ミス日本の公式Instagramです。ミス日本コンテストは、「日本らしい美しさで社会をより良くするコンテスト。内面と外面、そして行動をあわせた3つの美の両立を大切にしています。」だそうです。

 この件について、いろいろ議論があったそうです。私は知らない話だったのですが、BBCが「ミス日本、グランプリにウクライナ出身モデル 「日本人のアイデンティティー」めぐる議論が再燃」と記事にしていました。ことの是非は判りません。国籍要件はともかく、体形といいDNAといい日本人とかけ離れているのは事実です。その辺りの判断いかにあるべきか、難しいです。

 「内面の美」「外見の美」「行動の美」の三点を審査するとかで、和服審査もあるみたいです。そのため、外人さんに和服が似合うのかとの疑義も呈されていました。その点については、問題なしと断言できます。

 昨年12月に京都の展覧会を訪ねました。百参拾七   承天閣美術館、福田美術館訪問(2023/12/8)がそれです。秋シーズンを過ぎていたので日本人観光客は少な目でした。一方、インバウンドさまさまで、渡月橋辺りは外国人でぎっしりでした。
 で、和装オプションを選んだ方が多く、女性たちがとても似合ってました。中国、台湾、韓国などの東アジア系は、元々似たようなものですから不思議でありません。意外だったのは、インド系や中東系の女性です。あちらのメイクはくっきり際立つタイプなんですが、これが和装に合ってるんです。所謂、“小股の切れ上がったいい女”風に仕上がってました。

 岩下志麻氏を代表とした、映画『極道の妻たち』出演の女優たちが典型です。彼女たちの艶やかでシャープな立居振舞いが、まさに小股の切れ上がったいい女でしょう。海外の女性たちが和装によって、日本人女性以上に魅力を増していました。

 今回の受賞者について、ウクライナ戦争に斟酌なしとは考え難いです。もちろん、私の邪推です。仮に、ロシア発の美貌女性がエントリーしてたら面白かったろうになどと皮肉な見方をしてしまいます。とにかく、何が正しいかは判りません。
目次




百四拾参   自販機破壊の暴挙(2024/1/26)
 能登半島地震の当日夜だったかに高校内に設置された清涼飲料水自販機破壊事件が起こりました。未だその経緯について、詳細が判然としません。産經新聞の記事「「切羽詰まり」 能登地震の混乱で自販機破壊 関与の女性が謝罪 災害支援型も停電で機能せず」を引用します。

 この事件の報道は最初から曖昧で、その事実関係が確認されないまま書かれていました。破壊した人間も未だ不明だし、現地にいた人間とのやり取りも未だ確定していません。
 最初は、犯行に及んだ数人の人間が、「学校事務局の担当に許可を得た」「現金はその担当者に渡した」とされていましたが、これも嘘みたいです。現地に学校職員は存在していませんでしたから。

 器物損壊と窃盗以外の何ものでもないでしょう。緊急避難として免責されるはずもありません。地震当夜のできごとで、生命が直ちに脅かされることもありません。
 地震とかの大災害で車が走れなくなった際には、キーをつけたまま端に寄せて放置せよと周知されています。そういう緊急事態であれば、誰しもが眼の前の車を利用したいでしょう。しかし、勝手に他人の車を拝借することは許されません。あるいは、飲食物を欲したからといって、災害地の他人の家を漁っていいはずもありません。

 自販機の壊し方が、またえげつないです。中身を取り出すにしろ、ここまで破壊するかの感を持ちます。犯行を為した人間の考えの浅さと、他者の権利をなんとも思ってない夜郎自大っぷりが不愉快です。

 当初あたりの報で、犯人たちが学校事務局の人間に許可を得たとの話が嘘くさくて仕方ありませんでした。私が現役時代にも、施設内に自販機を設置していました。その経験からすると、契約飲料メーカーや契約販売店に許諾を得ない限り勝手にどうこうできません。契約書に有事の際の緊急放出が書かれているならアリでしょうけど。いえ、それなら壊さなくてよいように予備開閉キーを学校側に預けているはずです。

 当時の運用は、敷地内、施設内への設置であるため、公有財産使用許可申請だったかとともに、電気使用量を確定するためのメーター設置まで行いました。業者による定期的な飲料補充以外で、売り切れの際にはこちらから業者に連絡を入れていました。とにかく自販機が他人の財産であることが明々白々で、勝手に機器破壊を指示するなんてあり得ないんです。

 災害避難先として指定されている場合だと、食料備蓄が課されます。また、飲料水については、学校などでは貯水槽と屋上タンクが設置されていて、断水しても当面の間は困ることがありません。この高校も校舎内での配管破断がなければ上水道が使えたはずです。使えなかったのなら、破断してたのかな。ただ、報道からはそのあたりの事実提示がなく、情報が曖昧なのです。
 取材記者が劣化しているのか、あるいは大災害にあって、こんな小さな事件にかかずらっていられないのかもしれません。
目次




百四拾弐   揺るぎなき共産党(2024/1/19)
 年初党大会において、共産党委員長が23年ぶりに交代し、初の女性委員長として田村智子参院議員が就任しました。党勢低迷に加え、閉鎖性への批判に応える狙いがあったのでしょう。しかし、前委員長の志位和夫氏が議長として君臨するとあって、新執行が魅力を発揮できるか怪しいところです。

