お酒は二十歳を過ぎてから
arc3後
ぼっと火が出たエルクの反応を面白そうに眺めていたトッシュが、ふときょろきょろと周囲に視線を向けて、ぐいっとエルクの腕を引き寄せる。
「んー? 熱烈な歓迎を受けたんじゃねえのか? こういう風によ」
「うわっ! ちょっ…ト、トッシュっ」
強引にトッシュに腕を取られたかと思うと、エルクの躰はひょいっとトッシュに抱き上げられていた。
「ば、馬鹿っ、下ろしやがれっ」
「おう、冷たい言い草だねぇ。やっぱアークじゃないと嫌ってか」
「だ…誰もそんな事言ってねえだろ…」
「ふーん? んじゃ、このままでも良いって事だな」
「そっ、それも困るっ」
トッシュに横抱きにされたエルクが慌てて逃亡を計るが、逞しい腕の力がそれで緩む筈もなく。
にやにやと面白そうに笑っているトッシュを前にして、その体格さ故に縮まる事のない力の差を噛み締める事しかできない自分を腹立たしく思うと同時に感じる、その恥ずかしさ。
訳ありで免疫が薄れている為とはいえ、エルクにとって男の自尊心(プライド)に関わるこの態勢と言うのは物凄く照れるのである。
意識した途端、エルクの顔が湯気が出そうなくらいに真っ赤になった。
「お前……その反応全然変わってねえな。と言うか昔と全く変わってねえとしたら…」
「な、何だよ?」
ふーん、と漏れたトッシュの声に、エルクがぎくりと躰を固まらせた瞬間、トッシュが何かを含んだ光を瞳に湛えてエルクの顔を覗き込んだ。
「そういえば覚えてるか、エルク?」
「な、何を」
「むかーしよ、アークがいない時に続きをやろうって約束したのを覚えてるよな? エルク」
「約束?」
何か約束したっけ? とエルクが小首を傾げる。
この戦いが終わったら一緒に酒を飲もうぜ、と言う約束をトッシュに無理やりさせられた記憶なら覚えているが、その約束は三年の月日を経て、漸く果たされたばかりである。
が、記憶を遡っていたエルクが、はっと何かを思い出したように慌ててトッシュを振り仰ぐと、その様子を見たトッシュが故意に唇の端を上げて言った。
「その様子だと思い出したようだな。全く、忘れられてたらどうしようかと思ったぜ」
「ば、馬鹿野郎っ! あれは約束したんじゃなくて、お前が勝手に言ってただけじゃねえかっ!」
「言ったんだから約束したも同然だろーが」(※『紅蓮の貴石』参照)
「何でそうなる!? って、うわっ、馬鹿っ! 顔を近付けるなぁっ!!」
「照れるな照れるな。やっぱり据え膳は食わねえと男が廃るからなぁ」
「だーっ!! 据え膳って何を勘違いしてんだよーっ! その前に俺は約束なんかしてねえーっ!!」
やっぱりと言うか、エルクの抵抗などお構いなしにトッシュがエルクの顔に自身の顔を近付けてくる。
――が。
何故か唇が触れる寸前で、トッシュが不意にぴたりと動きを止めて顔を離したのだ。
片方の眉をひそめているトッシュの顔を、エルクが驚いて見る。
「トッシュ?」
「…妙だな」
「え?」
「いつものパターンなら、そろそろ現れてもおかしくねえんだが…。流石に今夜ばかりはお休みかい」
「なっ…」
当てが外れたような、肩透かしを食らったようなトッシュの表情に、エルクの感情が怒りと羞恥で一気に爆発した。
「あ、あんたなぁ、俺で遊ぶのも大概にしろっ! じゃなくて、良いからとっとと下ろせ、馬鹿野郎っ!」
「じゃあ、遊びでなければ良いのか?」
「当たり前だ! 遊ばれる身にもなって――えっ!?」
再び暴れ出すエルクの耳元に紡がれた、トッシュの低い声。
さらりと、聞き捨てならない文句を噛ました当人の口調は普段と変わらない。けれども、楽しげに輝かせたその眼差しを見て取って、暴れていたエルクの顔が途端に引き攣った。
「よし、分かった。本気でチュウしてやるから、大人しく受け入れろ」
「いーやーだーっ!! 思いっ切り遊んでるじゃねえかよっ!」
「おっと、そうだった。よし。んじゃ気を取り直して…と」
「取り直すなぁっ!!」
言葉と共に、トッシュが緩んでいた面差しを真面目に取り繕う。
抱いていたエルクの躰をそのままに、更に自身の方に引き寄せて密着させると、腕の中でエルクの躰がお見事に硬直したのが分かった。
「お? 感心感心。素直に受け入れる気になったみてぇだな」
「だ、だだ、誰がっ……!」
誰もそんな事言ってねえ! と声にならない叫びを眼で訴えるが、エルクの気持ちはトッシュには届かなかったようだ。
「つー訳で、良い子のお前にご褒美をやろう」
「そ、そんなもの要らんっ!!」
