壁 -後日談-
arc3後|2007.02.22
「腕相撲勝負はこの際忘れて、要は戦闘能力で足を引っ張らなければ良いって事ですよね」
あの後、結局お茶会にお呼ばれされたらしいアレクの一言に、一度では注ぎ切れなかった急須を卓に置いて、粗茶ですが、とお決まりの科白でポコがアレクに湯飲みを差し出した。
ありがとうございます、とお礼を述べて受け取り、ずずっと一服。飲み始めに、あちっ、と小さな声が聞こえたが、彼は決して猫舌ではない。
「そうだね。腕相撲で勝ったって、それが必ずしも戦闘能力に関わる訳ではないし」
「お前が良い例だもんな」
「うん。僕、肉弾戦には弱いしね」
「せめて体術と言ってくれないか?」
さらりと指摘するアークに、最初に突っ込みを入れたエルクが、またしても口を挟む。
「接近戦じゃ平気で対応してるくせに、矛盾してるよな。お前も」
「だから、僕は素手で戦うのが苦手だし嫌いなの。そういうエルクだって、素手で戦う事って滅多に無いじゃない」
「だって俺、格闘家じゃねえし」
「ハンターの基本は体術なんじゃなかったっけ?」
「そう来たか。アレク、パス」
「ぼ、僕ですか? そうですね…武器を扱うと言っても、既に躰の一部の延長として繋がってる感覚ですから…」
「使いこなして初めて、己が手足として扱える。それは素手でも武器を持っていても変わらないと思うよ」
こちらは既に飲み終えたのか、空の湯飲みを傾けて、その意匠を眺めながらアークが続きを引き取って言う。
「ま、体術が多少不得手でも、武器を扱う接近戦にかけて敏腕ならそれで充分なんじゃないかな?」
ここに居る全員を含めて。
アークがそう纏めると、エルクが新たな素朴な疑問符を持ち出した。
「じゃあ、魔力と言うか特殊能力と言うか、そっち方面なら誰が一番えげつないんだ?」
「え、えげつないってエルク…」
「それは勝ちに汚いと、そういう事か」
「そ、そんな風に考えた事もなかったですが…」
絶句と思案、澄ました顔で反応したそれぞれの面白い対応に、エルクが自らの力を棚に上げて口火を切った。
「アークなんか本当に狡いぜ? その気になれば、相手の全能力を一気に低下できる特殊能力があるんだからさ」
「えっ、アークさん、それは狡いですよっ」
「そういう君こそ、相手の魔力を封じたり状態異常を与える攻撃魔法、及び体力を奪う吸収魔法を持っているくせに」
「な、何で貴方がそこまで知ってるんですかっ!」
「忘れたのかい? 俺は、君の『ハンターの証』を通して色々と視てきたんだよ?」
「そっ…そういえばそうでした…」
ぐっと押し黙るアレクに、ポコが染々と神妙に頷いた。
「そうか、アレクも実直そうに見えて、実は結構手痛い能力を持ってたんだねえ」
「じ、実直と特殊能力と何の関係が…」
そんな事、貴方に言われたくありませんとポコを見据えたアレクに。ふと、エルクが助け船を出した。
「気にするな、アレク。ポコなんか相手の体力と魔力を奪っちまう、それはそれは反則な特技を持ってんだぜ?」
「えーっ、援護には丁度良いじゃんか」
「吸収して自分の力に取り込むならまだ可愛げがある。が、お前の場合、奪うだけ奪ってポイッじゃねえか」
「成程、同時とは言わなくても、相手の体力と魔力を一気に奪って、反撃する気力を削いでしまうと言う訳ですね?」
「そうそう、アレクの言う通り」
「って、お前も妙に納得してんじゃねえっ」
ちょっと待て、と手を上げるエルクの顔を、ポコがじーっと凝視する。
「エルクってさー」
「な…何?」
「覚えようと思えば吸収魔法を覚えれたのに、実際に持ってる能力って補助系が多いんだよね」
「そうだっけ?」
「自覚がないのか?」
「そう言われてもなあ…」
おや、と眼を見張らせたアークに、エルクが無意識に小首を傾げてアークを見上げる。その無自覚な上目使いをまともに見た三人が、途端にそれぞれに違う反応を示した。
「エルク…」
「ん? ポコ、どうした?」
ふと漏れたポコの呟きに顔を向けたエルクは、きょとんと瞳を丸くさせて。
「うん…君の場合、強い攻撃魔法を持ってなくても、色々な意味で最強の特技を持ってるよねって納得した所」
「と、特技?」
「そう、それも無自覚天然の」
「?」