 田村氏を後任人事にと報じられたのはずいぶん前で、そのときの感想としては、志位氏が権力を握り続けるために操縦できる人間を選んだものと感じられました。

 ルーマニア大統領(それ以前の党第一書記通算)を24年間務めたチャウシエスク氏にしろ、エジプト大統領を29年余務めたムバラク氏にしろ、独裁者の権力欲は共通しています。プーチン大統領の大統領職永世継続願望もあからさまですし、習近平主席が二期を延長したのも耳に新しいですしね。

 志位氏を始めとした日本共産党最高権力者たちが、いかに権力の座に連綿としてきたかも明らかです。宮本顕治氏は委員長職を16年間ほど続け、後任の不破哲三氏が7年間ほどと短命で、次の志位和夫氏が20年間と長期政権でした。若い志位氏が就任したとき、宮本氏がコントロールしやすいように若輩者を選んだものと邪推しました。
 今回の田村氏就任にも、同様な意図を読み取ってしまいます。志位氏が自身を今後も生きながらえさせる意図でないかと邪推しています。

 昨年、「党首公選導入」を求めた職員を除名したことを受け、今大会2日目には、神奈川県議団長の大山奈々子氏が党の体質に異例の苦言を呈しました。
 田村氏は大山氏について、「姿勢に根本的な問題があることを厳しく指摘する」と糾弾し、異論を許さぬ共産党の体質を隠しもせず、指導部独裁である「民主集中制」の維持も明言しました。

 「この大会の討論の中で、元党員の除名処分について、『問題は出版したことより除名処分ではないか』、つまり、除名処分を行ったこと自体が問題だとする意見が出された」
 「この意見に対して、代議員・評議員から、処分を受けた元党員の言動は党の綱領と規約の根幹を否定し、党の変質を狙った、明らかな攻撃であったこと。メディアを利用して地方選挙の前に攻撃をしかけたのは、元党員の側であること。わが党は異論を許さない党などでは決してないことなどが、この攻撃を打ち破る論戦を懸命に展開した経験に立って発言された」
 「除名処分が規約に基づく当然の対応であったことは、すでに山下副委員長から再審査請求の審査内容として明確に報告され、再審査請求を却下することに異議を唱える者はなく、党大会で承認を得たことは、党の最高決定機関による党への妨害者・攪乱者への断固とした回答を示したものとして重要だ」
 「党大会での発言は一般的に自由であり、自由な発言を保証している。しかし、この発言者の発言内容は極めて重大だ。私は『除名処分を行ったことが問題』という発言を行った発言者について、まず、発言者の姿勢に根本的な問題があることを厳しく指摘する」


 凄いというか、今日びこんな一方的な暴言が許される公党が存在しているんですね。これが許されるということは、逆説的に日本の言論の自由が本物である証左でしょう。

 “民主集中”って、便利な言葉です。独裁をこんなに上手く言い換える知恵に感心します。あるいは、労働者を“党の前衛”とか奉っていますけど、これも本質は党の栄養分、または党の露払いほどの意です。まさに“プロレタリアート独裁”の名に恥じない振舞いです。

 60年代から70年代にかけてのリベラル言論が優勢だった時期であればともかく、言論の平準化が行き渡った現在においてさえ、なお上のような言説を堂々と述べ立てるんですね。いっそ、清々しいです。共産党はこうでなくっちゃとさえ思いますもの。
目次




百四拾壱   能登半島地震(2024/1/6)
 元日の夕刻前、僅かな振動がありました。後で調べると震度1だったので、よくある小さな揺れです。しかしながら、いつもの震度1とは揺れ具合が違っていました、小さいながら長い周期で、今まで体験したことないタイプでした。

 別に気にも留めていなかったのが、夜のTVニュースで驚きました。石川県中心の震度7とのことで、ただ事ではありません。東北大震災以来、北海道の胆振地方、熊本県と震度7の地震が多発しました。同じ震度7でも、今回はM7.6で、三陸沖のM7.9に近くて、しかも震源が陸に近いとあって大参事必至でした。

 古い家屋が震度7に耐えられるはずもありません。珠洲市や輪島市での倒壊具合は、紛れもなく巨大地震の恐ろしさを伝えるものでした。加えて火災被害も大きく、阪神淡路大震災での長田町火災を髣髴させました。
 元日夜間を通じて大津波警報が発せられ、長く注意喚起が続きました。翌朝の空撮映像で津波被害が明らかになり、これまた東北大震災を想い起させるものでした。船舶が転覆したり陸に打ち上げられたりの惨状も東北で見慣れたものです。また、家屋が根こそぎ洗われていたのも東北で散々見せつけられたものです。

 津波による人的被害がなかったのは、東北大震災の教訓が生かされたものでしょう。今の日本人にとって、津波の脅威は血肉の教えとなっています。ただ、この教訓が頭から離れないのも半世紀余ほどでしょうか。さすがに100年も経てば、生の記憶を有する人間がいなくなります。いかに教えを残し、教育し続けても、いずれ風化するのは仕方ありません。

 東南海大地震が発生したらば、我が家は倒壊必至です。震源からの距離次第ではありますが。遠ければ震度5くらいで済み、なんとか無事に収まるでしょう。危惧する点としては、断層が我が自治会の隣を走っているのです。それが予期せぬ被害を生み出しやしないかが危惧するところです。

 家を設計するとき、2階建ての柱と壁の構造に留意したものの、所詮は普通の木造家屋です。根本的な耐震構造に無縁なので、覚悟はしています。


 翌日には羽田空港で考えられないような大参事が起こり、年初からして気鬱です。多分、全国民が同じ思いでしょう。願わくば、これ以上の悲劇が起こらないことを願っています。
目次