音無し扇風機と化したエルクの無駄な抵抗をやはり楽しげに押さえて、トッシュが再びエルクに顔を近付けた時。
「んー? 熱烈な歓迎を受けたんじゃねえのか? こういう風によ」
「うわっ! ちょっ…ト、トッシュっ」
強引にトッシュに腕を取られたかと思うと、エルクの躰はひょいっとトッシュに抱き上げられていた。
「ば、馬鹿っ、下ろしやがれっ」
「おう、冷たい言い草だねぇ。やっぱアークじゃないと嫌ってか」
「だ…誰もそんな事言ってねえだろ…」
「ふーん? んじゃ、このままでも良いって事だな」
「そっ、それも困るっ」
トッシュに横抱きにされたエルクが慌てて逃亡を計るが、逞しい腕の力がそれで緩む筈もなく。
にやにやと面白そうに笑っているトッシュを前にして、その体格さ故に縮まる事のない力の差を噛み締める事しかできない自分を腹立たしく思うと同時に感じる、その恥ずかしさ。
訳ありで免疫が薄れている為とはいえ、エルクにとって男の自尊心(プライド)に関わるこの態勢と言うのは物凄く照れるのである。
意識した途端、エルクの顔が湯気が出そうなくらいに真っ赤になった。
「お前……その反応全然変わってねえな。と言うか昔と全く変わってねえとしたら…」
「な、何だよ?」
ふーん、と漏れたトッシュの声に、エルクがぎくりと躰を固まらせた瞬間、トッシュが何かを含んだ光を瞳に湛えてエルクの顔を覗き込んだ。
「そういえば覚えてるか、エルク?」
「な、何を」
「むかーしよ、アークがいない時に続きをやろうって約束したのを覚えてるよな? エルク」
「約束?」
何か約束したっけ? とエルクが小首を傾げる。
この戦いが終わったら一緒に酒を飲もうぜ、と言う約束をトッシュに無理やりさせられた記憶なら覚えているが、その約束は三年の月日を経て、漸く果たされたばかりである。
が、記憶を遡っていたエルクが、はっと何かを思い出したように慌ててトッシュを振り仰ぐと、その様子を見たトッシュが故意に唇の端を上げて言った。
「その様子だと思い出したようだな。全く、忘れられてたらどうしようかと思ったぜ」
「ば、馬鹿野郎っ! あれは約束したんじゃなくて、お前が勝手に言ってただけじゃねえかっ!」
「言ったんだから約束したも同然だろーが」(※『紅蓮の貴石』参照)
「何でそうなる!? って、うわっ、馬鹿っ! 顔を近付けるなぁっ!!」
「照れるな照れるな。やっぱり据え膳は食わねえと男が廃るからなぁ」
「だーっ!! 据え膳って何を勘違いしてんだよーっ! その前に俺は約束なんかしてねえーっ!!」
やっぱりと言うか、エルクの抵抗などお構いなしにトッシュがエルクの顔に自身の顔を近付けてくる。
――が。
何故か唇が触れる寸前で、トッシュが不意にぴたりと動きを止めて顔を離したのだ。
片方の眉をひそめているトッシュの顔を、エルクが驚いて見る。
「トッシュ?」
「…妙だな」
「え?」
「いつものパターンなら、そろそろ現れてもおかしくねえんだが…。流石に今夜ばかりはお休みかい」
「なっ…」
当てが外れたような、肩透かしを食らったようなトッシュの表情に、エルクの感情が怒りと羞恥で一気に爆発した。
「あ、あんたなぁ、俺で遊ぶのも大概にしろっ! じゃなくて、良いからとっとと下ろせ、馬鹿野郎っ!」
「じゃあ、遊びでなければ良いのか?」
「当たり前だ! 遊ばれる身にもなって――えっ!?」
再び暴れ出すエルクの耳元に紡がれた、トッシュの低い声。
さらりと、聞き捨てならない文句を噛ました当人の口調は普段と変わらない。けれども、楽しげに輝かせたその眼差しを見て取って、暴れていたエルクの顔が途端に引き攣った。
「よし、分かった。本気でチュウしてやるから、大人しく受け入れろ」
「いーやーだーっ!! 思いっ切り遊んでるじゃねえかよっ!」
「おっと、そうだった。よし。んじゃ気を取り直して…と」
「取り直すなぁっ!!」
言葉と共に、トッシュが緩んでいた面差しを真面目に取り繕う。
抱いていたエルクの躰をそのままに、更に自身の方に引き寄せて密着させると、腕の中でエルクの躰がお見事に硬直したのが分かった。
「お? 感心感心。素直に受け入れる気になったみてぇだな」
「だ、だだ、誰がっ……!」
誰もそんな事言ってねえ! と声にならない叫びを眼で訴えるが、エルクの気持ちはトッシュには届かなかったようだ。
「つー訳で、良い子のお前にご褒美をやろう」
「そ、そんなもの要らんっ!!」
音無し扇風機と化したエルクの無駄な抵抗をやはり楽しげに押さえて、トッシュが再びエルクに顔を近付けた時。