ますます困惑するエルクを前に、ポコはそっと溜息をついて目線を泳がした。
あの後、結局お茶会にお呼ばれされたらしいアレクの一言に、一度では注ぎ切れなかった急須を卓に置いて、粗茶ですが、とお決まりの科白でポコがアレクに湯飲みを差し出した。
ありがとうございます、とお礼を述べて受け取り、ずずっと一服。飲み始めに、あちっ、と小さな声が聞こえたが、彼は決して猫舌ではない。
「そうだね。腕相撲で勝ったって、それが必ずしも戦闘能力に関わる訳ではないし」
「お前が良い例だもんな」
「うん。僕、肉弾戦には弱いしね」
「せめて体術と言ってくれないか?」
さらりと指摘するアークに、最初に突っ込みを入れたエルクが、またしても口を挟む。
「接近戦じゃ平気で対応してるくせに、矛盾してるよな。お前も」
「だから、僕は素手で戦うのが苦手だし嫌いなの。そういうエルクだって、素手で戦う事って滅多に無いじゃない」
「だって俺、格闘家じゃねえし」
「ハンターの基本は体術なんじゃなかったっけ?」
「そう来たか。アレク、パス」
「ぼ、僕ですか? そうですね…武器を扱うと言っても、既に躰の一部の延長として繋がってる感覚ですから…」
「使いこなして初めて、己が手足として扱える。それは素手でも武器を持っていても変わらないと思うよ」
こちらは既に飲み終えたのか、空の湯飲みを傾けて、その意匠を眺めながらアークが続きを引き取って言う。
「ま、体術が多少不得手でも、武器を扱う接近戦にかけて敏腕ならそれで充分なんじゃないかな?」
ここに居る全員を含めて。
アークがそう纏めると、エルクが新たな素朴な疑問符を持ち出した。
「じゃあ、魔力と言うか特殊能力と言うか、そっち方面なら誰が一番えげつないんだ?」
「え、えげつないってエルク…」
「それは勝ちに汚いと、そういう事か」
「そ、そんな風に考えた事もなかったですが…」
絶句と思案、澄ました顔で反応したそれぞれの面白い対応に、エルクが自らの力を棚に上げて口火を切った。
「アークなんか本当に狡いぜ? その気になれば、相手の全能力を一気に低下できる特殊能力があるんだからさ」
「えっ、アークさん、それは狡いですよっ」
「そういう君こそ、相手の魔力を封じたり状態異常を与える攻撃魔法、及び体力を奪う吸収魔法を持っているくせに」
「な、何で貴方がそこまで知ってるんですかっ!」
「忘れたのかい? 俺は、君の『ハンターの証』を通して色々と視てきたんだよ?」
「そっ…そういえばそうでした…」
ぐっと押し黙るアレクに、ポコが染々と神妙に頷いた。
「そうか、アレクも実直そうに見えて、実は結構手痛い能力を持ってたんだねえ」
「じ、実直と特殊能力と何の関係が…」
そんな事、貴方に言われたくありませんとポコを見据えたアレクに。ふと、エルクが助け船を出した。
「気にするな、アレク。ポコなんか相手の体力と魔力を奪っちまう、それはそれは反則な特技を持ってんだぜ?」
「えーっ、援護には丁度良いじゃんか」
「吸収して自分の力に取り込むならまだ可愛げがある。が、お前の場合、奪うだけ奪ってポイッじゃねえか」
「成程、同時とは言わなくても、相手の体力と魔力を一気に奪って、反撃する気力を削いでしまうと言う訳ですね?」
「そうそう、アレクの言う通り」
「って、お前も妙に納得してんじゃねえっ」
ちょっと待て、と手を上げるエルクの顔を、ポコがじーっと凝視する。
「エルクってさー」
「な…何?」
「覚えようと思えば吸収魔法を覚えれたのに、実際に持ってる能力って補助系が多いんだよね」
「そうだっけ?」
「自覚がないのか?」
「そう言われてもなあ…」
おや、と眼を見張らせたアークに、エルクが無意識に小首を傾げてアークを見上げる。その無自覚な上目使いをまともに見た三人が、途端にそれぞれに違う反応を示した。
「エルク…」
「ん? ポコ、どうした?」
ふと漏れたポコの呟きに顔を向けたエルクは、きょとんと瞳を丸くさせて。
「うん…君の場合、強い攻撃魔法を持ってなくても、色々な意味で最強の特技を持ってるよねって納得した所」
「と、特技?」
「そう、それも無自覚天然の」
「?」
ますます困惑するエルクを前に、ポコはそっと溜息をついて目線を泳がした。